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常識くんと愛さん   作者: ニケ
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第十五話

緒方が神埼を連れてきたとき、勇気は確信した。ああ、自分の弟は、恋をしている。昨日の晩御飯の後、緒方の心の奥の、あのひんやりとした冷たさが無くなっていた。こんなにも短時間で変わるものなのだろうか。緒方は、小さい頃、自分たち兄弟と一緒に祖父の家に預けられた。そこは、厳しくてひんやりと冷たくて。家族全員で祖父の家から出てしばらくたっても、あの嫌な冷たさをどこかで感じた。なぜだろう。どこだろう。あんなに嫌がっていたのに、あんなに注意していたのに。どこかで染まってしまったのだろうか。その冷たさを感じたのは、一番下の弟からだ。信じられなくて、信じたくなくて。何度も確認して、やっぱりそうだとわかったときは、悲しかった。ずっと守りたかったものを奪われたと思った。祖父の家では、可愛がられた。やっと家にやって来た孫だからと初めは思ったが、なんとなくそうではないと感じて。次は出来がよかったからかなと思った。自分は勉強もできたし、スポーツもできた。祖父は嬉しかったのだろうか。いや、そうではない。長男だから、後継ぎだから。たったそれだけだ。役割だけで可愛がられる。役割だけで貶される。その祖父の価値観が狭く居心地が悪かった。スポーツなら、元気もとてもできたし、弟ながら自分よりも面倒見がいい。カラッとしていて、余計なことは何も言わない。明るく優しい。一番下の弟である、緒方も素直に話を聞くし、落ち着いている。兄である自分よりも、ずっと大人で優しい。弟たちが大好きで大切だ。自分ばかりを可愛がり、弟たちは祖父から貶された。なんだかなんだと自分と弟たちを比べ、まるで祖父の言う通りにしないと、人としての価値はない、というように。わざと自分たち兄弟を競争させ、祖父の望むものを目指すように、祖父から仕向けられていた気がする。それは、子供心に窮屈で妙な圧力だった。高校生の自分がこんなに息苦しさを感じるのだ。まだ幼い弟たちはどんなに辛かったか。祖父に否定されて表情が暗くなっていく弟たちを見ながら、悔しくて拳を強く握った。今は逆らえないが、いつか家を出たときにはこんな思いは絶対にさせない。つまらない、理由もない理不尽な考え方で、弟たちを傷つけられてたまるか。祖父のことは好きだし、尊敬している。あれだけの人を診て、最期までその命に寄り添う。素晴らしいと思う。でも。だからと言って、人を傷つけていいわけではない。何があってもそこは譲れないし、譲らない。長い間こうやって、傷つけ傷つけられてきたんだろうか。こんな馬鹿げた家の考えは、自分の代で終わらせる。祖父は上から圧力をかけて人同士を比べ、誉めたり貶したりすることがどれだけ心を傷つけるか、わからなかったのだろう。もう習慣になっているようだ。祖父も子供の頃、このように育てられたのかもしれない。あのひんやりとした冷たさのなかで。自分は、嫌だ。豊かにそのままの命を慈しみたい。出来不出来で一喜一憂するなんて、身勝手な押し付けで傲慢だ。存在してくれる命をあるがまま、ただ温かく優しく包み込みたい。より大きい愛で。祖父の家を出て、家族で暮らしていても、弟からあのひんやりとした冷たさを感じた。表面上ではわからないが、確実にそれはある。しかも、心の奥底に。勇気は、悔しく、悲しかった。何をしてもどんなに心で祈っても、その冷たさは無くならない。緒方は、本人の知らないところで傷ついていたんだろう。優しいから、傷つきやすい。一番幼くまだ心は不安定だった。周りの状況や雰囲気に心は敏感だ。祖父の家にいるとき、元気は緒方のそばを決して離れなかった。その冷たさが緒方から無くなっている。勇気は秘かに笑った。その神埼という少年に会いたい。会って感謝を伝えたい。ありがとう。弟を温かくしてくれて。守ってくれて。

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