別れの曲。
「まあ、結局は勘違いだったんじゃ」
とは祖父の言葉だった。
「要するに、別に秘密にしていたわけじゃないんだが、グランデの地下交通網のことを知ったあの連中が、ちょっと勘違いしてな」
「何の勘違い?」
ミリエルが首をかしげた。
「わしらが反乱をもくろんでいると」
いくら何でもとミリエルはあきれたが、レオナルドはそうは思わなかったらしい。
「反乱を企んでいないのですか」
「いないいない、だって旨みがないし」
ダニーロはとにかく軽い。
「もともとはうちの国が傭兵団の根城だった時に作り始められたもんで、王宮も協力して作ったもんじゃ」
「協力がないと作れないよねえ」
とミリエルが補足する。
「まあ、そんな昔に作ったもんで、商工会の連中は荷物の搬入なんかに使っていたんだが」
ダニーロの言葉は少し歯切れが悪い。
「それを国家転覆のために今から用意していると勘違いされてな。王宮のほうは地下通路のことを失伝しているし、誤解が拡散してどうしようもなくなって言ってな」
「うわあ」
勘違いにもほどがある。明らかにあの設備はとてつもなく古い時代のものだった。先祖の使っていたものを利用していただけだとわかるだろう。
「いくらなんでも秘密裏にそんなの作れないでしょう」
ミリエルもあきれた。
「そのうえ王宮のほうも手をまわしていろいろやらかしてくれて」
お茶会の乗っ取りのことだろうか。
「なんか何人か捕まったらしいが」
レオナルドが、そういった。
王宮内に手引きしたこの国と来賓の連れが何人か捕まったのだ。
その中に元レオナルドの婚約者もいたらしい。よほどサヴォワ王妃の地位に未練があったのか。愚かなことだとレオナルドも思う。
「ああ、お茶会にいなかった人なんか?」
巻き込まれないようにわざと欠席した貴婦人が何人かいたらしいと後で知った。
そういう説明はサフラン商工会の筆頭である黒獅子が王の前でやっているらしい。
「まあ、これで中止だ、明日帰るぞ」
レオナルドはそう言ってダニーロを見た。
ミリエルはダニーロと顔を見かわして小さく笑う。
そして両手を握り合った。
翌日、馬車が沿道を埋め尽くす市民の前を進む。
不意に音楽が聞こえた。耳慣れた曲だ。
市民が曲を奏でている。それはミリエルの曲だ。そして別の曲に、それは旅立つ仲間を見送る曲。
「なんで進んでいるのに同じ音量で聞こえるんだ?」
「一列に並んで奏でているのよ」
それぞれの楽器を持った市民はずっと並んでいる。
「馬車の動きに合わせて引いているのか」
「傭兵と楽師の街だったのよ、ここは」
ミリエルはこの街の歴史を語りだした。
永の中断申し訳ありません。これで完結です。