第二十話
神埼のアパートに着いた。真っ暗でよく見えない。携帯の明かりを頼りにとにかく走ってきた。あばらの辺りが痛いが、今は構ってられない。確かここだったはず。先程訪れた場所だか、神埼と一緒にいたときより、寂しくて暗い。こんなところに一人で暮らしているなんて!神埼のことは好きだ。だが、こういうところが水くさい。何で自分を頼らないんだ!苛立ちのような、焦りのような、とにかく神埼の顔が見たい。階段を駆け上がっていく。「神埼くん!!」電話をかけ、鍵を開けてもらった。「。。ごめん。。緒方。。、夜中に、わ」るいと言おうとした。「寝ていなさい!!」腕を強く引っ張られる。そのまま布団の上に寝かされた。体温計を腕に挟まれ冷やし枕を置かれる。気持ちがいい。少し楽になった。まさか来てくれるとは。電話登録が嬉しくて、携帯で電話をしてみたかった。緒方の声が聞ければそれでよかったし、心配させるとは思ったがどうしても聞きたかった。緒方は何も言わず、体温計を取り出した。目盛りを見て顔をしかめている。そんな緒方を見ていると急に眠気が襲ってきた。体温計を仕舞い、上布団をしっかりかけると、緒方は神埼の頭をゆっくりと撫でた。その顔は怒っているようにも、悲しんでいるようにも見える。不思議だ。今まで自分が病気をして具合が悪そうにしていると、めんどくさそうに煙たがれたのに。熱を出して寝ていたときも、父親からは、サボりたいだけだろう!と怒鳴られ学校に行かせられたし、お前は休めていいな。社会に出たらこんなのは通用しないんだぞ。この甘ったれが。と散々責められる。だから、具合が悪くても家には帰らない。学校で寝ていれば治るから。熱を出すのは、久しぶりだ。両親と暮らしていたときは全く病気をしなかった。どうして熱が出たんだろう。こうやって迷惑をかけるだけなのに。何度も何度も頭を撫でている。緒方のぬくもりが心地いい。このまま眠ってしまいそうだ。誰かがそばにいて、こんなに安らぐなんて。心に閉まっておいたはずの痛みがうずき出す。痛い。心が。痛い。でも、心地いい。緒方は、焦点が合わなくなった神埼の目をずっと見ていた。その目からとめどなく雫が流れていく。どうして、どうして、一人にしたんだ。神埼のまぶたが静かに閉じて、安らかな寝息が聞こえてきた。それでも、神埼の涙は止まらない。どんどん流れていく。胸が痛い。苦しい。それが何故なのかわからない。でも。このままこの痛みを味わっていたい。どうして、一人にしたんだ。止まらない涙を見て緒方は思った。流れてしまえ。悲しいものなんて。寂しい思いなんて。どんどん流れて、なくなってしまえ。暗闇を光が癒していく。穏やかに、静かに。夜明けがきてゆっくりと明るくなっていく。神埼は目を閉じて眠っている。緒方はそっと神埼の顔のそばに寄り添った。朝がくる。夜があるなら朝がくる。朝はくるんだ。




