第百二十三話
大塚と勉強をしているとぺたぺたという不思議な音とともに緒方が居間にやってきた。長身で体格のいい緒方の足元だけがアヒルの足で何ともミスマッチだ。自分たちもスリッパはウサギと亀の足なので突っ込むのも躊躇したが端から見ればあんな風に見えるのだなと思う。勉強をしている大塚と林を見ながら、おや?と近づいてくる。「林くんの勉強を見てくださっていたのですね。ありがとうございます。何か食べますか?」時計を見ればおやつの時間だった。そうだなぁと手を止める大塚の隣で林は、神埼を一人にしていいのか?と聞いてみた。緒方は少し笑って考えるように視線を反らした。「神埼くんは、もしかしたら明日の朝まで目を覚まさないかもしれないですね。。もし、起きてきた時のためにスープでも作ろうと思ったのです。消化にいい温かいスープ。。食べますか?」そんなに疲れてたのか。。と大塚が呟いている。緒方が居間にやってきたので、神埼はそのまま寝かしていてもいいのだなと思った。神埼のことに限ってだが、緒方は本当によく気がつく。甲斐甲斐しく神埼の世話をしている緒方を見ていると、よくそこまで気を配れるなぁと感心する。体全体で神埼が大切だと表現していて、神埼を構うことが幸せそうだ。「のろけ。。いや、緒方の幸せなのか。。?あの緒方がなぁ。。」表面ではわからないだろうが、前の緒方はピリピリとしていて人と一線を引いていた。大塚や自分にはそれほど神経質ではなかったが、まるで誰にも自分の領域に入らせないように気を張っていた気がする。集中している時の緒方は冷酷で冷たくて、近くにいる林でも怖かった。瞳の奥の光が鋭くて何でもこなしていった。頼もしいと言っていた人もいたけれど、林は誰にも寄せ付けない冷めた目をした緒方がなぜか悲しかった。「スープって何だよ?俺も作ってみたい。それとさ。今日の晩御飯だけど、コロッケでいいよな。ハンバーグは神埼の手作りがいいだろ?」くるくるとシャープペンを器用に回しながら大塚が緒方に聞いている。なぜわかったのですか?驚いた顔をしながら机の上を覗いている。勉強の進み具合を見ているようだ。「嬉しいですね!こんなに進んでいます。林くんは凄いです!。。晩御飯は私の手作りになりますが、よろしいですか?」嬉しそうに林を見て笑っている。緒方の手作りはちょっと。。遠慮したい。俺が代わりに作るよと立候補した。緒方は自分たちに気を使っているけれど、本心は神埼のそばにいたいことくらいすぐわかった。大塚も気づいているだろう。朝からおにぎりを教えて、晩御飯にはコロッケを教えよう。「そうですか。。では私は神埼くんのそばにいます。何かあった時にすぐ気づくことができますから」ほっとしたように息を吐いた。ではスープを作りますね。台所へと行って冷蔵庫を開いている。大塚も付いていき緒方の手元を見ていた。緒方に勉強を教えてもらうと自分で独学するよりも遥かにわかりやすい。料理だって同じだろうなと思う。大塚は勘がいい。今度は焼き魚を教えようかなと思う。神埼の好きな味に仕上げるのだと緒方がすこぶるご機嫌で大塚に説明している。ぽかんと口を開けた後、大塚ははぁと大きな息を吐いていた。のろけを聞かされているようなものだ。「大塚。。何だかんだとあいつばっかり見せつけられてるなぁ。。そういう役割なのかも。。ご愁傷さま」机の前で大塚に手を合わせる。あいつ、緒方と神埼のことあんなに羨ましがっていたのに。。緒方ののろけを聞きながらだんだん遠い目をしてわざとらしく頷いている大塚が憐れだ。時々林を見て、助けろ!という視線を送っている。林は見て見ぬふりをした。「まあ、成功したければ、成功者の話を聞くのが早いっていうし。。緒方ののろけが大塚にも良いことを引き寄せてくれるさ。。」机の上の参考書を見て勉強を再開する。以前緒方に勉強をしようと誘われた時のことを思い出した。緒方がしつこく誘わなかったら自分は勉強などしていない。諦めて出来ないことから逃げていただろうと思う。「林~!俺、スープ作れなくていいわ。。なんか。。緒方の神埼への愛に疲れた。。」もうギブアップ。。コロッケを教えてくれ。。ぐったりとして林の隣に座った。緒方は笑いながら楽しそうにスープを作っている。「緒方のあの限りなく大きな愛を受け入れて嬉しそうに笑える神埼ってすげぇ。。俺、ほどほどでいい。。ああ。。緒方ののろけの幻聴が聞こえる。。」両手で頭を抱えながら大塚は呟いた。災難だったなぁ。。可哀想になってスーパーで買ったミント飴を渡す。これで頭をスッキリするといい。「。。林。。俺、恋は当分いいかも。。なんか、レベルが高すぎるっていうか。。」先程まで憧れていたのにな。林からもらった飴を食べてぼーっと休んでいる大塚が憐れだ。お疲れ。。と小さく囁けば、おう。と短い返事がきて、台所で楽しそうにスープを作る緒方を見つめていた。
皆様、おはようございます(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?
なかなかじっくりとできない日々。。こんなときは周りからたくさん吸収して自分の中で咀嚼し、文章を書くことにぶつけます!いろんなものを吸収するのだ~!
ではでは皆様、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)




