第十九話
バタバタと上から音がする。まだ夜明けは遠い。パジャマを着替えてその辺の服を掴む。コートを乱暴に羽織って台所へと向かった。風邪には何がいいのだろう。そうだ。おかゆ。そして、梅干し。その前に、体温計と冷やし枕と。ああ!時間が惜しい。食料は後でいいとしても、一番必要なものとはなんだろう。緒方家は、あまり病気を寄せ付けない。「全く!病人の気持ちがわからないなんて!医者の家系なのに!」がたがたとあさって、やっと冷やし枕を見つけた。あとは、体温計だ。まだ周りは暗い。父を叩き起こしてやる。昨日、父は神埼が帰ってしまったことをとても悲しがり、大きな駄々っ子になってしまった。「母さん!母さん!あの子はまだ高校生なんだよ!?うちの愛と同じ年なんだよ!?なのに、なんで一人でいるの!?不憫だー。不憫だー。」終いには、神埼を送ってきた緒方に、「お前は愛だろう!俺と母さんの思い出が詰まっている愛だろう!なーぜーにー神埼くんを一人にしたんだー!お前は愛ではない。愛ではない。お前はただの、名前だけの愛だー!!」肩を掴まれて、激しく上下に揺さぶられた。よ、酔う。気持ちが悪い。元気はハラハラと見守り、勇気は、うーん、愛が悪いかなー、としみじみ納得している。母に至っては、もう!お父さんったら。私との思い出だなんて。。子供たちの前なのに。。。頬に手をやり、照れながらうっとりしている。絶対、父を起こしてやる。やるなら今だ!!神埼から風邪をひいて動けない、という電話をもらった。携帯の番号を登録しておいて本当によかった。さっき、一人にはしないと決めたのに、何もできずに、また一人にしてしまう。大切なものが自分の知らないところで苦しんで傷ついていく。悲しくて、悔しくて、たまらない。いっそ、何も言わずに、そばにいてほしい。神埼が風邪だから、見舞いに行きたい。温度計を持っていくから探してくれと父に頼んだら、なぜ、お前は神埼くんの体調を見抜けんのだー!!と投げられた。母から体温計を受け取ると暴れまくる父に足蹴りをして、家を飛び出した。父にはいつか絶対やり返してやる。今は神埼が先だ。緒方は分け目もふらず神埼のアパートへと向かった。




