第三十九話
目をゆっくりと開ける。体を起こそうとしても動かない。変に思って手を動かしてみる。とてつもなく重い。隣の緒方を見れば、穏やかに眠っている。まだ早い時間なんだろうと、神埼は目を閉じた。次の瞬間、目を開けるとそこには緒方がいた。自分のほほを撫でながら心配そうに見ている。読みかけの本とコーヒーが机の上に置いてある。「。。緒方?。。」呼びながら体を起こそうとした。しかし、動かない。かろうじて頭は動くものの、手も足も動かない。強烈な眠気がする。「神埼くん。お腹は空きませんか?もうお昼過ぎですが。。。」もうそんなに経っているのか。風邪を引いたときを思い出して、神埼は無理矢理体を起こそうとした。そんな様子を察したのだろう。緒方は慌ててそれを止める。「無理をしてはいけません!体の声を聞いて尊重してください。」大切な体ですから。目が覚めた神埼を見て少し安心したようだ。緒方が笑いながら神埼の頭を撫でている。大切な体なの?と聞くと、体は大切です。心も大切です。と返ってきた。「眠いのなら寝てください。いくらでも。お腹が空いたら起きてきてくださいね。」そして、また頭を撫でた。なんで俺、こんなに眠いと思う?理由もないのに。理由がないと納得しないだろうと訴える神埼に、眠いものは眠い、それで十分です、と答えた。「体と心のしたいようにするのです。そこに理由なんてありませんよ。後で辛くなるのになぜわざわざ無視するのですか。」だいたい、神埼くんは自分に厳しすぎます。今日はお休みなのですよ。それにすぐそばに私がいるのです。あなたはしたいように、感じたように、あるがまま私に伝えればいいのです。理由なんて考えるとは。。。まだまだですね。神埼を見ながら今度は楽しそうに笑っている。そういえばお前は先週の土曜日、一日中寝てたもんな。。。眠気と闘いながら神埼は先週の緒方を思い出していた。あれはすごかった。イビキもかかずに布団のなかにうもれて起きてこないから、大丈夫かと思ったが。夜突然起きてきて、謎が解けました!!と叫びノートに何かを凄まじいスピードで書いていた。そのあと朝御飯の残りと晩御飯をきっちりと食べ、その謎の解答を自分に熱く語ってくれた。さっぱりわからなかったが。「。。緒方。。寝る。。またなー。。」少し動くようになった手を軽くふって、神埼は目を閉じた。体と心のしたいように。ゆっくりと委ねて、まかせよう。こんな風に寝るのは初めてだなぁと思いながら、いつの間にか意識を離した。今日は風が強い。窓の外を見ると雲が大きく流れている。ぐっすりと眠る神埼を見て、緒方は生きて乗り越えられない厳しい冬を、しっかり蓄えゆったり眠って越す熊のようだとひそかに笑った。「怒ると強いですしね。」この可愛い熊がぐっすりと眠れることを祈る。晩御飯は確実に肉を用意しよう。冷蔵庫の中身をあれこれと思い出しながら、緒方はメニューに考えを巡らせた。冬眠後は何が良いだろうか。外は激しい風が吹いていて、窓に打ち付けている。どんどんひどくなっていく風に、神埼の勘は凄いなぁと感心しながら緒方は神埼の頭を撫でた。




