表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
普通人が行く異世界冒険記  作者: 豆腐斧
第一章 アルトベルク編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/48

幕間 ゲランとゴッソ(前編)

ゲランとゴッソの過去のお話です

朝日が昇る。村の入口で一人の少年が大声を張り上げた。


「おい!ゴッソ!早く来いよ!」


俺は慌てて家を飛び出す。


「うん……。」


ゲランはもう村の外へ歩き始めていた。

昔からそうだ。あいつはいつも前を歩く。

でも、不思議と置いていかれたことは一度もない。

俺が走れば追い付ける。

歩けば少しだけ待ってくれる。

あいつは何も言わない。

たぶん無意識なんだろう。

子供の頃からずっとそうだった。

俺にとってゲランは兄貴みたいな存在だった。



◇◇◇


俺たちの故郷はアルバという村だ。

王都から東へ二週間ほど。

森を切り開いて作られた小さな開拓村。

朝日が最初に差し込むことから、『日の出の村』なんて呼ばれている。


俺たちの親はどちらも開拓者だった。

王都から移住してきた平民。

毎日畑を耕し、森を切り開き、少しずつ村を広げていく。

そんな生活だった。

ゲランは三人兄弟の末っ子。俺は五人兄弟の次男。


どちらも家を継ぐ立場じゃない。

だから小さい頃から自由だった。


……自由と言っても、農作業が終わってからだけど。



◇◇◇


「おらぁ!!」


木剣が飛んでくる。

痛い。すごく痛い。俺は転がる。


「また俺の勝ちだな!」

ゲランは笑う。

ゲランは十歳。俺は九歳。

一歳しか違わない。

なのに全然勝てなかった。


「もっと来いよ!」

「……無理。」


速い。力も強い。俺が振る前に叩かれる。

村の子供たちは最初こそみんな集まって遊んでいた。

十人。

八人。

六人。

四人。

少しずつ減っていった。


「ゲラン強すぎるって。」

「勝てねぇよ。」

「帰ろうぜ。」


そんな声を何度も聞いた。

気付けば残ったのは俺だけだった。

……悔しかった。


負けるのは嫌だった。だから俺は毎日来た。



◇◇◇


ある日の事だった。

鍬に使っていた持ち手部分の長い木の棒を拾った。


「何だそれ?」

「これ。」


木剣じゃ届かない。なら長ければいい。

単純な発想だった。


「ずるくね?」

「ゲランが強すぎる。」


ゲランは少し考えてから笑った。


「よし!」


ゲランももっと長い枝を探し始めた。

でも。


「これじゃ剣じゃねぇな。」


結局ゲランは木剣。

俺は長い棒。その日初めて互角だった。


「やるじゃねぇか!」


ゲランは嬉しそうだった。

俺も嬉しかった。

そこから俺は棒ばかり振るようになった。

やがて棒は槍へ。

ゲランはずっと剣。

今思えばあの日が全部の始まりだった。



◇◇◇


それから毎日。朝は畑。昼も畑。

夕方になれば村外れの広場。

日が沈むまで打ち合い。

次の日も。また次の日も。飽きることなく。


「もっと速く!まだまだ!」


ゲランは何度倒れても立たせてくれた。

俺も何度負けても向かっていった。

負けるのは悔しい。でもゲランと剣を交える時間は好きだった。



◇◇◇


十五歳になった頃にはもう村で俺たちに勝てる人はいなかった。

村長ですら笑って言う。


「お前たちは村一番だ。」


でもゲランは首を振る。


「違う。そんなもんじゃねぇ」


木剣を肩へ担ぐ。


「俺は世界一になるぜ?」


世界。そんなもの考えたこともなかった。

でも、ゲランが言うならきっとそうなるんだ。


「俺、冒険者になる。」


真っ直ぐ前を見る。


「一番強い冒険者になって名前を残す。」


俺は少し考えて。


「……俺も。」


そう答えた。

理由なんて簡単だった。

ゲランが行くなら俺も行く。

ただそれだけだった。



◇◇◇


十六歳。

ゲランは家族へ旅立ちを告げた。


「行ってくる!」


父親は笑って送り出した。


「好きにやれ!」


母親は少し泣いていた。

俺の家も似たようなものだった。


「次男なんだから好きにしな。」


父はそう言って笑った。

母だけは最後まで泣いていた。

兄弟たちは羨ましそうに荷物を覗いていた。

村のみんなが見送ってくれた。


「絶対有名になれよ!」

「王都で頑張れ!」

「帰ってきたら武勇伝聞かせろ!」


ゲランは大きく手を振る。


「任せろ!!」


朝日が昇る。

アルバ村の門を出る。

俺は一度だけ振り返った。

小さな村。畑。家。

毎日木剣を振っていた広場。

全部少しずつ遠くなる。

でも不思議と寂しくはなかった。

前にはゲランがいる。

その背中を追い掛ければいい。


子供の頃からずっとそうしてきた。

これからも、きっと変わらない。


そう思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ