第百二話
緒方と林が勉強しているので、なんとなく神埼と大塚も一緒に勉強していた。大塚は基礎をやり終えて応用問題を解いている。もう高校3年まで勉強しているようだ。凄いなぁと言った神埼に大塚は穏やかに笑う。「塾を辞めるって決めた時から空いた時間にちょこちょこやってたんだ。とにかく成績だけは。。な。でもこの頃勉強が楽しくてたまらないんだよ。あんなに嫌だったし、下がったらどうしようって不安だったのに不思議だ」塾を辞めると決めたのは、自分たちとキムチ鍋を食べた時だと聞いて神埼は驚いた。大事な決心なのに俺たちと一緒にいたからっていう理由でいいの?少し意外で尋ねてみると大塚は嬉しそうに笑っている。「あの時さ、今まで自分が自分の行き先を決めたことなかったなって思ったんだよ。神埼は自分で一人で住むって決めたんだろ。凄いなぁって」何かを思い出すように、ふと優しい目をして目を伏せた。神埼は穏やかに笑う大塚を綺麗だなと思った。「俺、成績を下げないようにって必死だった。なんでかなって考えてみたら、俺自身が親に見捨てられることが怖かったんだよ。親のせいにして本当は親離れしてなかったんだ。親に愛されてないって認めるのが怖かった」一つ一つ噛み締めるように話している。神埼にはその怖さや苦しさがわかった。自分も両親に愛してほしくて、認めてほしくて。両親が去っていった時も現実を受け入れたくなかった。いつか両親が自分を心配して来てくれるのではないか。ある日、自分のことを抱き締めてくれるのではないか。何度思い描いて、期待して、悲しい想いをして。それでもやっぱり諦めることが辛かった。「親から愛されていなかったって認めることはとても辛いよね。涙が止まらなくて、痛くて。でも心はすごくスッキリするっていうか」きっと心はもうわかっている。自分が愛されていないということ。自分が見たくなくて認めることができなかった。現実から逃げていた。「ああ。辛いけど認めたらすごく心が嬉しさで溢れるんだよな。そうだよ、やっと認めてくれたなってさ」こんなこと神埼しか話せないわ。勉強をしながら大塚は穏やかに笑った。親との関係はとても重くて辛くて。真っ黒な思い出しかない。自分はなぜ生まれて、今も何のために生きているのか。苦しくて何度問いかけたことだろう。どこにぶつけていいのかわからない怒りや悲しみを何度味わっただろう。「でもさ。生まれちゃったものはしょうがないよ。たとえ不要だとしても生きてるんだもん。俺ね、誰からも必要とされなくても、命があるうちは生きようって決めてるんだ。笑顔でさ。楽しもうって」緒方から、私はあなたを必要としています!!と叱れるだろう。でもこれが自分の素直な気持ちだ。きっと認めてもらえなくても生きていける。自分が自分を認めたのなら、それだけで嬉しいと心が叫んでいる。神埼はそれで十分だと思った。両親から愛を貰えなかったことが辛いんではなく、自分が自分の感情を置き去りにしたこと。間違いだったと今でも思っている。あの不思議な空間で自分とよく似た子供を思い出した。あの子がたった一人で暗い寂しい空間にいたように、自分の心も一人で置いて行かれたのだろう。誰でもなく、自分から。大塚はしばらく神埼を見ていたが、穏やかに大きく笑った。「神埼は強いよな。。。緒方が惚れたのが本当によくわかるよ。お前が緒方のそばにいてくれて、俺や林の友人として存在してくれて嬉しい。ありがとうな」優しく穏やかに笑う大塚。何かが吹っ切れたのか、とても綺麗な笑顔だった。昼時になる。役所の方から12時を知らせる音楽が辺りに鳴り響き、携帯からも明るいリズミカルな音楽が鳴っていた。神埼は顔を上げて大塚を見る。二人で笑い合い台所へと向かった。緒方と林は首を傾げながら見送る。冷蔵庫に作っておいたサンドイッチを取り出して二人の待つ居間へと持っていく。ピクニックに行くようなバスケットに入れてハンカチ4枚も一緒だ。「わわ!!何ですか!?その可愛らしいバスケットは!!まさかこれから出掛けるのですか!?」緒方がさっと立ち上がってわくわくしながら見ている。大塚と二人でサンドイッチを作りお弁当に詰めて冷蔵庫に隠していた。勉強ばかりで部屋に閉じ籠っているから、少しでも気分転換をさせてあげたい。大塚と話し合ってこうしようと決めていた。「凄いだろ~!ほらほら、さっさと机の上片付けろ。美味しいサンドイッチを食べるんだ」大塚の表情に林が、まさか。。!お前も作ったのか!?と驚いている。大塚くんの手料理なんて初めてですねぇ。。緒方も少し驚いているようだ。大塚は上機嫌でバスケットからサンドイッチを取り出した。ほれ、食べろと二人に渡している。「わあ!ありがとうございます。うふふ!まるでここは素敵な公園ですよ!もうすぐ雨が降りそうですからね。部屋の中でこんな楽しい想いが出来るなんて、嬉しいです」大塚からのサンドイッチをパクパクと食べながら緒方は嬉しそうに笑っている。林は大塚が作ったというサンドイッチを受け取らずじっと見つめていた。目の前のサンドイッチと大塚の顔を交互に見ながら胡散臭そうにぼそっと呟く。「お前。。本当に大丈夫なのか?このサンドイッチ。ちゃんとマヨネーズかけただろうな。マスタードとか言うなよ」大丈夫だって!軽いノリで大塚は言いながら無理矢理林の口にサンドイッチを入れた。げっ!!という声が聞こえて野菜を食べるシャリシャリとした音も聞こえる。しばらく食べていたが、林は口を抑えながら咳き込んでいる。大塚はにんまりと頬を緩ませた。「ははぁ。これは新しいサンドイッチですね。この辛さと酸っぱさが癖になりそうです。チキンには七味がかけられているのですか?ピリッとしていて美味しいです」緒方に渡したものは程よい辛さを考えながら作ったものだ。今、林が食べたのは超特注品の。。「。。。大塚ーー!!お前、絶対これわざとだろーー!!」辛子とマヨネーズとマスタードの素敵なコラボな。林のために作ったから。しれっと澄ました顔で真っ赤になっている林を見守っている。神埼は台所で大量にパンや野菜の間に投入されていく調味料たちを見送っていた。思い出しながらぷっと吹き出す。あれは辛いだろう。辛いを通り越して頭が吹っ飛ぶのではないか。疲れた頭にはいいと大塚は言っていたが、ただの悪戯だ。「おま。。!!お前、さっきの。。!お前も食えよ!!どうやったらあんな味に仕上がるんだ!!」林は大塚の首を絞めながら超特注品のサンドイッチを探している。クククと笑う大塚はこの上なく楽しそうだ。「わーー、何かを仕掛けるってこんなに楽しいんだなぁ。。驚いた顔を見るって爽快だね」変な才能を開花させるな!!少し青ざめた林が大塚に詰め寄っている。体を左右に振られながら大塚は神埼と緒方を見て言った。「あ、心配すんなよ。ターゲットはちゃんと選ぶから。こう。。からかいがいのあるやつな」お前らにはちゃんとしたサプライズをするからな。にっこり笑って手を振っている。緒方は満足そうに、楽しみですね。神埼くんとロマンチックな時間を過ごしたいです、とうっとりしながらちゃっかりリクエストしている。楽しそうな三人が嬉しい。神埼はサンドイッチをほおばりながらウキウキとしていた。「はあ!!?あの辛いサンドイッチないのかよ!!。。っ。。お前!こうなることわかって。。!!大塚ーー!!」まあまあとなだめながら神埼の作ったサンドイッチを林に薦めている。少し大人しくなった林に、悪い夢でも見たんだよ。。と楽しそうに含み笑いをしていた。林はまだ鼻が痛いのか手で抑えていて少し涙目だ。次から絶対、引っ掛からなねぇ。。絶対!見抜いて逆に。。呟いている林の背中を大塚は笑いながら軽く叩いていた。
皆様、おはようございます(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?
ハンター×ハンターとても面白いです(*^^*)朝から放送されているのです。嬉しいなぁ。。
ではではこれからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)




