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常識くんと愛さん   作者: ニケ
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第四話

神埼は緒方に憧れていた。緒方を見ていると、胸の奥がじりじりする。まるで、見たくないものを見せられているような。ずっと心の奥底で求めていたものを目の前に置かれたような。決して、届かないもの、自分には手に入らないと諦めたものが当たり前にあるような。そんなじりじりとしたものを感じた。緒方を見ていると、涙が出る。この涙の意味を、中学三年の神埼にはわからない。自分がなぜ泣きたくなるのか。そして、緒方を見ていると、辛いはずなのに、どうして目を背けられないのか。気づけば目で追っている。見つけると心のどこかが嬉しさで踊っている。必死に否定するが、どうしても心が求めてしまう。自分の心の痛みが苦しいのに、どこか心地よい。長い間、秘めていた大切なものを見つけてもらえたようで。もう自分は、自分であることを許してもらえそうで。学校から帰ってきた神埼は、家からの罵声に肩をすくませた。この殺伐とした中に入っていかなければならない。早く大人になりたい。大人になれば、一人でなんでも好きなようにできる。親に頼らなくても生きていける。「どこに行っていたんだ!!まだお前は中学生だろう!こんな夜遅くまで!そんな暇があったら、勉強しろ!!お前のために俺は苦労して、嫌なことも我慢して仕事いってやってるんだ!!お前にそれがわかるか!」自分の部屋へとさっさと行こうとした神埼の肩を掴み、強引に体ごと向かせる。神埼にとって夜は長い。やっと解放されたときには、体のあちこちが強張って、なのに頭は妙に冴えていて。その感覚が当たり前だったから。神埼は何も気にせずそのまま布団へと体を滑らせた。息が苦しい。特に胸の辺りが。よくわからない。同じことじゃないか。もう慣れたはずなのに。痛みなんて、こうやって布団のなかでうずくまり、ぼんやりと過ごせば、なかったように鎮まる。別に暴力を振るわれたわけじゃない。こんなことよくあることだ。自分は運が悪いのだ。明け方になって、起きなければならないなぁと神埼は窓の外にぼんやりと目を向けた。暗闇から少しずつ明るくなって、大好きだった夜が終わる。ああ、また生命が起きて活動し始める。やっと胸の痛みが収まったのに。いつものようにだらだらと準備をする。神埼はこのだらだら感が好きだった。誰も自分を自分として許してくれない。今の自分は、どうやらダメらしい。それでも、だらだらとしている今の自分は、なんだかそれでもいいと許されているような。誰も許してくれなくても、一人でいる時間はゆっくりとできる。好きなように感じて、好きなように行動できる。神埼は一人が好きだった。学校に行っている間は、親からの干渉もなく、のんびりと過ごせる。一人でいるならば。神埼は一人が好きなので、人付き合いはあまりしない。気分によっては挨拶をすることさえ、億劫でひどく疲れる時もある。屋上で一人のんびりと過ごすか、机の上で寝ているか。朝は布団から起きて学校に行ってしまえば楽だ。夕方になって、学生が帰った後の学校の静けさも楽だ。夜、どうしても寝るために帰らなければならないのがたまにキズだけど。神埼は神埼なりにこの学生ライフが気に入っている。緒方には、気になる同級生がいる。その同級生はいつも一人でいる。授業中は真面目に聞いているようだが、休み時間になると、死んだように机の上でぐったりとしている。寝ている、というよりは、安心できず気を張っていて、疲れ果てて力尽きたような。ここは安全なのに一人で気を張っていて、まるで大きな荷物を背負って、それでも前を向いて歩いて行くような。そんな切羽詰まったものを彼からいつも感じていた。なぜそんなにも警戒しているのだろう。ここは安全なのに。誰も攻撃などしないのに。彼を見ていると、なんだか自分たち同級生が信頼されていないように思う。いつでも自分たちが彼を攻撃して、彼の安全を脅かす存在であると彼に言われているような気がする。それは、緒方にとっても不安で、どこか怒りにも似た感情が湧いてくる。自分たち同級生は、少なくとも自分はそんな風に彼を扱いはしない。攻撃など、しない。そんな彼の人への不信感はなんとなく、伝わるもので。彼はいつも孤立していた。

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