第百一話
カレーを煮込みながらぼんやりと神埼は今までのことを思い返していた。自分は一人でいて、親に愛されなかったり見捨てられたことが苦しくて、その苦しさばかり考えてきた。親に振り向いてもらいたい。自分の存在を認めてほしい。自分のことばかり考えていて、他の人が経験してきた人間関係を経験していない。勉強はなぜか自然とできていて、それだけが自分の価値だと思ってやっていた時期もある。家事や自分一人で生活できれば人の中にいても大丈夫だと思っていた。だけど。周りと同じことを経験していないことが少し怖い。周りと同じくらいに人間関係で葛藤した方がいいのだろうか。勉強でも苦労をした方がいいのだろうか。そうすれば、より思いやれるかもしれない。今、こんなに幸せで緒方から大切にされている。大塚や林や木村や。友人にも恵まれ、穏やかで優しい時間を過ごしている。でも。この幸せを素直に受け入れていいのだろうか。こんなことで悩む自分は愚かなのだろう。昔、一人でいた自分から見たら贅沢な悩みだと、それよりも緒方や大切な友人たちに感謝して温かいものをもっと返していけと怒られるだろうか。でも素直な気持ちとしては、これでいいのかという漠然とした不安があった。「神埼くん、カレーはどうですか?先程から美味しそうな匂いがしてきます。ああ、美味しそうですね。。。これではたくさん食べてしまいそうです」ぼんやりとしていると緒方がいつの間にかそばにいる。顔を見つめると緒方の表情が少し曇る。そっと神埼の頬を優しく撫でてきた。何かあったのか、きっと緒方にはこの不安が伝わっているのだろう。神埼は静かに目を伏せた。緒方は無理には聞かず何度も頬を優しく撫でてくる。自分を労るような指先がくすぐったくて嬉しい。伏せていた目を上げて緒方を見る。心の中にある不安を緒方に恐る恐る伝えた。幸せになって大切にされている。愛されていて優しくてのびのびできて甘えられる。一人でいた時の、憧れていたものばかりがここにはあるのに。この根拠のない不安は何だろう。緒方は静かに話を聞いていた。「神埼くんは優しいですね。。。同じ苦しみや悲しみを経験しても人を思いやることなんて考えない人もいます。人に優しくしたい、思いやりたいと思えることが素晴らしいことなのではないでしょうか」緒方は神埼の頭を何度も撫でながら愛しそうに見つめた。その目を見ながら神埼は首を傾げる。心のなかで思っていても実際優しく思いやれないのならば、意味がないじゃないか。神埼の声が聞こえたらしい。緒方はふふっと嬉しそうに笑った。「神埼くんは現実主義者ですね。目に見える結果が出ないと実感できませんか?でも、その見えない想いは伝わる人には伝わります。その想いに勇気を貰えるんです」穏やかで優しい目をしている。自分は同じ苦労をしなくてもいいのだろうか。もっと人を思いやれるように。優しくなれるように。緒方は笑って神埼の頭をポンポンと軽く叩いた。「神埼くん、経験していることがすべてではありません。あなたは私に親の愛を貰えなかったあなたの苦しみを経験してほしいと思いますか?私はあなたにこれまで自分が苦しかったことを経験させたくありませんよ」あ!っと声を上げた神埼を優しく笑いながら頭をまた何度も撫で始めた。そうだ。この苦しみを誰にも経験してほしくない。できれば知ってほしくないし、自分が苦しい想いをしたから、愛されることがこんなに素晴らしくてその人の力になるんだとわかった。いっぱいいっぱい愛されてほしい。はっとした顔をした神埼を緒方はゆっくりと頷いて笑った。「俺が人と同じ苦労をしたいって思うことは、人が俺の経験した悲しい想いを経験したいって思うことなんだね。それはだめだ。俺自身が嫌だよ。そんなことを選ぶよりその人の好きなことに時間を費やしてほしい」楽しいことや誰かを愛すること、挑戦したいことに意識を向けてほしい。もっと幸せを感じられるように温かいものに包まれてほしい。これは自分の願いだから。だから自分自身が幸せを受け入れて温かいものに包まれることはその一歩なんだ。神埼は納得したように笑った。よかった。幸せになっていいんだ。とても嬉しくてありがたいなぁと思った。「神埼くんが幸せになることは、私の幸せでもありますし、大塚くんや林くんの幸せでもありますよ。私は神埼くんを大切にしたいですし、あなたを大切にすることで私も大切にされています」わかりますか?正面から緒方が抱き締めてくる。神埼は素直にそれを受け入れた。カレーの煮込んでいるコトコトとした音が聞こえてくる。美味しそうな優しい音だ。穏やかな温もりにそっと身を委ねた。自分が幸せになることが周りを幸せにする。幸せになると決めることは勇気が必要で、愛されることにまだ罪悪感や不安があるけれど。その都度話して向き合っていこう。幸せになっていいんだ。「ありがとう、緒方。俺、やっぱり女々っちいや。。また愚痴ると思うけど聞いてくれるか?」なんだか心が軽くなった気がする。嬉しくてほっとする。緒方は笑って、いつでも、と囁きながらおでこに軽くキスをしてきた。大塚も林も居間にいるのになんでかなぁと思っていたら、ここは死角になっているらしい。いつの間に見つけていたのだろうか。「私と神埼くんの愛は私たち二人がわかっていればいいのですが、私は神埼くんが可愛過ぎて我慢できません。因って大塚くんと林くんの死角を探すことが最優先でしたから」いろいろ探したのですよ。台所ではここですね。とても自慢げに話すので可笑しくて自然と笑みがこぼれる。ひとしきり笑ったあと緒方を見ると嬉しそうに笑っているので、神埼は幸せだなぁと改めて思った。自分の幸せを心から願ってくれる人がいて、幸せにしたいと思う人がいる。奇跡のような現実がここにある。目の前の緒方に、ありがとうと囁きながら緒方の温もりを感じていた。
皆様、おはようございます(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?
新しいドラマがいよいよ始まりますね!楽しみです。テレビにかじりついて見るのだ~!
では、皆様も素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)
あわわわ!!風姫様!!感想をありがとうございます!!今、見つけましてご返答をしたいのですが、どうすればいいかわからず。。ここでお礼を申し上げます。ありがとうございます!!喜んで頂きとても嬉しいです!!神埼くんや緒方たちをどうぞよろしくお願いいたします!!




