第十六話
グラタンが思いの外、美味しい。きっとこの人たちと食べているから。神埼の両親は離婚している。家には誰もいない。神埼が中学を卒業すると同時に、両親は離婚した。父親は仕事を辞めている。親権はどちらも放棄して、親戚のなかで話し合いが行われたが結論が出ず、神埼自ら一人暮らしがしたいと申し出た。神埼自身、早く独り立ちしたいと思っていたので、ちょうどよかった。自分には価値がない、ということだろう。ずっと両親の干渉を受けてきた神埼にとって、それはいっそすがすがしいものだった。金銭面は心配だが、貯めておいたお金もある。それに、親権を放棄したといっても、世間体と法律上の不都合から両親は神埼にお金を渡した。それで、二度と来ないで頂戴。母親から言われた。無理もない。この母親は父親の後妻で、神埼は父親が前の母親と不倫してできた子供だ。親戚からの風当たりも強い。一人になれるとわかった神埼は、初めて新しい部屋に入ったとき、精一杯背伸びをした。これからは、一人で生きていく。ひとつ夢が叶った。ひょんなことから、神埼のもうひとつの夢も叶う。ずっと緒方と話がしたかった。一時だけでもいい。話してみたい。しかし、どうしても怖い。声をかけようにも、どうすればいいかわからない。失敗して気まずくなるのは、もっと怖い。神埼はどうしようもなかった。一人暮らしを始めて、肌寒くなってきた。急に寂しくなる。家に帰っても誰もいない。ご飯を自分で作っても自分がそれを食べるだけだ。しーんと静まり返った部屋にいると、安心する半面、寂しくなる。誰でもいいからそばにいてほしい。いや、誰でもいいって訳じゃない。自分を大切にしてくれる誰か。そうだ。あんな両親は嫌だ。ちゃんと愛して、ちゃんと見守ってくれて。神埼は涙が止まらなくなった。どうしよう。一人で生きていくと決めたのに。なんて自分は弱い。もう高校生なのに。神埼は勉強に没頭した。




