表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
常識くんと愛さん   作者: ニケ
34/319

第三十四話

神埼と手を繋いで帰り道を行く。白い息が二つ、吐いては消える。繋いだ手と手が熱い。少し汗ばんでいるかもしれないが、緒方はこの手を離したくはなかった。周りはもう暗く、こんな暗闇のなかで神埼があのアパートに一人で帰るなんて耐えられない。なんと言われようとも今日は神埼のアパートに泊まる。緒方は夕方、教室での神埼を見て決意していた。自分はいつ神埼を不安にさせていたのだろうか。あのずっと一人でいた時の、儚い、悲しい、寂しそうな雰囲気をそばにいる神埼から感じて、緒方は自分を問い詰めたい気分になった。一人にしないようには、していた。しかし神埼のこの様子を見る限りそれは、しているつもりだったのだ。いつ、自分は神埼のサインを見逃したのだろう。あれだけ気をつけていたのに。元気に相談をして、自分の気持ちに決着がついて。油断していた。浮かれていたのだ。自分の気持ちをはっきり認識するのも大事だが、神埼も大事だ。大事なものを守れないなんて。緒方は神埼の手を強く握りしめた。「緒方。。怖い顔してるぞ。暗闇でもわかるんだからな。」そんな緒方の様子に何かを察したのだろうか。神埼が少し笑いながら話しかけてくる。その笑顔はふわっとしていて、やはりどこか儚い。きっと、そう根詰めるなと伝えたいのだろう。繋いだ手をそっと握り返した。神埼が好きだ。どうしようもなく。こんなに綺麗で、こんなに純粋で。相手が傷ついていくくらいなら、自分が傷つく道を選ぶ。それなのに、その傷を黙って一人で抱えていくのだ。そんな優しくて、強くて、壊れそうな神埼が好きだ。守りたい。いや、そばにいたい。ずっとそばにいてほしい。自分のそばで、その苦しみも悲しみも寂しさも。全部全部、自分に預けてほしい。分けてほしい。手を繋ぐだけでは足りない。緒方は隣で歩いている神埼の手を強く引いた。その衝動で神埼は緒方の胸に体が当たる。そのまま緒方は神埼を抱き締めた。こうすれば、神埼の想いを分けてくれるだろうか。自分を頼ってくれるだろうか。頼ってほしい。辛いとき、苦しいときもそうだが、楽しいとき、嬉しいときも自分を思い出してほしい。話がしたいなと思ってほしい。抱き締めたまま身動ぎがない。驚いているのだろう。神埼の体は固まっている。その体のまま緒方は神埼をさらに強く抱き締めた。「神埼くん、好きです。ずっとそばにいてください。」緒方と神埼の身長差はちょうど7センチ。健康診断のとき神埼はそれが気に食わないのか、身長を聞いたときに緒方の頭をジャンプしながら何度も叩いていたけれど。今、神埼の頭は緒方の胸にすっぽりと収まってしまっている。「ずっと、そばにいてください。」それは自分の願いであり、希望でもあると緒方は思う。未来はわからないし、自分の幸せなんてわからない。確信も保証もない。だからこそ、自分は自分の心のまま、これからを歩みたい。この大きな世界を神埼と一緒に歩みたい。鼻をすする音がする。抑えぎみな微かな息づかいがする。そっと神埼を自分の体から離すと、緒方は神埼の顔を覗きこんだ。睫毛が静かに下を向き、月の光で光っている。キラキラしていて、とどまることを知らないかのように。「好きって言ってください。。私のことを。ずっとそばにいるって。」言ってください。言葉を催促するように緒方は神埼の涙に何度も口づけた。あなたが大切だ。愛しい。こんなにも。言葉で伝わらないのなら、この温もりで伝わるといい。温もりで伝わらないのなら、自分は何度でも伝えよう。緒方は神埼をもう一度強く抱き締めた。しばらくして神埼の泣き声が聞こえてきた。神埼のアパートへの道は明かりが少ない。雲が多いときは真っ暗闇になる。でも、そこに神埼がいれば。緒方は神埼の温もりを感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ