第三十九話 旅立ち
翌朝。
「よし、今日も行くぞ。」
ゲランが豪快に笑いながら森へ踏み込む。
「よろしくお願いします!」
リリアも元気よく返事をする。
昨日の狩りでかなり稼げた。
リリアもレベル9。王都まであと一歩。
今日はその最後のひと押しになるかもしれない。
◇◇◇
森の奥へ進む。昨日歩いた道をさらに奥へ。
「今日はオーガ中心だ。」
ゲランが振り返る。
「昨日みたいに俺らが危険度見て振り分ける。」
「了解。」
「無理そうなら俺らだけで倒す。」
ゴッソが短く言う。俺もリリアも頷いた。
昨日だけでかなり自信は付いた。
でも油断はしない。
以前のオーガ戦で、それがどれだけ危険か嫌というほど思い知っている。
◇◇◇
歩き始めて三十分ほど。
気配察知に何かが引っ掛かった。
「あれ……。」
「どうした?」
「前方。」
集中する。複数いる。しかも速い。
「何かいます。」
ゴッソも同じ方向を見る。
「……いる。」
その瞬間だった。
ガサッ!!
藪が揺れた。現れたのは灰色の毛並みを持つ二足歩行の狼。
鋭い牙。長い爪。筋肉質な身体。
一匹。
二匹。
三匹。
四匹。
「ウェアウルフ!」
思わず叫ぶ。以前図鑑で見た魔物。
群れで行動する危険な魔物だ。
ゲランは数を数える。
「四匹か。」
そしてニヤリと笑った。
「小規模の群れだ!ラッキーだぜ!」
「ラッキー?」
俺は思わず聞き返した。
「十匹以上いたら即撤退だ。ウェアウルフは数が増えるほど厄介になる。」
ゴッソが説明する。
「四匹なら問題ない。」
ゲランが剣を抜いた。
「俺が三匹受け持つ。ゴッソ!」
「俺は一匹抑える。」
「その一匹をダイスケとリリアで倒せ。」
「了解!」
俺も剣を抜いた。
◇◇◇
「行くぞ!!」
ゲランが地面を蹴る。速い。
一瞬で三匹の前へ飛び込んだ。
ガギィィン!!
剣が振るわれる。ウェアウルフの爪を受け流す。
そのまま身体を回転させ、もう一匹の腹を斬る。
三匹を相手にしているのに全く押されていない。
「すげぇ……。」
見惚れてしまうほどだった。
一方。ゴッソは一匹だけを相手に槍を構える。
最低限の攻撃だけ。完全に時間を稼いでいる。
「ダイスケ。行け。」
「分かった!」
俺が飛び出す。ウェアウルフがこちらを見る。
鋭い爪を振り下ろす。
「速っ!」
横へステップして避ける。ガントレットで爪を弾く。
ギィン!!
重い。だが受けられる。
「リリア!」
「はい!」
ブンッ!!
フレイルが横薙ぎに唸る。
ゴッ!!
脇腹へ命中。ウェアウルフが体勢を崩した。
「今だ!」
ザシュッ!!
剣を振り抜く。肩口から血が飛び散る。
だが。
「グルルル……。」
全然倒れない。むしろ怒った。
低く唸りながら距離を取る。
「賢いな。」
正面から来ない。左右へ走る。
フェイント。飛び掛かる瞬間を狙っている。
「来ます!」
リリアが叫ぶ。
右。違う。
左。違う。
正面!
「そこ!」
飛び掛かってきた。俺は剣を突き出す。
ズブッ!!
胸へ刺さる。勢いそのまま身体がぶつかる。
「ぐっ!」
押し込まれる。その瞬間。
「えいっ!!」
ゴォッ!!
リリアのフレイルが顔面を横から打ち抜いた。
ウェアウルフが吹き飛ぶ。地面を転がる。
まだ動く。
「しぶとい!」
立ち上がろうとしたところへ。
ザシュッ!!
俺が首を斬り裂いた。
ドサッ……
動かなくなる。
「よし!」
一体目討伐。
◇◇◇
「もう一匹行くぞ!」
ゲランが叫ぶ。三匹のうち一匹を蹴り飛ばした。
ゴッソがその一匹を受け止める。
「次はこいつ。」
「了解!」
ウェアウルフはさっきの個体より少し大きい。
「リリア!」
「はい!」
二人で左右へ散る。
ウェアウルフもすぐ対応するがゴッソの槍に足を絡め取られる。
「今です!」
リリアが背後へ回る。
ブンッ!!
フレイル。
ウェアウルフの肩口をフレイルで殴打する。
ウェアウルフが体を捻りそのままリリアへ爪を振るう。
「しまっ……!」
鋭い爪が迫る。
「危ない!」
リリアを突き飛ばした次の瞬間。
ザシュッ!!
左腕に熱い痛みが走る。
「っ!!」
爪がガントレットの隙間を掠めた。血が飛ぶ。
「ダイスケさん!!」
リリアの叫び声。痛い。でも深くない。
「俺は大丈夫!」
そう言った瞬間だった。
「下がれ。」
ゴッソの声。
ヒュッ!!
槍が一直線に飛ぶ。
ドスッ!!
ウェアウルフの肩を貫いた。動きが止まる。
「今。」
「はい!」
リリアが跳ぶ。
ゴォォン!!
フレイルが顔面へ炸裂。
ウェアウルフが怯む。俺も踏み込む。
ソードスラッシュ。
「はぁぁぁっ!!」
渾身の一撃。
ザァァァッ!!
首元を深く斬り裂く。
ウェアウルフが数歩よろめき──
ドサッ……
静かに倒れた。
「……倒した。」
息を吐く。
左腕がジンジン痛む。
◇◇◇
「怪我したか。」
ゲランがこちらを見る。
その頃には残る二匹もほぼ決着がついていた。
一匹はゲランが首を刎ね。もう一匹はゴッソの槍が心臓を貫いていた。
「大丈夫だ…」
そう答えたものの血は止まっていない。
「無理するな。」
ゴッソが荷物を降ろした。
「座れ。」
俺は素直に従う。
リリアも心配そうに隣へしゃがみ込んだ。
「薬草。」
ゴッソは袋から数種類の薬草を取り出す。
「これはヒールリーフ。」
細長い緑色の葉だった。
「そのまま貼るんですか?」
リリアが尋ねる。ゴッソは首を振る。
「違う。」
短剣で葉を細かく刻む。さらに石で押し潰す。
鮮やかな緑色の汁が染み出した。
「汁を使う。」
傷へ塗る。その上から別の薬草を重ねる。
最後に包帯。手際が異常に良い。
「覚えて。」
「はい!」
リリアは真剣な顔で頷いていた。
「ヒールリーフだけじゃ駄目。組み合わせ。」
薬師は知識。冒険者は経験。両方必要。」
リリアは目を輝かせる。
「すごく勉強になります……!」
ゴッソは少しだけ口元を緩めた。
「興味あるならまた教える。」
「お願いします!」
リリアは深々と頭を下げた。
俺はその様子を見て思わず笑う。
どうやらリリアにとって、王都へ行く前に師匠ができたらしい。
◇◇◇
ゴッソの手当てを受けてから三十分ほど休憩した。
左腕はまだ少し痛むものの、剣を振るうくらいなら問題ない。
「動かしてみろ。」
ゴッソに言われ、ゆっくり腕を回す。
「……大丈夫そうだ。」
「よし。」
短くそう言うと、荷物をまとめ始めた。
ゲランが立ち上がる。
「よし。狩り再開だ。」
「まだやるんですか?」
リリアが少し驚いた顔をする。
「今日はお前をレベル10にする日だからな。」
ニヤリと笑う。
「帰るにはまだ早ぇ。」
リリアは笑顔になった。
「はい!」
◇◇◇
その後も狩りは順調だった。
オーガ。スケルトン。
オーガ。スケルトン。
苦戦していた相手も、ゲランとゴッソがいるだけで別世界になる。
危険な個体は二人だけで処理。俺たちは比較的弱い個体を担当する。
経験を積むにはこれ以上ない環境だった。
「左。」
気配察知が反応する。
「オーガです。」
「行くぞ。」
ゲランが前へ飛び出す。
俺とリリアも続く。
「ダイスケ!」
「おう!」
ゲランがオーガの拳を受け止める。
「今だ!」
俺は横から踏み込む。
ザシュッ!!
膝裏を深く斬り裂く。
オーガが大きく体勢を崩した。
「ガァァッ!」
「今!」
リリアのフレイルが頭へ炸裂する。
ゴッ!!
その隙に俺が首筋へ剣を振るう。
ザシュッ!!
オーガが倒れた。
【レベルが上昇しました】
【ステータス】
名前:ヤスモトダイスケ
レベル:12
加護:均衡成長
スキル:万能適正、武器扱い Lv4、採取 Lv3、解体 Lv4、火魔法 Lv3、水魔法 Lv3、風魔法 Lv2、気配察知 Lv2、投擲 Lv1
筋力:43
敏捷:43
体力:43
魔力:43
精神:43
運:43
魔法:リトルファイア、ファイア、ファイアボール、ウォーター、ウォーターカーテン、ウォーターショット、ウインド、ウインドケージ
技:ソードスラッシュ
【武器扱いLv5になりました】
「武器扱いか。」
◇◇◇
狩りはまだ続く。
次はスケルトン。
錆びた剣を持つ骸骨が二体。
「一体任せる。」
ゲランが片方を引き受ける。
もう一体が俺へ向かってきた。
剣を構える。その瞬間。不思議な感覚。
そこじゃない。視線が首へ向かう。違う。
肩でもない。腰骨。
「そこか!」
ザンッ!!
骨盤を斬る。スケルトンの姿勢が崩れた。
「え?」
リリアも驚いている。俺も驚いていた。
そこへ。
「えいっ!」
ゴッ!!
フレイルが頭蓋骨を粉砕。
ドシャッ!!
スケルトンは完全に動かなくなった。
「……。」
分かる。急所。関節。力の流れ。
どこを斬れば一番効率よく相手を崩せるか。
頭で考えていない。身体が勝手に選んでいる。
「これが……武器扱いLv5か。」
思わず笑ってしまった。
かなり強い。
◇◇◇
その直後だった。
「やりました!」
リリアが声を上げた。
【レベルが上昇しました】
「レベル10です!」
「おぉぉ!」
ゲランが大笑いした。
「やったじゃねぇか!」
「ありがとうございます!」
リリアは嬉しそうに飛び跳ねる。
「これで王都へ行けます!」
その一言に俺も思わず笑う。
「あぁ。」
「約束守れそうだ。」
「はい!」
本当に嬉しそうだった。
◇◇◇
夕方、俺たちは町へ戻った。
ギルドへ素材を運ぶ。オーガ。スケルトン。ウェアウルフ。
大量の素材がカウンターへ並ぶ。
受付には久しぶりの顔。
「あっ!」
ミーナだった。
「ダイスケさん!リリアさん!」
笑顔で迎えてくれる。
「今日はすごい量ですね!」
「合同狩りだったからな。」
ゲランが笑う。
ミーナは査定を始めた。しばらくして顔を上げる。
「合計で――金貨四枚、銀貨二十枚になります。」
「おぉ。」
今日はかなりの数を狩ったから思った以上だった。
均等に分けても十分すぎる収入になる。
換金を終えたところで俺はミーナへ話しかけた。
「そうだ。近いうち王都へ行くことになった。」
「えっ!」
ミーナが目を丸くする。
「本当ですか!?」
「あぁ。」
「ゲランとゴッソについて行く。」
リリアも胸を張る。
「私もレベル10になったので一緒です!」
ミーナは満面の笑みになった。
「おめでとうございます!二人とも本当に頑張りましたね。」
そして少し笑って言った。
「王都のお土産、楽しみにしてますね。」
「はい!」
リリアが元気よく返事をする。
「いっぱい買ってきます!」
「ふふっ。」
ミーナが嬉しそうに笑った。
◇◇◇
その夜。いつもの酒場。
合同狩りの打ち上げだった。
「乾杯!!」
ジョッキがぶつかる。
今日はよく飲める。リリアは果実水で乾杯だ。
しばらく談笑した後、ゲランがジョッキを置いた。
「そういやよ、今日ギルドで護衛依頼受けてきた。」
「もう受けたのか?」
「あぁ。王都行きだ。」
俺は姿勢を正した。
「出発は?」
ゲランが笑う。
「五日後。朝一番。町の正門集合だ。」
ようやく日程が決まった。
「その間。」
ゴッソが口を開く。
「旅費。稼ぐ。王都は物価高い。今のうちに稼いどけ。」
確かにその通りだ。
「じゃあ。」
俺はリリアを見る。
「残り五日。」
「お金稼ぎメインだな。」
「はい!」
リリアも力強く頷いた。
◇◇◇
それから五日間。
俺たちは毎日森へ入り、危険を避けながら着実に素材を集め続けた。
ゴブリン。オーク。ジャイアント・ビー。フォレストウルフ。
無理はしない。確実に稼ぐ。そんな五日間だった。
そして出発の日。まだ朝日も昇りきらない時間。
アルトベルクの正門。大きな荷馬車が停まっている。
ゲランが腕を組んでいる。ゴッソが荷物を確認していた。
「お。来たな。」
俺とリリアは大きな荷物を背負って歩いていく。
「忘れ物は?」
ゲランが笑う。
「大丈夫です!準備万端です!」
リリアも元気よく頷いた。
「ダイスケ君、久しぶりだな。見違えたぞ」
見覚えのある恰幅の良い商人が声をかけてきた。
「ガレスさん!お久しぶりです!」
「へへっ!どうせなら知ってる人の護衛の方がいいだろ?」
ゲランが笑いながら言ってきた。
この町に連れてきてもらったあとも色々お世話になった人だ。
こんな形で恩を返せるとは思ってなかった。
「王都まで、よろしく頼むよ。ダイスケ君。」
「はい!全力で頑張ります!」
門の外へ目を向ける。ここから先は未知の世界。
異世界へ来て約三か月。冒険者になり。仲間ができ。
初めて町を飛び出す。目指すは――王都。
「それじゃ。」
ゲランが笑う。
「行くぞ。」
俺たちはアルトベルクをあとにした。
第一章アルトベルク編終了です。
幕間を挟んで第二章王都編のスタートです。
【ステータス】
名前:ヤスモトダイスケ
レベル:12
加護:均衡成長
スキル:万能適正、武器扱い Lv5、採取 Lv3、解体 Lv4、火魔法 Lv3、水魔法 Lv3、風魔法 Lv2、気配察知 Lv2、投擲 Lv1
筋力:43
敏捷:43
体力:43
魔力:43
精神:43
運:43
魔法:リトルファイア、ファイア、ファイアボール、ウォーター、ウォーターカーテン、ウォーターショット、ウインド、ウインドケージ
技:ソードスラッシュ
名前:リリア
レベル:10
スキル:採取 Lv3、解体 Lv4、鈍器術 Lv3、索敵 Lv1
筋力:24
敏捷:47
体力:27
魔力:31
精神:56
運:61




