第二十七話
長い大きなトンネルを一人で走り続けていた。走って走って。力の限り走って。ようやく抜け出したと思って軽くなる。周りが明るくなって、やっと自分はこのトンネルを抜けてたどり着いた。もう苦しむことはない。そう思ったのにいつのまにかまたトンネルのなかに一人でいる。苦しくて、悲しくて。いつまでこれが続くのか。走るのが辛くて。足を止める。ずっと一人だった。誰かに相談しても、わからないと言われる。この苦しみや、目の前のトンネルのことを話しても、何を言っているんだと責められる時もあった。心が苦しくて、満たされなくて。この心の感じるまま伝えても、つまらなそうに迷惑そうにされた。だから、一人でこのトンネルを走り抜けることを決めた。きっと、このトンネルを自分以外に話したら迷惑がかかるんだ。ならば、一人で切り抜けよう。きっとできるさ。他に方法がないんだから。周りに自分は助けを求めた。求めても求めても得られないのなら仕方がない。この状態でやるしかない。ないものを求めるより、今ある状態でやってみよう。走れるまで。できるところまで。このトンネルをずっと走り続けた。神埼は自分と周りとは徹底的に違う部分があることに気づいた。自分のこの胸にある空虚感。何もなくて、空っぽな。自分の心に何かを伝えてみても、語りかけてみてもなにもない。まるでブラックホールのように全てが吸い込まれていく。真っ黒で底とかわからなくて、何もかも飲み込んでしまうような虚無。穴。周りの人もこれをみんな持っていると思っていた。だけど。話してみて、よく見てもこの虚無を持っている人は誰もいなかった。みんな心の奥には満たされているものがある。積み重ねられていて心を満たしている。その温かいものが心の奥から溢れ出てその人をしっかりと支えている。一時期、その目に見えないしっかりとした温かいものがほしくて、たくさん助けを求めたけれど。考えられる方法を自分なりにやり尽くしたけど。得られなかった。周りの誰もが守られている。自分は周りと違うようだ。神埼は目を細めて笑った。周りのその人を支えているものが眩しい。羨ましい。自分はどうやったらそれを手に入れられるのだろう。何をしたらいいんだろう。あれだけやり尽くし、諦めたのに。また心が求める。こんなに未練がましいんだな。神埼は満たされている人たちをのんびり見やった。かちゃかちゃと音がする。遠くで水の流れる音がする。瞼が重い。その瞼をゆっくりと開けた。ここはどこだろう。あの不思議な空間だろうか。しばらくして頭がはっきりとしてきた。よく見ると天井だ。いつもの天井だ。人の気配がして、神埼はその人物に目を向ける。その人物は神埼の視線に気づき、その視線を優しく穏やかに受けとめた。「お腹がすいたのですね。今日は椎茸で出汁をとってみました。」かちゃかちゃとまた同じ音がする。なんだか優しい。優しくて心が満たされていく。そんな音だ。「熱いですから。口を大きく開けてくださいね。」自分の口にれんげを持ってきた。。。恥ずかしい。。だけど。嬉しい。神埼は大きく口を開けた。味はどうですか?緒方の声が聞こえる。美味しいことを伝えたくて、笑ってみた。そんな自分を緒方は穏やかに見つめている。なんだろう。自分はもうこれだけで生きてきて良かった気がする。あの時、トンネルを前にして、もうやめてしまおうと思ったとき。それでも、諦めてたまるかと最後の決断を見送った。最後の自殺という決断を見送った。もう一度走り続けて、駄目だったら諦めよう。自分は自分なりに力を尽くしたから。そう決めていた。「緒方。。。もう一口。。」大きく口を開けておかゆをねだる。緒方は嬉しそうに笑った。




