第三十話
神埼と一緒に学校に行く。それだけで緒方は満足だった。神埼が一人でいることよりも、人といることを選択したこと。自分は神埼が学校で一人でいて悲しむところを遠くで見なくてすむこと。そして、何かあったらすぐ知ることができること。緒方は心がぽかぽかしていた。「今日はなんだか温かいですね。心地よいです。」あまりにもにこにこしていたのだろう。神埼が吹き出した。それは良かったな。穏やかな返事が返ってくる。「まだ1月なのに、こんなに温かくなるなんて。あっという間だ。」神埼は優しく笑っている。そのにこやかな顔をそっと風が撫でていった。空が美しい。澄みわたっていてどこまでも続いている。学校に着き、教室の前に立った。神埼の言う通り変に思われるだろうか。もし、そうでも自分は構わない。やっと話しかけたい人物に話しかけ、彼が一人より二人を選んでくれたのだ。何があっても構わない。神埼を見ると、少し下を向いている。緊張しているようだ。自分がしっかりしなければ。。!緒方は緊張しながら教室の扉を開いた。教室に入ると一気に視線を感じる。学校を2週間近く休んだ上に急に神埼と一緒にいるのだ。当たり前か。緒方はそっと息を吐いた。人のなかにいた自分よりも、ずっと一人だった神埼の方がこの状況は辛いだろう。彼は誰かの迷惑になることにとても敏感で、すぐ遠慮して去ってしまう。周りからの視線やどう思われるかよりも、緒方にとってそれが怖い。また一人でいることを選ぶのではないか。クラスメイトからの視線を受けながら、緒方は神埼を連れて自分の席についた。そして、神埼に話しかけようとした。その時、「緒方、神埼、大丈夫か?」クラスメイトの一人が話しかけてきた。それをきっかけに次々と話しかけてくる。「体はもういいのか?」「めちゃくちゃひどい風邪だったんだろ?」「この頃、急に寒くなったもんなぁ。」「あんまり無理するなよ!」四方八方から声が飛び交う。緒方はどこからどの声がやってきたのかわからず顔をきょろきょろと動かした。わからない!多すぎる!神埼を見ると、珍しく動揺している。「これ、ノート。休んでた分ね。」可愛らしい女の子二人が渡してくる。「すっごく心配したのよ。緒方くんは丈夫そうだからともかく。。神埼くんは繊細そうだから。」その言葉に周りのクラスメイトはうんうんと納得している。「緒方くんのことは、あんまり心配しなかったわ。どうせ、変なものでも食べて、へばってるんじゃないかってみんなで話していたの。でも、神埼くんは繊細そうでしょ。大丈夫かなって。みんなで心配になって先生に聞いてみたの。そしたら、緒方くんのお母さんが。。。」。。。ん?。。お母さん?。。緒方は先ほどから温かいクラスメイトの言葉にほんわかしていたのだか。なんだか聞きたくない言葉が出てきた。「緒方くんのお母さんが、神埼くんも風邪をひいて寝込んでいるから、一緒に看病してるのって。だから、一人じゃないっておっしゃって。」「私たち、安心したのよね。」女の子二人がお互いに頷きあっている。「だから、緒方くんと神埼くんは今、大切な時間を過ごしているから、見守っていてくださいねって。私たちそれを聞いて、ああ、そうかって納得しちゃったの。」。。大切な時間。。。「何か困ったことがあったら、私たちでサポートしようって。先生とクラス全員で話し合ったのよ。きっと助けを求めて来てくれるって信じようって。」なんでもないことのように言う。体は大丈夫なの?また辛いことがあったら、今度は相談してよね。二人は必死に自分と神埼に伝えてくる。そのあと他のクラスメイトたちも、何かあったら言えよな。体育はしばらく休めよ。などと伝えてくる。なんだろう。この温かさは。前から付き合っていて温かいクラスだと思っていた。誰かが苦しそうならすぐ誰かが付き添うような。そんな目に見えない温かさに包まれているクラスだった。忘れていた。神埼の方を見る。神埼は今起こったことが信じられないかのように呆然としている。神埼くん、辛いこともあるけれど、こんなにも温かいものもあるんです。私と一緒にゆっくり歩んでみませんか?緒方は神埼に心の中でそっと問いかけた。窓から温かい光が差し込んでいる。今日は一日晴れのようだ。柔らかい優しい光が教室を包み込む。今日も新しい一日が始まってゆく。先生が朝の点呼にやってきて、二人を見て嬉しそうに笑った。やっと、クラス全員揃ったな。その言葉にクラスメイトは皆笑った。




