第十七話
家事をきちんとできるようになって、勉強も10番以内に入れたら、緒方に声をかけよう。そんな自分になれたら、自信がつく気がする。自分に価値がないなら、作ればいい。今よりも努力してできる自分になろう。そう思うとこんな自分でも、何かできる気がする。わくわくする。神埼にはそれしかなかった。彼は誰かに頼ることも、甘えることも知らない。学校から帰って、ご飯を作り勉強をし、夜中にふとんのなかに潜る。この頃はよく眠れない。やっと一人になって、ゆっくり眠れるはずなのに。真っ暗闇が、少しずつ明るくなっていく光景を神埼は何度も見た。どうして満たされないのだろう。大きな壁である両親はいない。両親とさえ距離ができれば全部満たされるはずなのに。妙に怠くて、何もしたくなくて。でも緒方のことを思うと、学校へ行きたい。どうしても緒方に会いたい。人恋しくなる冬が来て、緒方が声をかけるのは、努力しても何もできない自分に絶望し、それでも緒方に会いたいと学校へ行く。無気力で、ぼんやりとした神埼だった。「グラタン、どう?お口に合うかしら?」母はにこにこ笑っている。自分よりも神埼に対する方が母は優しい。。。断然、優しい。神埼を連れてきて、緒方が驚いたのは母と一番上の兄、勇気の慈愛に満ちた笑顔だ。そんな心に響く笑顔を緒方は知らない。いったいこの二人はどこに隠していたのだろう。ずっと一緒に暮らしてきたじゃないか!寒かったでしょう。早く中に入って。その母の声が違う。優しい。。包み込むような温かさだ。次元が違う。やっぱり侮れない。。自分はこの二人にはこのまま全戦全敗で終わるのか。何か対策はないのか。がっくりと肩を落とす緒方に、状況を察した二番目の兄、元気がそっと耳打ちをした。「フォーローしますから。そんなに落ち込まないでください。」緒方の背中をさする。負けっぱなしの弟が痛々しい。緒方と母、勇気の勝負は始まったばかりである。




