第四十一話 最初の宿場町
日が沈み始めた頃、俺たちはグラータへ到着した。
アルトベルクより一回り小さい町。
石壁に囲まれてはいるが、高い建物はほとんどなく、町全体が落ち着いた雰囲気だった。
「今日はここで泊まりだ。」
ガレスが荷馬車を止める。
「明日は荷下ろしと仕入れがある。出発は明後日の朝になるよ。」
「了解です。」
宿屋へ向かう。宿場町だけあって旅人向けの宿が多いらしい。
ゲランが慣れた様子で安宿へ入っていった。
「部屋は一つでいい。」
「はいよ。」
受付の女性は慣れた様子で鍵を渡した。
部屋へ入る。ベッドが四つ。テーブルが一つ。かなり簡素だ。
「へぇ。」
思わず周囲を見回す。
「全員同じ部屋なんですね。」
リリアが荷物を降ろしながら言う。
「安宿だからな。」
ゲランは気にした様子もない。
俺は少しだけ気になった。
(……リリア、女の子だけど大丈夫なのか?)
現代日本なら男女同室なんてまずあり得ない。
だが当の本人は全く気にしていない。
「疲れましたねぇ。」
そう言いながら普通に隣のベッドへ腰掛ける。
ゲランもゴッソも当然のように荷物を置き始めた。
(……この世界だと普通なのか。)
冒険者は旅が多い。宿代も馬鹿にならない。
部屋を分けるより、一部屋で泊まる方が当たり前なのかもしれない。
「飯行くぞ。」
「はーい。」
食事を済ませ、部屋へ戻る。
リリアは「おやすみなさい」と言うなり布団へ潜り込み、数分後には寝息を立て始めていた。
(順応早いな……。)
俺も苦笑しながら横になる。
歩き疲れていたせいか、そのまま眠りへ落ちた。
◇◇◇
翌朝。
「今日は自由時間だ。」
朝食を食べながらガレスが言う。
「私は荷物を降ろして、新しい商品を仕入れてくる。夕方まで戻らないと思う。」
「じゃあ町でも案内するか。」
ゲランが立ち上がった。
「ダイスケ、お前まだ宿場町見たことねぇだろ。」
「ぶっちゃけアルトベルク以外全然知らないな」
「それもそれでどうなんだ?」
こうして四人で町を歩くことになった。
◇◇◇
「思ったより人が多いですね。」
町へ出ると、朝から多くの人が行き交っていた。
馬車。商人。旅人。冒険者。
様々な人が行き来している。
「住民はそんなに多くねぇ。」
ゲランが説明する。
「歩いてる奴らのほとんどは旅人だ。」
「王都とアルトベルクを行き来する中継地点。」
ゴッソが補足した。
なるほど。宿場町だから人は多い。
でも町の人口自体は少ないわけか。
「住んでる人は商売してる人が多いですね。」
リリアも辺りを見回している。
宿屋。
食堂。
鍛冶屋。
道具屋。
馬屋。
旅人相手の店が目立つ。
「宿場町だからな。」
ゲランが笑った。
「旅人が来ねぇと商売にならねぇ。」
そういや結構屋台とかも多いな。
あ、あの串焼き美味しそう。
◇◇◇
市場へ足を運ぶ。
肉。野菜。果物。
干し肉。保存食。
武器。防具。道具。
一通り見て回る。
「……。」
少し首を傾げた。
「どうした?」
「いや。」
苦笑する。
「思ったより普通だなって。」
ゲランが笑った。
「まぁアルトベルクから歩いて二日だからな。」
「馬なら一日。」
ゴッソが続ける。
「流通も同じ。」
確かにそうだ。
珍しい商品が並ぶと思っていたが、ほとんど見覚えがあるものばかりだった。
まだ王都とは違う。ここはアルトベルクの延長線上なんだ。
◇◇◇
その後、冒険者ギルドにも立ち寄った。
「小さい……。」
思わず声が漏れる。
建物自体がアルトベルクの半分ほどしかない。
受付も二人だけ。修練所も見当たらない。
「宿場町だからな。」
ゲランが肩をすくめる。
「冒険者は多い。でも長居しねぇ。」
依頼書を見る。魔物討伐。薬草採取。
街道警備。ほとんどが周辺の仕事だった。
「修練所はないんですね。」
「必要ない。」
ゴッソが短く答える。
「強くなるならでかい町。」
なるほど。ここは旅人が一晩泊まるための町。
冒険者が腰を据えて活動する場所ではないんだ。
◇◇◇
宿へ戻る途中。
「明日からまた歩きだな。」
ゲランが大きく伸びをした。
「まだ十二日くらいある。」
「長いですねぇ。」
リリアが苦笑する。
「でも。」
俺は前を見た。
「少しずつ王都に近付いてる。」
その一言にゲランが笑う。
「そういうことだ。」
宿場町グラータ。
王都まで続く長い旅路。
その第一歩は、思っていたよりも穏やかな一日だった。




