第十三話
神埼はぼんやりと窓を見た。今日も相変わらず寒い。いい加減に温かくなればいいのに。昨日、緒方が呟いていた言葉を思い出した。憧れの緒方と昨日、話して帰った。自分は変ではなかっただろうか。思った以上にウキウキして、とても楽だった。人と話す時は、緊張する。緊張して、全く話せないときもある。なぜ声が出ないのか、会話についていけなかった時もある。頭がボーッとしていて、視界だけがやけにクリアで。気がついたら周りに人はいなかった。話しかけなければと、勇気を出して人に近づいてみるのだがどうしても怖い。理由のない、得たいの知れない恐怖がやってくる。そして、疲れる。人がいると体が強張って、息が詰まる。一人になったとき、やっと力が抜けた。いつのまにか人とは話さなくなっていた。緒方の隣は心地よい。緒方の話すテンポはゆっくりとしていて、なんでも受け入れてくれる。初めは緊張したが、後は好きなようにしていた。可笑しくはなかっただろうか。緒方は、しきりに空へと息を吐いていて、何かぶつくさと言っていた。その横顔がふてくされた子供のようで、なんだか愛しかった。自分が緒方に恋をしていることは知っている。もう、三年越しの恋だ。いつだったかはわからないが、気づいたら目で追っていた。緒方を見ると、心が痛い。でもとても温かくて。緒方の笑顔が好きだった。なぜか、自分は緒方は優しい人だとわかっていたし、こいつなら自分を粗末には扱わないという直観があった。学校が楽しかったのも緒方がいたからだろう。名前を見たり、姿を見たり。学校へ行けば、ほっとしてゆっくりと眠れた。今日の緒方は、様子がおかしい。全体的に小さくて、何かを悩んでいるようにも見える。自分の方を見て目をそらし、また自分の方を見る。なんだろう。自分はまた知らぬ間に相手に失礼なことをしてしまったのだろうか。人付き合いを長い間していなかった神埼は、常識、というものが欠けているらしい。挨拶は気分の乗ったときにしかしない。声も掛けやしない。何を話していいのか、わからない。人のなかで育っていないので、人のなかでの暗黙の了解がわからないのである。それで、度々いつの間にか人が離れていく。その都度失礼なことをしているのだが、それに気づけるほど神埼は人付き合いをしていない。突然、不安になった。やっぱり緒方にも何かをしてしまったのだろうか。こんなとき、人は何も言わず去っていく。緒方も去っていくのだろうか。声が出なくなる。「あ、あのですね。。神埼くん。」恐る恐る話す緒方を見て、神埼は口のなかが渇いていって、呼吸が苦しくなるのを感じた。また同じだ。また失う。「今日、晩御飯を私の家で一緒に食べませんか!?」意を決した緒方が神埼に叫ぶ。その声の大きさと、自分が思っていた内容の余りにも大きすぎるギャップに、神埼は思わず緒方の頬をつねった。「痛いです。。神埼くん。。」気がつけば、緒方の目が赤い。「あ、ごめん。。つい。。ってか、晩御飯!?なんで!?」そんなに大声で言うことか?と神埼は冷静に思ったが、なぜ晩御飯なんだろう。その前に。半泣きするほど悩んださっきの時間を返せ。本気で怖かったんだからな。神埼は嬉しいのか悲しいのかわからなくなって。改めてもう一度緒方の頬をつねった。




