第百八話
スーパーから出ると日差しが眩しかった。見上げれば太陽が輝き地上を照らしている。雲ひとつない。昨日は雨だったので雨雲はあっという間に流れていったのだろう。買い物を済ませて川へと歩いていった。川への道は大塚のランニングコースらしく前を行く大塚が、見てたら走りたくなるなぁと呟いていた。手持ち無沙汰に体を伸ばしたり曲げたりしながら軽く動かしている。体が疼くのだという。「大塚くんはすっかりスポーツマンだね。俺も少しずつやって体と対話してみよう」隣では神埼が楽しそうに笑っている。可愛いなぁと思いながら緒方は頭を優しく撫でた。出会った頃の神埼はビクビクと何かに怯えていたが、今はこうやってのびのびと外を歩いている。神埼と初めて学校から帰ったあの日のことを思い出して緒方は目を細めた。もう何年も前のことのようだ。どんな神埼も心が震えて大切にしたくなる。屈託なく笑う姿は可愛い。「。。ふふふ。。ふふふ!!」緒方は嬉しくなって笑った。あの日の神埼を忘れることはないけれど、今とても幸せだ。自然に緩んでしまう口元を手で隠すことで抑えていた。神埼は不思議そうに見上げている。昨日の雨の滴が至る所に残っていて、太陽の光でキラキラと輝いている。美しい。「あ!見て!クモの巣に水がついてる!綺麗だなぁ。。俺、知ってるよ。これを見つけたらその日はとてもよく晴れるんだよね」小さい頃、本で読んだ。無邪気に笑いながら緒方にクモの巣をアピールしている。クモの巣にくっついた滴が輝いていてまるで結晶のようだ。中心には堂々と巣の主がいて神埼は興味深そうに見つめている。大塚と林がやって来た。「手頃なサイズの巣だなぁ。これから春だしいっぱい出てくるぞ。こいつらの稼ぎ時だ」大塚はクモの巣をつんつんとつついて遊んでいた。巣の主は微動だにしない。林はじっと見つめている。正面から見たかと思うと次に後ろから、横から、様々な角度からクモの巣を見ている。最後にこの主をじっと近くで見つめていた。隣で神埼が嬉しそうに笑う。「林くん、帰ったらこの巣をスケッチブックに描くんだろうな。楽しみ。また写真撮らなきゃ」緒方は驚いて林を見る。この場で描かなくていいのだろうか。何度も動きを変えてクモの巣を見つめている林を見守る。いつもとは違い、目が真剣で鋭い。勉強を一緒にしていた真剣さとはどこか違っていて、クモの巣のすべてを目に焼きつけているかのようだ。少し距離を広げながらしばらく動かなくなりいつもの林の目に戻った。穏やかな優しい顔になる。クモの巣のそばにきて頭をゆっくりと下げた。お礼を伝えているようだ。見ていた三人もなんとなくクモの巣にお礼を言いながらお辞儀をする。振り返った林が驚いたように笑った。「お前らまですることないだろ?俺は見せてもらったから感謝の気持ちを伝えたんだ。なんでだよ」だって。。神埼と大塚が、なんとなくだよな。と笑い合って林を見つめる。苦笑しながら、参ったなぁと林は前を行ってしまった。照れているようだ。しばらく歩いていると流れる水の音が聞こえてきた。涼やかで優しい音色だ。心が落ち着いていくと同時にわくわくしてきた。川が近い。神埼も嬉しそうに歩みを速める。「わあ!すごく綺麗!!こんな所に川があったの!?知らなかった」学校の帰り道から大きく逸れている。全く気づかなかった。少し足を伸ばして方向を変えたらこんな近くにあったなんて。緒方も驚いて川に駆け寄る。手で触れてみると少し冷たい。ここまで歩いてきて強い太陽の日差しもある。気持ちがよかった。「わあ!!見てください!!お魚がたくさん泳いでいますよ!私たちの食料が!!」これを今から捕って食べるのだ。獲物なのだ。水面がキラキラ輝いている。その中で優雅に伸びやかに泳いでいる魚たち。林はまたじっと魚を観察している。大塚はさっそく捕まえようとしているようだ。「今日の魚は動きが早いな。気温がちょうどいいんだろ。手強いぞ」林は川の中から少し大きめの石を集め出した。一ヶ所に置いてまた探す。魚に気をとられていた大塚が林のそばに寄って手伝っている。駆け寄ってきた緒方に林は笑って石の大きさを説明した。「とにかく魚を混乱させないと。見てたらあいつらまだまだ余裕だよ。追い込みながら石で逃げ道を塞ぐんだ」なるほど!緒方は石を探しながら目の前で泳いでいる魚たちを見つめた。捕れそうなのに捕れない。石を抱えている緒方を見上げ観察しているようだ。じっと見つめながら口をパクパクしている。緒方は悟った。この魚は自分に真剣勝負を申し込んでいる。こうしてはいられない。早く石で追い詰めて心置きなく勝負できる場所を確保しなければ!!緒方は燃えていた。「林くん!!これでどうでしょうか!?早く相応しい場所をこの勇気あるお魚のために!!」大量の石を抱えて川の水をかき分けながらすごい勢いでやってきた。緒方の背中から激しい炎が燃え上がっているような。大塚も気迫に圧されている。唖然としていた。「わ、わかった。。そんな激しく動いたら魚が逃げるぞ。ああ!心を静めろ!!魚に伝わるだろうが!」大量の石を置きながら、次は何をすればいいのですか!?と意気込む緒方を林が必死になだめている。お魚が私に命を懸けた勝負を挑んでくれたのです!!林に詰め寄る緒方を大塚と神埼はのんびり見守っていた。「これでいい。逃げ道はふさいだ。後は自分たちが食べる分だけ頂こう」浅瀬に追い込んで丸く石で囲む。その中で四人は魚とそれぞれ向き合っていた。緒方は先程自分を見ていた魚を探す。初めての勝負はやはり、あの魚がいい。泳いでいる魚を一匹一匹注意しながら見る。「この方ですか!?あなたですか!?ああ!!わからない!また私を見てください!!」追い込んだことで魚が泳げる範囲が狭くなったはずなのだが、魚たちは僅かな隙間をいとも簡単にすり抜けて優雅に泳いでいく。しなやかで無駄がない。意識して捕まえようとするとこちらの心を読んでいるかのようにするりと抜けていく。「こ、これは。。!とても賢いのですね。。私の心が筒抜けです。。ということは、私が神埼くんを大好きだということもお見通しなのでしょう。うふふ!そうなのです。あの一生懸命お魚を見つめている方が私の恋人なのですよ」素敵でしょう?緒方は嬉しくなってにんまりと笑った。うっとりしながらふと魚を見てみるとぼんやり口を開けてポカンとしている。どうやら伝わっていないようだ。緒方は少しムッとした。「ですから!!あの可愛らしい方が私の恋人なのですよ!!わかりますか!?この私の心にある愛が!!あなたたちにはわかるはずですよ!私の心を読んでいるのですから!!」思わず魚を掴んだ。取り上げてピチピチと震えている魚を自分の目に近づける。まだ伝わっていないのか。魚の目をじっと見つめた。林が遠くから、緒方!!やったな!!と叫んでいて、それに気づいた神埼と大塚も嬉しそうに手を振っている。緒方ははっとする。この魚は緒方の愛をわかってくれたのだ。「ありがとうございます。お魚さん。私は嬉しいです。なんて素敵な方なのでしょう。あなたには心からの感謝を込めて大切に頂きます」取り上げた魚をぎゅっと抱き締め林が用意していた網の中へとゆっくり放した。
皆様、おはようございます(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?
味ぽんが好きです~。ペットボトル1㍑でいつも買っているという。。温かく煮込んだうどんを味ぽんで食べるのが好きです。温かくなってきましたので、今度は冷やしたうどんにかけて頂こうかなぁ。。
ではでは皆様、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)




