第百十六話
アパートに着いてドタドタと居間へと入っていった。大量に買った肉を冷蔵庫に入れて鶏肉だけ取り出した。一人一人洗面所で手を洗っている。ちゃんと泡立ててくださいね。緒方の穏やかな声が聞こえる。「ほら!見ろよ。こんなに泡立ったぜ!ふわっふわ」なんでそんなに器用なんだよ!大塚や林の楽しそうな声も聞こえてきた。神埼は嬉しくなって台所で手を洗う。野菜と肉をバランスよく。たくさんご飯も食べるだろうから米を洗うことから始めた。大塚が洗面所からやってくる。わくわくしながら手伝うつもりなのがわかって神埼は優しく微笑んだ。「神埼くん!手を洗いましたよ!さあ、私と手を繋いでください!!」。。忘れていた。そういえば緒方と約束をしていたんだった。でも、唐揚げの味付けをしながら味噌汁も作りたい。今日は大塚に野菜の切り方を教えようと予定している。包丁は家庭科の授業でしか持ったことがないと言っていたから注意深くそばにいようと思っていた。緒方も大塚も背が高く体が大きいので二人で並ばれると狭い台所がさらに窮屈になる。なんとか緒方を居間へと退かしてしまおう。神埼は林に目配せをした。林が目を細くしてため息をついている。「緒方。。どうしても教えてほしい所があるんだ。ミドリムシの話も面白かったけど、中学ニ年の理科で。。」最もらしい言葉だ。神埼は林に向かって目を輝かせた。林は苦笑している。林くん!!案の定緒方は感動して林の肩をがっちりと掴んだ。嬉しさで顔が面白いほど崩れている。「そんな熱心に!私のこの情熱が伝わったのですね!!私はとても嬉しいです。さあ、早く!!今日はとことん付き合いますよ!」いや、付き合うのは林なんだけど。。心の中で浮かんだ言葉を神埼は胸に止めておく。きっと林もそう思っているだろう。それとは気づかずに林をくるりと後ろに向かせると居間へと押しながら連れていく。神埼との手を繋ぐ約束は頭からすっぽり抜けているようだ。神埼は胸を撫で下ろした。林には美味しい唐揚げをたくさん作って食べてもらおう。緒方と林のやり取りを面白そうに見ていた大塚を呼ぶ。味噌汁の具は何がいいのか聞いてみた。「なめこ美味しかったなぁ。きのこ食べたい。えのきがいいなぁ」冷蔵庫からえのきを持ってきて神埼の前に置く。神埼は笑って下ごしらえのやり方を教える。えのきだけでは寂しいので林からもらった白菜も洗ってもらう。一度神埼が白菜を切ってみせると、大塚はすぐ出来るようになった。元々器用で何でもできるのだなぁと神埼は感心する。出汁の取り方と味噌の溶き方を教えればすぐ出来るようになるだろう。大塚は嬉しそうに笑っている。「インスタントの味噌汁も美味しいけど、手作りってなんかいいよな。特別な感じがする」出汁で煮込まれているえのきと切った白菜を見つめながら楽しそうに笑っていた。神埼は唐揚げの味付けをしながら、すぐ出来るから味見しようかと笑って伝えると、楽しみだな!と屈託なく笑った。大塚はきのこが好きだ。料理は何が好きだなのだろう。明後日は大塚の好きなものを作る。大塚に食べたいものを聞いてみた。「そうだなぁ。。コロッケ。食べてみたい。手作りの」手作りが好きなんだなぁと神埼は笑う。コロッケか。じゃがいもはあったし、合挽肉もある。茹で玉子を入れるとより美味しい。たまたま見ていた料理番組で紹介されていて、田舎のお婆ちゃんの味のような懐かしいコロッケになると言っていた。懐かしいや家庭の味などのフレーズに自分はよく惹かれて作っていたなと思い出す。あの頃は寂しさを紛らわしてばかりだった。自分の寂しさを感じながらも、認めることが怖くてできなかった。「。。神埼ってさ。お母さんみたいだな。。そうなると緒方がお父さんか。。うー。。なんか心配になってくるな」神埼はともかく、緒方が父親ってイメージ湧かねぇ。何かを思い浮かべながらいきなり首を左右に激しく振ったりして大変そうだ。と思っていたら急に大塚が嬉しそうに笑う。どうしたのだろうと神埼は見守っていた。ゆっくりと神埼の方を見て幸せそうに笑った。優しい穏やかな笑顔だ。「俺、親が料理してるとこ、見たことないんだ。小さい頃はそれが当たり前だと思ってて。幼稚園で言ったことあったんだよ。そしたら、親からめちゃくちゃ怒られた」思い出すように穏やかに笑っているので神埼は大塚が言った内容を自分はちゃんと把握しているのか一瞬悩んでしまった。それは穏やかに笑って話せることなのだろうか。神埼が教えたように味噌を溶きながらやはり大塚は穏やかに笑っていた。「別に親が料理できなくてもいいんだ。作ってもらえなくてもよかった。ただなぁ。。」ふぅと息をつきながら味噌を溶くのをやめる。美味しそうな味噌の匂いを楽しそうに嗅いでいた。「料理してないなら、料理してないって、俺にも周りにも言ってほしかったよ。誰に何を言われても自分たちは仕事が好きなんだって。堂々としてほしかった」嘘はダメだよな。自分たちがきつくなるだけだし。しみじみと思い返すように呟いて優しく笑った。神埼は穏やかな視線を頷きながら受け止める。大塚の両親は家事が苦手だったのかもしれない。大塚は両親に正直になってほしかったんだなと思った。「林が緒方に勉強教えてくれって頼んでたろ?凄いなぁって思った。あんなに堅くなだったから、相当嫌な思いをしたんだと思うよ。でも、それを認めて助けを求めるって、強いなって」不覚にも格好いいって思った。大塚は悔しいけどなと穏やかに笑っている。神埼は嬉しそうに笑った。「だから、俺も自分に正直になってわからないことや苦手なこと教わろうって。力が抜けたなぁ。すげぇ楽になったよ」ふわりと優しく笑って神埼を見つめている。ありがとうな。照れ臭そうに笑う大塚に神埼も嬉しくなった。弱さを認めて助けを求めること。口で言うのは簡単だが本当に難しい。大塚はそれを素直に認めてこれから変わろうとしている。大塚こそ凄いなと神埼は思う。「料理、一緒にやっていこう。わからないこととか言い合ってさ。食べたいものどんどん作ってみんなで食べるんだ。」できないこと、苦手なことそのまま伝えて認めていこう。笑われてもいい。その通りだと胸を張って助けを求めていたい。自分も大塚のように素直になろう。穏やかに笑って唐揚げの味つけを教えていると、神埼ってお母さんみたいだなぁ。。と大塚からしみじみとぼやかれた。
皆様、おはようございます(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?
眠いです。。なんという眠さ。。眠い。。書いて、寝て、ご飯作って、寝て。そんな生活。。幸せです。うふふ。
ではでは皆様、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)




