第九話 初めての武器と初めての戦闘
翌朝。
俺はゲランとゴッソに連れられて武器屋へ向かっていた。
「武器屋なんて何を買えばいいのか全然分からないんだけど」
「初心者なんだから分からなくて当たり前だ」
ゲランが言う。
「とりあえず最初はナイフだな」
「剣じゃないのか?」
「無理だ」
即答だった。
少し悲しい。
「お前、剣振ったことあるか?」
「ないなぁ」
「だろうな」
「ない」
ゴッソまで頷いた。
味方がいない。
◇◇◇
やがて目的の店へ到着する。
看板には大きく鉄槌の絵が描かれていた。
店内へ入る。
途端に鉄の匂いが鼻をくすぐった。
壁には剣。
槍。
斧。
盾。
様々な武器が並んでいる。
ちょっとテンションが上がった。
そしてカウンターの奥から声がした。
「いらっしゃい」
俺は思わず固まった。
背が高い。
170cm後半はありそうだ。
引き締まった身体。
長い銀髪。
鋭い目つき。
そして美人だった。
かなり美人だった。
「おう、リズ」
ゲランがやけに明るい声を出した。
俺は横を見る。
デレデレしていた。
分かりやすいくらいデレデレしていた。
「……なるほど」
「何がだ」
「いや別に」
なぜこの店を勧めたのか理解した。
完全に理解した。
◇◇◇
「初心者用の武器か」
リズは俺を見て言った。
「そうだ。冒険者登録したばかりだ」
ゲランが答える。
リズは少し考えた後、壁から一本のナイフを外した。
刃渡り20cmほど。
分厚い刃。
どちらかと言えば肉切り包丁に近い。
「これだな」
俺は受け取る。
ずっしり重い。
だが不思議と安心感があった。
「魔物の解体にも使える」
「いくらですか?」
「銀貨5枚だね」
俺は少しだけ顔をしかめた。
高い。
だが必要経費だ。
銀貨を支払う。
これで俺の所持金は銀貨12枚ほどになった。
少し心細い。
「ちゃんと手入れしろよ」
リズが言う。
「切れなくなったら持ってこい」
「分かった」
「無料じゃないぞ」
「ですよね」
美人だが商売人だった。
◇◇◇
武器屋を出た後。
ゲランがニヤニヤしていた。
「良かっただろ?」
「武器は良かった」
「そうじゃねぇよ」
「そういう話じゃないだろ」
ゲランは残念そうな顔をした。
ゴッソが呟く。
「いつものことだ」
「だろうな…」
◇◇◇
そのまま町の外へ向かう。
せっかく武器を買ったのだ。
試してみたくなる。
初心者向けの魔物がいる場所へ案内してもらった。
草原の一角。
背の高い草の間に、何かがいた。
「いたぞ」
ゲランが指差す。
俺は目を凝らす。
キノコだった。
どう見てもキノコだった。
高さ40cmほど。
手足が生えている。
歩いている。
キノコなのに。
「マイコニドだ」
「キノコだなぁ…」
「キノコだ」
ゴッソも同意した。
「初心者向けの魔物で傘の部分が薬になる」
ゲランは説明を続ける。
「胞子に毒があるが、この辺の個体は弱い」
「弱い?」
「ちょっと気分が悪くなる程度だ」
「十分嫌だな」
「だから初心者向けなんだ」
基準がおかしい気がする。
◇◇◇
「行ってこい」
ゲランに背中を押された。
俺はナイフを握る。
手汗がひどい。
人生初の戦闘だった。
マイコニドはこちらに気付く。
そして。
ぽふっ。
胞子を飛ばした。
「うわっ!」
慌てて避ける。
地味だ。
想像していた戦闘よりかなり地味だった。
だが危険なのは分かる。
俺は距離を詰める。
ナイフを振る。
外れる。
マイコニドが逃げる。
追いかける。
転ぶ。
立ち上がる。
また逃げられる。
「頑張れー」
ゲランの声が聞こえる。
腹が立った。
◇◇◇
5分後。
「はぁっ!」
ようやくナイフが命中した。
マイコニドが倒れる。
動かない。
どうやら勝ったらしい。
俺はその場に座り込んだ。
疲れた。
たった40cmのキノコ相手に全力だった。
【マイコニドを討伐しました】
文字が浮かぶ。
その直後。
何も起こらない。
「ん?」
俺は自分のステータスを確認した。
レベル1。
変化なし。
「上がらないのか」
「当たり前だ」
ゲランが笑う。
「そんな簡単に上がらねぇよ」
俺も少し考える。
確かにそうだ。
ゲームでもスライム1匹でレベルアップした記憶はない。
妙に納得してしまった。
◇◇◇
その後も狩りは続いた。
マイコニドをもう2匹。
角ネズミを1匹。
草むらにいた牙モグラを1匹。
どれも弱い魔物だった。
攻撃なんかはしてこない。
逃げるだけで普通の動物みたいだ。
だが俺にとっては十分な強敵だった。
ナイフを振る。
避ける。
転ぶ。
追いかける。
振る。
当たる。
倒れる。
その繰り返し。
気付けば太陽は傾き始めていた。
息は上がり、腕は重い。
だが不思議と嫌な疲れではなかった。
「どうだ?」
帰り道。
ゲランが聞いてきた。
俺は少し考える。
そして答えた。
「思ったより大変だった」
「だろうな」
「でも」
腰のナイフを見る。
初めて自分で買った武器。
初めて倒した魔物。
少しだけだが前に進んだ気がする。
「ちょっと楽しかった」
その言葉にゲランが笑った。
ゴッソも小さく頷く。
異世界に来てから9日目。
俺はようやく冒険者らしい一歩を踏み出したのだった。
リズ
年齢:27歳
種族:人間
性別:女
身長:178cm
体重:秘密
髪:銀髪
瞳:蒼
体格:引き締まった長身
趣味:鍛冶、武器の手入れ
好きなもの:真面目な客
嫌いなもの:値切る客
特徴:目付きが鋭い、美人、強い
ゲランがデレる
本人は気付いてる
でも相手にしていない




