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常識くんと愛さん   作者: ニケ
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第三十二話

やっとのびのびと体を動かせる。長く続いた病院での研修も終わり、元気は体を大きく伸ばした。ここ2週間は家へと帰っていない。まるで2週間丸ごとタイプスリップしたかのようだ。元気は家への道を歩きながら、懐かしい思いで周りを見渡した。人の記憶というものは、こんなに短時間でも消えてしまうのだろうか。ぽつぽつと生えている雑草や花や、道端の看板を見ながら元気は首を傾げた。その時携帯が大きく存在を主張する。弟の愛からだ。「お久しぶりですね。元気でしたか?研修が終わって今から帰るところなんですよ。」緒方からの電話に嬉しくて声が弾む。家族の様子を知りたいと思い携帯からの声に耳をすませた。しかし、その声は少し沈んでいる。どうしましたか?と聞きたかったが、緒方が自分に電話をかけてくるときは、家族に知られたくないことがあるときで。元気はしばらく考えると、緒方に提案をしてみた。「愛。外に出てきませんか?あの公園で肉まんでも食べましょう。」あの公園。小さい頃自分と愛が家を抜け出して二人で空を見上げていた公園。父と母が兄とともによく外出していたとき、二人でいた公園。あの頃はどうして自分たち二人を置いていくのか、わからなかったけれど。祖父の家で必死に自分たち二人を守っていたんだろうなと思う。「。。。はい。。。」携帯からの声は暗い。何かあったのだろうか。神埼とは仲良く毎日学校へ行き、一緒に帰ってくるらしい。時々、緒方は神埼のアパートに泊まり、休みの夕方緒方家に晩御飯を食べに来るとも。だから、元気はとても安心してよかったなぁと思っていたのだが。とりあえず会えるのだから良しとしよう。元気はいつものあの公園へと急いだ。近くにコンビニがある。なんとなくこれは長く時間がかかるなと直感し、多めに買っておく。母に電話をして元気は緒方を待ち続けた。しばらくして緒方がやってきた。自分を見つけて駆け寄る。その顔はどこかほっとしたような、安堵した表情だった。買ってきた肉まんを渡す。空を見上げてながらのんびりと二人で食べた。何かあったのか。という自分の問いに弟は口を開こうとしない。下を向いて黙っている。久しぶりに会えた弟は、どこか男らしくなっていた。体格はそのままだし、最後に会った日から2週間くらいしか経っていないので、なんとも不思議な感覚だ。落ち込んでいる理由はそこにも絡んでいるのではないかなと元気は思う。緒方が下を向いていることは珍しい。言いたいことは言うし、子供っぽいとわかっていてもありのままを伝える。今までの元気から見た弟の姿だった。よっぽどのことがあったんだな。。。肉まんばかりでは飽きるだろうと買ってきたピザまんを元気は一口頂く。トマトソースが美味しい。弟が言い出すまで待っていよう。今日は話さなくても、またこうしてのんびり空を眺めていよう。冬の空が綺麗で美しい。元気はのんびりと空を見上げていた。「あ、あの。。!」意を決したように緒方が元気の方を見る。どこか焦れていて必死な目。何かを抑えているような目だ。元気はそんな緒方を優しく受け止めた。穏やかにその先を促す。一呼吸置いてから緒方は叫ぶように言葉を吐いた。「神埼くんが可愛すぎるんです!!!」。。。?弟の言葉を頭のなかで繰り返す。。。神埼くんが可愛すぎる。。。何度も繰り返してみた。しかし、元気の思考を緒方は待ってくれない。すぐ次の謎かけがやってきた。「神埼くんが可愛いのは。。!ずっと一緒にいてわかっていたことですが。。っ。。この頃はとてつもなく。、!可愛くて。。!」思い出すように下を向いていた目を今度は元気に向ける。夕日のせいだろうか。顔も目も、何もかもが真っ赤だ。「。。神埼くんといるのが、とても温かくて、安心して。。でも、この頃はそれだけじゃないといいますか。。。」顔を振ったり、手を当てたりしてなんだか大変そうだ。「とにかく!!一緒にいて、辛いんです!!」。。。これは。。。もしかして。。。元気はどうしようかなぁとぼんやり思った。男っぽくなるわけだなぁ。。。うーむ。。こういうときは、本人がどうしたいかを聞いた方がいいかもしれない。とても辛そうだ。その姿から緒方は、自分が本当はどうしたいのかわからなくて混乱しているようにも見えた。元気は、自分が医者になることに疑問をもった時期がある。周りの同級生はそれぞれしたいことや好きなことを探し、没頭しながら果敢に挑戦していた。その姿がとても美しくて。自分には無いものだと思ったから、本当に自分が医者になりたいのか葛藤した時期もある。その時、自分が本当にやりたいことがわからないことは、こんなに辛いものかと思い知った。弟にはそんな思いをさせたくはない。いつでも、何に対しても自分のやりたいことから目を背けず、葛藤して自分の答えを見つけてほしい。「愛。。愛の気持ちは受け取りました。では、愛自身はどうしたいのですか?今の状況で一番何がしたいです?」その問いに元気を見て、ぴたっと止まる。おもむろに深く考えて緒方は言った。「神埼くんと手を繋ぎたいです。」その言葉に、二人とも目を丸くして顔を見合せて笑った。簡単なことだったんですね。笑いながら肉まんを一気に食べてゆく。無邪気に笑いながら、大人になっていく弟の頭を元気はゆっくりと撫でた。

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