第百二十二話
緒方と神埼のいる寝室にほとんど林が作ったおにぎりを持っていった。神埼はとても眠たそうだったのでなるべく静かにドアを開けて様子を伺う。そこにはぐっすりと眠っている神埼と神埼の寝顔を愛しそうに見守る緒方がいた。二人の姿がとても仲睦まじくて大塚の笑みを誘う。相変わらずこの二人はお互いに好き合っていて微笑ましいなぁと思った。ありがとうございます。おにぎりを手渡すと緒方は嬉しそうに笑っている。神埼と出会う前の緒方の表情は何か作り物のようで、笑顔を見せられてもしっくりこなかったが今はこんなにも幸せそうに笑っていた。「神埼、寝てるな。今日はお前の好きなハンバーグの予定だったろ?俺や林が作っていいのか?」緒方が神埼の手料理が大好きなことはすぐわかった。神埼の料理には不思議な力があって、箸が止まらずどんどん口の中に入れたくなる。ご飯はほとんど外食か弁当だった大塚にとって、それは衝撃的だった。何か理由を探してみてもこれといったものはなく、やはり神埼の愛情なのかなと頭を捻る。それくらい緒方は神埼に愛されているのだなと感じた。おにぎりを食べながら飽きることなく神埼の寝顔を見ている緒方は穏やかでいながらどこか男っぽくて。恋というものはこんなに人を変えるのかと大塚は思う。目立つことを怖れ本気になることを避けていた友人が、愛しいもののために素をさらけ出しているようで見ていて気持ちがいい。神埼への想いに迷いがなく清々しかった。「お前って本当に神埼のこと、大好きなんだなぁ。。お前を見ていると、大切なものがあって羨ましいよ」優しく笑う大塚に緒方は、そうですか?と語尾を上げた。緒方のことだ。どうせ自覚している。林や自分の前で気を使わないのは信頼されているからでもあるが、愛しいものを見せびらかしたいからだろうなと思う。友人である自分たちにも神埼を大切にしてほしいのだ。そんな所は全く変わっていないと大塚は思った。緒方は何かいいことや悪いことがあると口には出さず、林と自分を必ず巻き込んでいた。緒方の口から聞くよりも実際に見てもらって友人の意見を聞きたいのだなと大塚は思う。これまでも先輩たちに目を付けられたり、学校で何か巻き込まれたりした時は、三人で協力し合っていた。「お前。。あのなぁ。。俺と林は寂しい独り身なの。。!しょうがねぇなぁ。。」この上なく幸せそうに笑う緒方に呆れた口調で言っても目の前の人物は嬉しそうに笑うだけだ。この場に居続けたら、緒方の口から永遠にのろけを聞かされる。神埼が起きたら居間に来いよ。短めに伝えて去ろうと体の向きを変える。幸せそうに笑う緒方の横顔を見ながら寝室から出てドアを閉めた。居間に戻ってくると林が参考書を開いて勉強をしている。台所を見ると食器が洗われていた。「勉強、すんのか?俺も一緒にするかな」林に勉強のことはタブーだったので、そっと聞いてみる。大丈夫かな?と様子を見ると意外なほど林は穏やかに笑っていた。「なあ、大塚。緒方は戻ってこないだろうし。勉強教えてくれよ。この問題、よくわからないんだ」事も無げに言うので大塚は内心驚いた。表面には表さないように振る舞い、軽く頷いて笑って見せる。林も知らぬ間に変わったんだなぁとしみじみ実感した。自分に頼ることが自然になったし、前よりも柔らかくなった気がする。両親のことで悩んでいた自分を無理矢理引っ張り出してここに連れてきた時も思ったが、林は人に頼ることが上手くなったなぁと感じた。「いいぜ。てか、お前、このままだとめちゃくちゃ成績上がりそうだよな。いける所までいくか。俺もあの緒方も付いてるし」林と一緒にいるようになって、ずっと言いたかった言葉だ。林はやれば出来るし、根性だってある。家族思いのいいやつだ。だから学校で諦めたように死んだような目をして無気力な林が、何とか元気にならないかなとずっと願っていた。そうだな。林は穏やかに返事をして嬉しそうに笑っている。作ったおにぎりを食べながらふと思い出したように言った。「それに、変に気を使って諦めたら、神埼に怒られそうだ。遠慮したら緒方もうるさいし」遠慮ペナルティーか。ぷっと大塚は吹き出す。諦めることを怒る神埼を思い浮かべて、こえー。。と呟いた。「熊の猛攻。。緒方も厄介だけど。。神埼はなぁ。。最強だからな」うーん。庇いきれねぇ。。神埼のあの強さはどこから来るのか。大塚は未だにわからないが、きっと神埼を強くしたのは緒方だろうと思う。あの二人は出会うべくして出会ったのだろう。二人を見ていると愛し合うっていいなと心が温かくなる。自分もあんな風に愛し愛されて、構って構われて。そんな存在がほしい。「一人より二人か。。はぁ。。やっぱ羨ましい。。で、あの緒方の上機嫌な顔。。恋って偉大なんだな」誰かを信頼し手を繋いで生きていく。自分にもそんな恋ができるだろうか。もしそんな相手に巡り会えたら、大切にしてたくさん愛したい。「お前は鈍感だからなぁ。。良いことしてたら、そのうち叶うんじゃねぇの?」林は笑って大塚を優しく見つめている。その穏やかな顔を見ていると力が抜けていく。願っていたらそのうち叶うさ。不意に好きな歌の歌詞を思い出した。「願っていたらそのうち叶うさ。未来を信じて、今を楽しもう。できることを一つ一つ積み上げたら、周りの眩い光が、手の中で踊っている」?なんだそれ?林が首を傾げて大塚を見ていた。笑いながらお気に入りの歌を歌う。一人で見た夕日や、一人で食べていたご飯が悲しくてよく口ずさんでいた歌だ。「今あるものは、いつか離れて終わりがくる。そこから得たものは未来に繋がっている。だから、今をのんびり頑張ろうっていう歌」へー!と林は聞いている。孤独に押し潰されそうで苦しい時期があったが、きっとその経験が今に繋がっている。この友人たちがどれだけ大切なのか実感できる。無駄ではないんだなと思った。「。。っと!悪い!林。どこがわからないんだ?俺もノート持ってくるから」慌てて立ち上がって自分の荷物からノートと参考書を取り出す。林からここだと教えられて、大塚は目の前の問題の解説に意識を集中した。
皆様、おはようございます(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?
パソコンがほしい。。!と痛感する毎日でございます。うーむ。。そして集中する時間を少しずつでも増やしていこうかなぁと。。むむむ。。
ではでは皆様、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)




