第百三話
勉強を再開して緒方は林の飲み込みの早さに驚いていた。それに教えていて感じたのは林が元々勉強が好きだということだ。本人に伝えたら否定するだろうから緒方はそっと見守っていた。林の元々持っている学びたいという想いをのびのびと伸ばしてやりたい。緒方の心に強い気持ちが溢れてきた。「少し休憩しましょうか。疲れたでしょう。もう15時になりますし、おやつでも」緒方は真剣に問題を解いていた林に声をかけた。もう、そんな時間か。林はふっと体の力を抜く。隣では林のスケッチブックを開きながらどうやったらこの絵をそのまま撮すことができるか奮闘している神埼と大塚の姿が見える。二人とも話し合いながら、携帯を使っていろんな角度から写真を撮っていた。あまりの真剣さに緒方は微笑ましくなって頬が緩んでいく。神埼も大塚も林の絵が大好きなのだろう。絵に対する愛しさが伝わってきてとても嬉しくなった。緒方には絵の上手さはわからないが、林の絵には何か心が踊るようなわくわくさせるものがあると思う。見ていてとても嬉しくなるし身近にこんな素敵な風景があるなんて全く気づかなかった。今度神埼を散歩に誘ってみようか。きっと嬉しがってスケッチブックを片手に描かれた風景を探し回ることだろう。「おやつの時間か?さっきついでに白玉粉でお団子作っておいたんだ。きな粉とみたらしがあるから」立ち上がった緒方に神埼が気づいた。そばに寄り添いながら冷蔵庫へと歩いていく。神埼はいとも簡単に美味しいお菓子を作ってくれる。いつの間にそんなに作れるようになったのだろう。不思議に思いながら神埼を見ると、楽しそうに笑いながら緒方を見上げている。「誰かさんが甘いものが好きだから。お菓子を食べたらいつも疲れた顔が嬉しそうに笑うから」悪戯っ子のように笑って緒方の前を通り過ぎた。そうだったのか。嬉しくてつい顔が緩んでしまう。神埼は冷蔵庫を開けて冷やしていた団子を取り出していた。一つずつ串に刺し、火でこんがり炙っている。団子にみたらしのたれやきな粉をふりかけて皿に並べている。見るからに美味しそうだ。「神埼くん。この間あんこも買っていました。それもお団子にのせていいでしょうか」一つ一つの団子の形が微妙に違う。炙られて少し焦げ目がついて香ばしい匂いがしてきた。自分のために、大塚や林のために作ってくれた想いが込められている気がして、緒方はじんわりと胸に温かいものが広がっていくのを感じた。冷蔵庫からあんこを取り出しながら神埼に渡す。よく覚えていたなと感心したように笑った。「今度はプリンを作ろうかな。案外簡単にできそうなんだ。どんなプリンがいい?」抹茶プリンとか美味しそうだよな。考えながらあんこを盛り付けている神埼は本当に楽しそうだ。誰かを想って料理を作る。なんて美しくて優しいのだろう。緒方は不思議な感動に包まれながら、とても心地よくて少し目を細めた。「あなたの作るものなら何でも。。「何でもとか、言うなよ。考えるの大変なんだから!お前の食べたいものを教えろ」ちらりと横目で緒方を見ながら、はい。と盛り付けた団子を目の前に持ってきた。受け取りながら緒方は、そうですね。。とあれこれ思いを巡らせる。神埼の作るものはいつも本当に美味しいのだ。味つけが上手いのかと思ったが、それだけではない気がして。緒方の返答を待っている神埼を見つめる。神埼の作るプリン。楽しみだ。「さっぱりとしたプリンが食べたいです。冷たくて頭がスッキリするような。あの黄色いプリンが食べたいですね」思い浮かんだことをそのまま言うと神埼は嬉しそうに、わかったと笑った。神埼は緒方が何か食べたいものを伝えるといつも嬉しそうに笑う。ハンバーグが食べたい。ナポリタンが食べたい。その時に作るのが簡単だからなどと神埼を気遣うようなリクエストをしてはいけない。途端に機嫌が悪くなるのだ。なぜか神埼には素直な気持ちで言っているのか気遣っているのか、すぐわかるらしい。手強い。「神埼くんの前では、私は我が儘になってしまいます。まあ、私が神埼くんに我が儘になれと言い続けているので、なんとも言えませんが」少し照れますね。緒方の要望を聞いて嬉しそうな神埼をとても愛しいと思う。そんなに嬉しそうにされると大切に思ってくれているんだなぁと実感して、なんともいえない優しさで満たされていく。心の底からくすくすとくすぐったい想いが溢れてきた。照れ臭くて頬が痒い。これからも、愛してるや大切にしたい、好きだなど、この気持ちを表現する言葉を神埼にたくさん伝えるのだろう。でもこんなに温かいものを貰ってどう返していけばいいのか。言葉でも行動でも足りない気がして緒方は参ってしまう。これが幸せというものなのか。「それも持っていきましょうか。美味しそうなので早く食べたいです」もう一つの皿に団子が並べられて完成したようだ。この照れ臭さから一旦逃れて冷静にもう一度神埼への想いを整理したい。そそくさと居間へと戻りたがる緒方を神埼は不思議そうに見つめていた。神埼への想いはどうしようもなく溢れてくる。まるで湧き上がる泉から止めどなく溢れてくる豊かな水のように。温かく、優しく、時に激しい。「これはまた。。神埼くんから離れて自分の中で整理しなければ溺れてしまいそうですね」大切にするには冷静さが必要だと緒方は思っている。心は温かく頭は冷静に。いつも乱れない自分のペースが神埼のこととなると、あっさり心を持っていかれて頭だけが取り残されてしまう。どうにも追いつかない。「恋は盲目と言いますが、私は神埼くんを大切にしたいのです。感情のまま流されてはいけません。礼節と節度を持ってお付き合いをしていかなければ。。でも。。神埼くんは可愛いですねぇ」おやつの団子を両手に持って現れた緒方を居間で迎えた林は、余りの緒方の顔の気持ち悪さにドン引きしながら後ずさった。ぶつぶつと言いながら口を尖らせたり、はたまたうっとりと呆けたりで見ていて恐ろしい。「。。。。」見てはいけないものを見てしまった気がする。慣れない勉強をして疲れてしまったのか。あ!林くん、神埼くんが作ってくれましたよ。思い出したように自分を見ておやつを薦める緒方に、震える声で、おう、とかろうじて答えた。
皆様、こんにちは(*^^*)今日はもう一話できたのでお伝えしますね。
振り返って見てみますと、前半は神埼くんの寂しさや苦しさが中心でしたね。。。今日書きながら思っていたのですが、これからは幸せなほのぼのとしたものをたくさん書こうかなぁと思いました。限りない優しさや温かさを書いていきたいなぁと。相変わらずのんびりとマイペースですが、お好きなときに読まれておくつろぎくださいね(*^^*)ではではこれからも素敵な時間をお過ごしください。




