第百十一話
焚き火の準備が着々と進んでいる。近くの土にたくさん落ちている落ち葉を拾い集めて石で囲んだ部分にこんもり盛り上げた。火は林がライターを持っているので起こす必要はない。火が燃えやすいように細やかな枝を折って落ち葉の下に置いている。「焚き火だー!これから火をつけるんだね!楽しみ」リュックに入れていた食材を神埼は取り出していく。きりたんぽのように串にご飯をくっつけてラップで巻いていた。他にも玉葱やピーマンなどの野菜と合挽き肉で作ったつみれなど取り出す。焼き肉のたれも持ってきた。大きな弁当箱にはおにぎりも入っている。人数分の受け皿と箸を用意して準備万端だ。「神埼くん!見てください!この魚の元気のよさを!!串に刺そうとしているのですが、なかなか刺さりませんよ!」川に置いていた網を引き揚げて緒方と大塚が一匹ずつ串で刺している。ほどよい大きなの魚はすんなり刺せたものの、神埼が捕った一回り大きい魚を串に刺すことは大変そうで緒方と大塚が二人がかりで必死に魚を抑えている。神埼は笑いながら二人のそばに寄って見守っていた。「神埼ー!すげぇぞ!この魚!お前、この魚食えよ。神埼に捕まったんだからな!」やっと串に刺した魚を神埼に渡して大塚が笑っている。受け取った串から魚が小刻みに揺れる振動が伝わってくる。この魚を捕った時のことを思い出して嬉しくなった。川や魚たちや店長の力を借りてみんなで捕った。美味しく頂こうと思う。焚き火に林がライターで火をつけている。始めは小さな火だったが細かく折られた木をよく燃やして大きくなり落ち葉も燃やしている。そろそろ焼いてもいいだろう。三人は焚き火の元にやって来た。「石と石で串を挟めて。しっかり固定しないとずれるからな。気をつけろよ」なかなかうまく固定できない。苦戦していた神埼に緒方が石を強く押さえて助けてくれた。ありがとう。笑う神埼の頭を優しく撫でてくる。ふふふと緒方は笑ってマシュマロを取り出した。「神埼くん。野菜やお魚は焼くのに時間がかかります。マシュマロでも焼いて食べませんか?お腹が空いたでしょう」そう言って肩に手を回して神埼の体を自分の体に寄せている。神埼はもたれるように緒方に寄り添った。恥ずかしいと一瞬過ったが、急に体が重くなってぐったりしてくる。緒方に寄り掛かるととても楽になり、ほっと一息ついた。自分が疲れていることを緒方は見抜いていたのだなと思う。きっと大塚も林も気づいていて石を運んだり魚に串を刺したり。力や神経を使う作業を率先してやってくれていた。さりげなくて気づかなかった。思っていた以上に体が重い。お腹が空いたこともあるが、はしゃぎすぎて疲れた。神埼はもう一度息を吐いた。「神埼くん。マシュマロがいい具合に焼けましたよ。少し焦げ目がついた方が美味しいかと。熱いので気をつけてくださいね」焼けたマシュマロに息を吹きかけて丁寧に冷ましている。ゆっくりと神埼の口元に持ってきた。緒方を見るとにっこり笑っている。大塚や林を見ると神埼の持ってきたおにぎりを食べながら何かを話し合っているようだ。少し躊躇ったが大きく口を開けた。ふんわりとした温かいマシュマロが口の中で甘く溶けていく。美味しい。「どうですか?疲れた時は甘いものがいいですからね。少し休んだらおにぎりも食べましょうね」緒方は何か食べなくていいのだろうか。川へ着いて何も食べていない。神埼は気になって見上げる。思ったことが伝わったのか緒方は笑っている。「ちゃんとおにぎりを頂きました。神埼くんお手製の焼き肉味でとても美味しかったです。すみません。。我慢できず家でたくさん食べたのです」そういえば。。おにぎりを作って冷ました後になんだか数が少ないような気もした。でも無くなるはずがないので気のせいだとそのままお弁当に詰めたのだ。緒方の告白にぷっと神埼は吹き出す。食べてはいけないと思いながらも美味しそうで。食べたことがバレないようにおにぎりの並びを変えたのか。神埼は自分に気づかれないようにおにぎりを食べながら並びを変える緒方を想像して可笑しかった。「そうか。。安心した。言ってくれれば良かったのに。食べたかったらもっと食べてもよかったんだぞ」緒方にマシュマロが食べたいとねだる。笑いながら焚き火で焼いてくれた。丁寧に冷ましてそっと神埼の口元に持ってくる。甘くて優しい。「ですが。。衝動的に食べてしまったのです。。それに恥ずかしいじゃないですか。みんなで出掛けるためのお弁当なのに私が食べたいなんて。格好がつきません」変な所で緒方はこだわっている。拗ねる緒方が面白くて神埼はまた笑ってしまった。マシュマロを何個か食べると体が楽になってくる。寄り掛かっていた体を起こし真っ直ぐ座った。大丈夫のようだ。「ありがとう。緒方。楽になったよ。何食べる?今度は俺が焼いてやるから」ふと隣の緒方を見ると残念そうに顔をしかめて無言で神埼を見ている。不思議に思って首を傾げていたらぶつぶつと呟き始めた。「神埼くんとのロマンチックな時間が少な過ぎます。。お魚さんたちにも私の愛は伝わりました。なのになぜ。。すぐに離れるのですか?もっとそばに寄り添っていてください」拗ねて神埼の腕を強く掴んでくる。そのまま自分の方へと引き寄せる緒方がなんだか可愛い。アパートでも大塚と林がいるので甘えるに甘えられなかったのだろう。その割にはくっついていた気もするが、緒方には不満だったのだなと神埼は思う。笑って為されるがまま緒方に寄り添った。「おー、よかったよかった。緒方のやつ、やっと俺たち二人に気兼ねなく神埼に甘え出したよ。これで心の荷が下りたなぁ」林と話し合うふりをしながら大塚は楽しそうに笑った。視線はそのままに二人の様子を気配で感じていた。林はおにぎりをほおばりながら大塚と向き合っている。「大きな声で言ったら気づかれるぞ。ずれて鈍感なくせに案外照れ屋だからな、緒方は」慣れないことをして疲れている神埼のことを緒方はずっと見守っていた。しょうがないなと二人は思う。緒方は神埼にもっとたくさんのことを経験して楽しんでほしいのだなと感じた。外でも家にいる時も楽しんで笑っていてほしい。「あんな状態で魚を一匹でも捕れるんだ。尊敬に値するよ。ずっと神埼しか見てなかったからな」魚を捕りながらも神埼の様子を心配して影ながら見ていた。それと同時に甘えたくても甘えられないもどかしい気持ちも伝わってきて、なんとかしてやりたいなぁと思っていた。緒方にとって神埼が心から笑っていることが一番嬉しいらしい。そばにいることで伝わってくる。「一途だよなぁ。。健気って言うんか?こういうの」何気なく大塚の言った言葉に林は身震いする。緒方に健気!?あり得ねぇ!!咄嗟に身を引いた林を大塚は、やっぱり?と屈託なく笑った。魚から煙が出ている。香ばしい美味しそうな匂いも漂ってきてそろそろ食べ頃だろう。話し合うふりをしていた二人が焚き火に向きを変えようとゆっくり動いた。その動きに緒方は気づく。こちらを気にして、でも神埼から離れたくないようで戸惑っている。大塚と林はこっそり笑う。「食べたら俺、この辺りを走ってくるわ。焚き火よろしくな」真剣勝負をして美味しそうに焼けている魚をそのままほおばる。林は焚き火の様子を見ながら焼いていたつくねを手に取った。「俺もこの川でじっくり見たい風景があるから、行ってくる。何かあったら呼んでくれよ」後は頼んだぞ。緒方を見て伝える。勘のいい緒方に気づかれないように細心の注意を払った。緒方は気づいたような気づかないような。少し考え込んでいる。神埼は素直に、わかったと快諾していた。気をつけてね、優しく笑う神埼を見ながら二人は、甘えん坊の緒方をよろしく頼むと心の中で叫んでいた。
皆様、おはようございます(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?
今日はぽかぽか晴れの日のようです。のんびり散歩に行ってきます。
ではでは皆様、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)




