第三十四話 風の契約
町についた俺とリリアは冒険者ギルドの受付へ向かっていた。
革袋の中では、先ほど回収したジャイアント・ビーの素材が小気味よく音を立てている。
「今回は全部無事ですね。」
リリアが嬉しそうに笑う。
「ああ。焦がさなくて済んだからな。」
針も大顎も綺麗なまま。
前回とは大違いだ。
◇◇◇
「お疲れ様でした!」
受付では、いつものようにミーナが笑顔で迎えてくれた。
「今日はジャイアント・ビーが多いですね!」
机の上へ素材を並べる。
針。大顎。魔石。
綺麗に揃った素材を見て、ミーナは感心したように頷いた。
「前回は魔石だけでしたもんね。」
「今回はちゃんと狩れました。」
「すごいです!」
リリアも少し誇らしそうだ。
査定が始まる。
ジャイアント・ビーの素材だけではない。
途中で討伐したゴブリン。オーク。薬草類。
ミーナは一つ一つ確認し、計算盤を弾いていく。
「お待たせしました。」
紙から顔を上げる。
「本日の買取金額ですが──」
少し間を置いて、
「銀貨五十四枚と銅貨六枚になります!」
「おぉ!」
「やりました!」
思わず声が出た。
昨日と同じくらい稼げている。
リリアも嬉しそうに両手を握る。
「これで……。」
革袋を開く。銀貨を数える。
「昨日と合わせると百枚超えたな。」
「わぁ……。」
リリアが目を丸くした。
「私、こんな短期間でこんなに稼いだ事ないです」
「俺もだ…パーティってすごいな…」
二人で顔を見合わせて笑う。
◇◇◇
ギルドを出る。
「明日はどうします?」
リリアが尋ねた。
俺は少し考えてから答える。
「狩りは休みにしよう。」
「お休みですか?」
「たまには町をゆっくり見て回るのも悪くない。」
リリアはぱっと笑顔になった。
「賛成です!」
◇◇◇
翌朝、最初に向かったのは、魔術師ギルドだった。
扉を開ける。店内には相変わらず静かな空気が流れている。
「いらっしゃいませ。お久しぶりですね。」
ギルドの受付嬢が笑顔を向ける。
「今回も魔法の契約でしょうか?」
「えぇ、風魔法も覚えようかと。」
店主が少しだけ眉を上げる。
「前回は水でしたね。全属性行われるのですか?」
「火と水がいけたので風もいけるんじゃないかなと」
「一番難易度の高い火と水の2属性をクリアされてるので大いに可能性はありますね。
少ないながらも全属性使われる方もいらっしゃいます。」
「そう言ってもらえるとやる気でます。風って何となくカッコイイ感じもしますし。」
俺は少し笑って答えた。
「…まぁ否定はしません。では金貨1枚か銀貨100枚をお願いします。
お連れ様は契約が終わるまでこちらでお待ちください。」
お金を払い、契約室へ案内される。
前回と同じ窓のない部屋だ。緑の魔法陣が光っている。
「では風の契約を行います。」
魔法陣が淡く光り始めた。
足元から淡い緑色の光が立ち昇る。
風が吹く。
優しい風が身体を包み込み、そのまま胸の奥へ吸い込まれていくような感覚。
しばらくして光が消えた。
「終わりました。ステータスの確認をお願いします。」
「はい!」
【ステータス】
名前:ヤスモトダイスケ
レベル:9
加護:均衡成長
スキル:万能適正、武器扱い Lv2、採取 Lv2、解体 Lv2、火魔法 Lv3、水魔法 Lv2、風魔法 Lv1、気配察知 Lv1
筋力:34
敏捷:34
体力:34
魔力:34
精神:34
運:34
魔法:リトルファイア、ファイア、ファイアボール、ウォーター、ウォーターカーテン、ウインド
技:ソードスラッシュ
「風魔法の契約成功です!」
「おめでとうございます。しかし3属性ですか。素晴らしい才能です。」
「ありがとうございます!」
◇◇◇
店の外へ出る。リリアが期待した顔で聞いてきた。
「早速試します?」
「もちろん。」
俺は右手を前へ出した。
「ウインド。」
ふわっ。優しい風が吹く。
リリアの前髪が揺れる。俺の髪も少しだけ揺れた。
服の裾が軽くはためく。
…………。
終わり。
「……。」
「……。」
俺とリリアは顔を見合わせた。
「以上?」
「以上……ですね。」
もう一度。
「ウインド。」
ビュゥ……
少し強めの扇風機の強くらいの風。
「……。」
「……。」
リリアが首を傾げる。
「これ、どう使うんでしょう?」
「俺が聞きたい。」
思わず笑ってしまった。
火は攻撃。
水は飲める。
でも風。
「涼しそうですね!」
リリアは満面の笑み。
「その使い方でいいのか?」
「いいと思います!」
「…暑かったら言ってくれ……」
◇◇◇
歩きながら俺は小さく笑う。
火。水。そして風。
三つの属性が使えるようになった。
一つ一つはまだ弱い。
でも、着実に増えている。
「次は土だな。」
「本当に全部覚えるんですか?」
「せっかくならね。試してみないと。」
俺がそう言うと、
リリアは楽しそうに笑った。
「ダイスケさんらしいです。」
俺も笑う。全部覚えた先に、どんな魔法が待っているのか。
今から少し楽しみだった。
◇◇◇
「そういえば。」
しばらく歩いたところで、リリアが少し遠慮がちに口を開いた。
「あの……。」
「ん?」
「もし、このあとお時間があれば……買いたい物があるんです。」
俺は頷いた。
「もちろん。せっかくの休みだし付き合うよ。」
リリアの表情がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます!」
そう言って向かった先は、見慣れた武器屋だった。
武器屋の扉を開ける。カラン、と鈴が鳴った。
「いらっしゃい」
聞き慣れた声が店内に響く。
「ダイスケじゃないか。」
カウンターの向こうでリズが笑っていた。
「また世話になるよ。」
「今日はどうしたんだ?投げナイフでも追加か?」
「あぁ、そういや昨日数本無くしたし追加で何本かもらおうかな。
で、今日は俺じゃなくてリリアが欲しいのがあるんだって。」
リズがリリアを見る。
「採取道具を見たいんです。」
「採取道具?」
「はい。今までは手で薬草を採ってたので……。」
「薬草を採るには採取用ナイフを使うのが一般的だね。」
「やっぱりそうですよね……。」
「ちょっと待ってな。」
リズは店の奥へ消えていった。
しばらくして戻ってくる。
手には一本の小さなナイフ。
革の鞘に収まった細身の刃だった。
「採取用ナイフだ。」
リリアが受け取る。鞘から抜くと、刃渡り十センチほど。
先端は細く、刃も薄い。
「軽い……。根を傷付けず切れるようになってる。」
リズは笑いながら説明した。
「無理に引っ張ると薬草も傷むからな。」
「なるほど……。」
リリアは何度も握り直している。手にぴったり馴染むらしい。
「あと、それなら。」
今度は棚から革製のショルダーバッグを取り出した。
深い茶色の革で作られている。
中には小さな仕切りがいくつも付いていた。
「採取バッグだ。」
「かわいい……。」
リリアがぽつりと呟く。
その一言で、リズも俺も思わず笑ってしまった。
「可愛いだけじゃないよ。」
リズはバッグを開く。
「薬草を種類ごとに分けられるし瓶も入る。傷みやすい薬草も潰れにくい。」
「すごい……。」
リリアの目が完全に輝いていた。
「いくらですか?」
「採取ナイフが銀貨二枚。バッグが銀貨五枚。合わせて七枚だね。」
リリアは財布を取り出す。
「買います!」
迷いはなかった。銀貨を七枚並べる。
「毎度。」
リズは笑って受け取った。
リリアは新しいバッグを肩へ掛ける。
採取ナイフを腰へ差す。
嬉しそうに何度も触っていた。
「似合ってるじゃないか。」
「えへへ……。」
リリアの笑顔を見たリズも満足そうに頷いた。
「その装備ならきっと薬草ももっと採りやすくなるよ。」
「ありがとうございます!大事に使います!」
深々と頭を下げるリリア。
「使ったら痛んでいくからいつでも研ぎにおいで。」
リズは腕を組んで笑う。
「はい!」
リリアが元気よく返事をする。
俺も投げナイフの支払いを済ませ、リズの店を後にした。
店を出たあともリリアは何度もバッグを撫でている。
「そんなに嬉しい?」
「はい!採取セット、ずっと欲しかったんです。」
その声には隠しきれない喜びが滲んでいる。
俺は思わず笑った。
「よかったな。」
「はい!」
大きく頷いたリリアは、少し歩いたところでふと思い出したように口を開く。
「あっ、もう一つだけ寄ってもいいですか?」
「もちろん。」
「本屋さんです。」
「本?」
「薬学の本が欲しくて。」
その一言に、俺は少し興味を持った。
「なるほど薬学の本か。」
「はい。ちょっとお値段するんですがたくさん稼げたので!」
リリアは嬉しそうに頷く。
そう言って歩き出すリリアの足取りは、さっきまで以上に軽かった。
【ステータス】
名前:ヤスモトダイスケ
レベル:9
加護:均衡成長
スキル:万能適正、武器扱い Lv2、採取 Lv2、解体 Lv2、火魔法 Lv3、水魔法 Lv2、風魔法 Lv1、気配察知 Lv1
筋力:34
敏捷:34
体力:34
魔力:34
精神:34
運:34
魔法:リトルファイア、ファイア、ファイアボール、ウォーター、ウォーターカーテン、ウインド
技:ソードスラッシュ




