表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
普通人が行く異世界冒険記  作者: 豆腐斧
第一章 アルトベルク編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/48

幕間 ゲランとゴッソ(後編)

朝靄が立ち込める街道。荷馬車はゆっくりと王都へ向かって進んでいた。

護衛は俺とゲラン。そして、新人二人。

荷台の後ろではダイスケとリリアが楽しそうに話している。

ゲランは先頭を歩いていた。相変わらずだ。

歩くのが速い。でも。


(……ちゃんと後ろを見てる。)


昔から変わらない。

皆がついていけるぎりぎりの速さ。

速すぎない。遅すぎない。

他人に合わせていることを、本人は絶対に認めないだろう。

だから何も言わない。それでいい。


「おーい!」


ゲランが振り返る。


「ゴッソ今なんか考え事してただろ!」


「……あぁ。」


返事だけする。


昔を思い出していただけだ。

村を出てから十年。

色んな町を歩いた。

色んな依頼を受けた。

護衛。討伐。採集。

失敗もした。冒険者登録をして間もない頃腹痛草も食べた。

三日寝込んだ。今思い出しても恥ずかしい。


「お前ほんと何でも口に入れるよな!」


あの時のゲランは笑い転げていた。

笑いすぎだ。こちらは死ぬかと思ったんだ。


王都。仕事は少なかった。

冒険者は多かった。新人なんて掃いて捨てるほどいた。

依頼を取り合う毎日。稼げない。食えない。眠れない。

そんな生活だった。


「ここじゃ無理だな。」


ゲランが言った。


「別の町行くぞ。」


俺は頷いた。どこでも良かった。

ゲランが行くなら俺も行く。

町を転々とした。小さな村。鉱山町。港町。

色んな場所へ行った。

そして十八歳。アルトベルクへ来た。


「ここ、いい町だな。」


ゲランが言った。


森が近い。依頼が多い。新人も育つ。

何より冒険者が生きやすい。俺もそう思った。

ここを拠点にしよう。二人で決めた。



そこでガルドと出会った。剣の腕が異常に強い男。

ゲランは嬉しそうだった。


「教えてくれ!」


毎日通った。殴られて。転ばされて。立ち上がって。

また殴られて。楽しそうだった。


俺は槍だったからガルドから教わることは少なかった。

たまたま同じ時間、槍の講習があったから俺はそちらで修行した。



横で見ていた。ゲランはどんどん強くなった。

俺も負けたくなかった。だから槍を振った。

毎日。

毎日。

毎日。


ゲランが二十二歳の時。

俺たちはCランクになった。


「よっしゃあああ!!」


町中に聞こえるくらい叫んでいた。

少し恥ずかしかった。でも嬉しかった。

俺も同じ気持ちだった。


Cランク。

ようやく一人前。

村で夢を語っていた子供が少しだけ夢に近付いた日だった。

Bランクも見えてきた頃だった。


護衛依頼。森。

見慣れない男がいた。

変な服。見たことない靴。

武器もない。レベル1。


(怪しい。)


ゲランもそう思ったらしい。

でも悪人には見えなかった。


「とりあえず町へ連れて行こう。」


依頼主がそう言った。俺たちは雇われているだけだ。

依頼主に従う。それだけだった。


「町まであとどれくらいですか?」

「もう見える」


いつも通り、普通に答えた。

もしかしたら初対面ではぶっきらぼうに見えたかもしれないな。

あまり会話は得意じゃない。何を話していいのかわからない。

ゲランとは余裕で意思疎通できるんだが…


アルトベルクでいつもと同じ宿に戻る。

偶然か?あいつも俺たちと同じ宿だった。

ガレス氏が紹介したらしい。


(面倒見ることになる。)


そんな気がした。

予感は当たる。

最初は何もできなかった。

剣も。魔法も。知識も。

全部ゼロ。普通なら一か月もしないうちに辞める。

そう思っていた。


でも辞めなかった。

毎日草原で採取する。帰ってくる。

また草原へ行く。また次の日も、その次の日も。


少しずつ。本当に少しずつ。

強くなっていった。


ある日。スケルトンを一人で倒したと聞いた。

驚いた。早い。成長が早すぎる。


「才能か?」


ゲランは言った。

俺は違うと思った。努力だ。

毎日積み重ねた結果。それだけだ。


だんだんと距離が近付いていく感じがした。



リリアも同じだった。

最初は不安そうな顔をしていた。

でも薬草の話になると止まらない。

目が輝く。知識を吸収する。覚える。試す。

失敗する。また覚える。あれは伸びる。

教える側は楽しい。久しぶりだった。

誰かに知識を伝えるのは。


先日、リリアがレベル10になった。

嬉しそうだった。王都へ行ける。その笑顔を見て。

少しだけ昔を思い出した。


十年前。


俺とゲランも同じ顔をしていた。


「おーい!」


ゲランが振り返る。


「そろそろ休憩するぞ!」

「…あぁ。」


荷馬車も止まる。

ダイスケとリリアが降りてくる。


「ゴッソさん!」


リリアが駆け寄る。


「昨日教えてもらった薬草なんですけど!」


もう質問だ。元気だな。少し笑ってしまう。


「あとで。」

「はい!」


素直だ。教えがいがある。その様子を見ていたゲランが笑う。


「お前、完全に師匠じゃねぇか。」

「……違う。」

「違わねぇよ。」


違う。俺は師匠なんかじゃない。

知ってることを教えただけ。それだけだ。


でも悪い気はしなかった。ゲランが空を見上げる。


「あと十日くらいか。」


王都。久しぶりだ。


「ダイスケ。」

「はい?」

「王都は広い。」

「楽しみだよ。」

「リリア。」

「はい!」

「迷子になるなよ。」

「なりません!」

「そうだといいが。」

「なりませんって!」


笑い声が街道へ響く。平和だ。

こういう依頼も悪くない。


(……少し楽しみだ。)


王都へ着いた時。あの二人がどんな顔をするのか。

きっと驚く。きっと目を輝かせる。

十年前の俺たちみたいに。


俺は少しだけ口元を緩めた。

ゲランは気付いて笑った。


「お、笑った。」

「……笑ってない。」

「いや笑った。」

「笑ってない。」

「リリアー!ゴッソ笑ったぞー!」

「えぇ!?ほんとですか!?」

「……。」


違う。笑ってない。


……たぶん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ