第百四話
緒方はのんびりとテレビを見ていた。楽しみにしていた遺伝子の特別番組があるのだ。もうすぐ始まるのでテレビのリモコンを片手に今か今かと待っていた。その姿を台所から見ていた林は面白くて笑ってしまった。まさに猿が何かを待ちわびているような、そんな光景が目に浮かぶ。カレーを自分で作るつもりだったが神埼に任せっきりで、結局味つけとこうやってかき混ぜることしかしなかった。晩御飯を誰かに作ってもらったのは久しぶりだ。味つけはいつもの通りだが野菜の大きさや量が違う。それを見ているとなぜか嬉しくなって穏やかな気持ちになる。一人ではないというのはこんなに温かい。「カレーいい匂いだなぁ。。何年ぶりだろ?こんな手作りカレー」大塚が台所にやってきて煮込んでいるカレーの鍋を覗きこむ。楽しそうに匂いを嗅ぎながら洗い場から小さな皿を持ってきた。先程炊き上がったご飯をかき混ぜながら少し皿によそおっている。林に向かって笑顔で、はい、とその皿を持ってきた。「。。。味見か。。?お前って。。まあ、いいや。ほれ、食べてみろよ」大塚が一人で食事をしていたなんて知らなかった。学校ではよく話しかけてきて、無愛想な自分にも気にせず優しかった。だから大塚の家族は温かい家庭だと思っていたのに。大塚はずっと温かいものに憧れていたのだろう。温かい食事に温かい会話。誰かと一緒に食べる食事は美味しくて温かい。林は目の前の皿にカレーを少し盛って渡す。美味しそうだなぁと笑う大塚は、中学の頃よりも幼くて屈託ない。これが素の大塚なのかもしれない。「ああ、本当にいい匂いだ。温かくて出来たてでさ。手作りの匂いがする」いつの間にか持っていたスプーンで掬って食べている。ほっとしたような穏やかな顔だ。大塚が嬉しそうなのでよかったなと思う。これからもたくさん温かい食事をとってほしい。自分に言ってもいいし、神埼や緒方も今ではちゃんと大塚の事情を知っているのだから、寂しい時や何でもない日でも遊びに来たらいい。少なくともこの春休みはゆっくりとのんびりして、今まで甘えられなかった分も大塚が甘えられたらいいなと思った。「うわー。。美味しいわー。。こんなもん毎日食べてんのか?羨ましい。。よし!やっぱ俺、料理がんばるぜ。手作りで美味しいもの作れるようになろーっと」おかわり!と林の前に皿を持ってくる。もう晩御飯の時間だからなと答えていたら、神埼がやってきた。「大塚くん、味見したの?美味しかった?緒方はたくさん食べるから、大盛りでだって。大塚くんと林くんはどのくらい食べるの?」やや大きめの皿を三枚と、アヒルのキャラクターがついている大皿を持ってきた。にこやかで楽しそうに踊っているアヒルだ。その黄色いアヒルを見ていると大塚と林はなんとなく無口になる。誰専用か一目瞭然で、緒方は自分たちの知らない世界を地で歩んでいるようだ。神埼が自然にそれを受け入れているという事実も二人を沈黙させるには十分だった。「。。大塚。。もっとはっちゃけても。。大丈夫だと思うぞ。。これ。。どこで売ってるんだ?」聞くのが怖いが妙に気になる。皿で笑っているアヒルをぼんやり見ながら、侮れん。。と大塚がぼそりと呟く。「あ!これ、緒方専用ね。これじゃないとなんか締まりが悪くて。たくさんカレー食べてもらおうっと。二人も大盛りだよね!」緒方のあの独特な、時々訳のわからないこと神埼はそのまま受け入れている。やっぱり神埼は凄いなぁと二人が思っていると居間の方で声がして緒方も台所にやってきた。大塚を呼んでいる。「大塚くん!!遺伝子の新しい発見が発表されたそうですよ!!この間、話した組み換え技術の最新版です。さあ!早く!!」何!?と短い声が聞こえたかと思うと緒方とともに大塚も素早く居間に行ってテレビにかじりついている。あっという間の出来事で林はあらゆる意味であの二人は凄いと思った。遺伝子なんて自分は興味がない。「大塚くんと緒方って話が合うんだね。緒方は俺に話してくれるんだけど、全然わからないんだ。でも緒方が楽しそうだからいいかなって」よくわからない話をにこにこと聞くことができる神埼は凄いと思う。ぼそっと言った林に神埼は照れたように笑った。それぞれ個性が強く自由なので見ていて飽きない。林はカレーをかき混ぜながらこっそり笑う。面白くて温かい友人ができたものだ。一見、三人とも普通に見えるが思わぬ所で独特な予測のできない行動をとる。好きなようにしていて、お互いがお互いをそういうものだと受け入れている。こだわりがない。「こりゃ。。気を遣う方がアホだな。神埼、あの二人にカレー大盛りを持っていこう。すぐ食べられるようにそばに置いておこうか」うん、と嬉しそうに笑いながらご飯がのっている皿を林に渡してくる。一つ一つの皿にカレーを盛りながら、自分の友人は凄い人間の集まりなんだなぁとしみじみ感じていた。両手に大盛りのカレーを持ちながら居間に戻ると、胴体の大きい二人がテレビの前を独占していて異様な光景だった。テレビのリモコンは緒方がしっかりと持っていて時々音量を上げている。CMに入ったのか緒方と大塚は二人で興奮気味に話し合っていた。さっぱりわからない。まるで宇宙語だ。これを神埼はにこにこと聞いていたのか。自分には到底できないことだ。「ふふ!緒方も大塚くんも楽しそうだね。可愛いなぁ」そう思える神埼が凄い。カレーを一口食べるといつもの辛さと野菜のほのかな甘味が広がった。机には自分以外にカレーが三つある。絶対に見ないようなテレビ番組に大量のカレー。隣ではテレビに夢中な二人を見守る神埼がいてやっぱりいつもと違う。なんだか可笑しくなって笑った。いつの間にか頬が緩んでいて、きっと自分は友人たちと一緒にいられて嬉しいのだと思う。神埼から、カレー美味しいねと話しかけられ頷きながら林は穏やかに笑った。
皆様、おはようございます(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?
考えたのですが、これからのんびりと幸せな温かいほのぼのを追究していきたいと思います(*^^*)読んでくれた方々が幸せだなぁと感じるようなそんな小説になったらいいなぁと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
ではでは、皆様これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)




