第百六話
穏やかな呼吸と心地のよい柔らかな睡魔の中で神埼はゆっくりと目を開けた。まだ少し眠いが今日は川へみんなで出掛ける。自分のそばに寄り添って幸せそうに笑いながら眠っている緒方の顔を見て、そっと頬を撫でる。いい夢を見ているのだろうか。口元がいつものようにだらけていて神埼は笑いながらその口元をつついてみた。昨日、また緒方の何かが目覚めて大塚と夜遅くまで話し合っていたなと思い出す。緒方のノートを見ながら大塚はしきりに感心していて、様々な質問をしたり持論を展開したり。二人とも楽しそうだった。たくさん話してたくさん笑って。そんな二人を見るのはとても嬉しい。神埼は緒方の寝顔をしばらく見ていたが今日の準備のために体を起こした。まだ辺りは薄暗くぼんやりしている。林はもういない。大塚も姿が見えないので、この暗さの割には時間が経っているのかもしれない。外にいる二人が帰ってくるまでに朝御飯とおにぎりの具の下ごしらえをしておこうと台所へ向かう。ご飯はもうすぐ炊き上がり、カレーが大量に煮込まれていた鍋は綺麗に洗われていて何もない。神埼は冷蔵庫を開けて冷凍していた合挽き肉を取り出した。肉を解凍しながら今日のお味噌汁の具材を探す。緒方が好きなわかめと大塚が食べたいと言っていた長ねぎにしよう。取り出して食べやすいように刻んでいく。焚き火で食べたいものを焼くための串が足りない。川へ行く前にスーパーで買った方がいいのか。串なんて売っていたかなぁと神埼は頭を巡らす。この町で数少ないスーパー。こじんまりとして古いが、神埼の欲しいものが手頃な価格でちゃんとあって気に入っている。スーパーの店長は無口な人で無愛想だが、神埼は近くにあって便利だし欲しいものを的確に仕入れているこの店長を心の中で秘かに尊敬していた。店員は店長の奥さんらしくにこやかで、これまた無口な人だ。商品をレジに運んでいくとにこにこしながら精算をしてくれる。人と接することが苦手な神埼は話さなくていいのでとても居心地がいい。スーパーで売っているお惣菜や弁当は、この奥さんの手作りだろう。素朴で温かくて美味しくて大好きだ。大型のショッピングセンターはここから距離があるので今日は行けない。焼くための串があのスーパーに売っていればいいなと思っていた。「。。うーん。。神埼くん。。はっ!!いない!!」緒方が突然声を上げて体を起こした。顔を左右に振りながら慌てたように辺りを見回している。台所で笑いながら見つめる神埼を見つけて、ほっとしたように起き上がった。ゆっくりと神埼に近づいてくる。神埼は穏やかに見守っていた。「おはようございます。神埼くん。ゆっくり眠れましたか?早いですね。私も手伝います」優しく頭を撫でながら神埼の顔を見ている。緒方はいつも起きた時にこうやって顔を覗き込む。神埼の様子を観察しているのだろう。毎日見られているので今ではもう慣れてしまったが、こんな風に見守られているから自分の心がすぐ緒方にはわかってしまうのだなと照れ臭くなった。隠そうとしても緒方にはすぐにバレてしまう。嬉しさも不安も。「おはよ。お前こそよく眠れたのか?昨日は遅かったんだろ?まだ時間あるし寝ててもいいんだぞ」昼前に川へと着くように考えているが、その時のみんなの様子で何時に着いても構わない。神埼の考えていることが伝わったのか緒方は少し笑って抱き締めてきた。緒方の優しい温もりが心地よくてほっとする。「私も手伝います。だって楽しみなんですから。みんなで出掛けるなんて初めてで。とても嬉しくて堪らないのです」いつもと違って緒方は静かに囁いた。今の気持ちを噛み締めているような、大切にしておきたいという気持ちが伝わってくる。緒方も自分と同じで嬉しいんだなと思い、顔を緒方の胸にくっつける。緒方の鼓動を感じてなんだか優しい気持ちになった。「。。うん。。」このまま目を閉じてずっと感じていたい。そんな気持ちが溢れてきて困ったが、帰ってくる二人に朝御飯を作ってあげたい。寄り添っていた体をゆっくりと離した。緒方は穏やかに抱き締めていた腕を解く。神埼の頭を撫でながら優しく見つめている。「さてと、緒方はお味噌汁作ってね。俺はそぼろを。それとおかかも作ろうかな」緒方は焼肉味が好きなので、合挽き肉に焼肉ソースで味つけしよう。鶏肉がなくなったからそぼろは合挽き肉で。どんな味になるんだろうなと思いながら解凍した肉をレンジから取り出した。「野菜はたくさんありますが、お肉がなくなりそうですね。帰りにスーパーで買って帰りましょうか。他に欲しいものはありますか?そういえばポテチがなかったですね」緒方が自分の好きなものを知っていることが嬉しくてくすぐったい。当たり前のように買う気でいる緒方を見ながら、照れ臭くて短く返事をした。大塚のためにうどんの玉をいくつか買っていこう。林は何が好きなのだろうか。大塚はともかく、林はまだ遠慮するのでさりげなく聞き出さなければ。外にいる二人の顔を思い浮かべながら買うものを考える。緒方は味噌を溶いていてもうすぐ味噌汁が出来るようだ。「美味しそう。。緒方のお味噌汁好きだよ。温かくて美味しいもん。今日もまたおかわりするからな」ぶっきらぼうに強い口調で言う神埼を緒方は優しく笑っている。熊には敵いませんからねぇ。。しみじみと呟き納得したように頷いた。「己を知り、他を知り。天地の理を受け入れるのです。私は神埼くんには敵わないと」えー!?意味がわからなくて神埼は声を上げた。敵わないってなんだよ!緒方の頬をむにむにとつねる。自然の理です。胸に手を当てて噛み締めるように言うのでさらに気になる。どんなに問い詰めても話さない緒方に神埼は両手を使って頬をつまんだ。
皆様、おはようございます(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?
もう4月も中旬になりました。早いですねぇ。。この薄暗い朝。。好きです~。今日も始まるなぁ。
ではでは皆様、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)




