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普通人が行く異世界冒険記  作者: 豆腐斧
第一章 アルトベルク編

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第三十三話 投げナイフの実戦

翌朝、宿の扉を開けるといつものようにリリアが待っていた。


「お、おはようございます……。」

「おはよう。」


……様子がおかしい。

いつもなら元気いっぱい手を振るのに、今日は目も合わせようとしない。


「どうした?」

「あ、あの……。」


リリアは耳まで真っ赤になり、深々と頭を下げた。


「昨日はご迷惑をお掛けしました!」

「あぁ、気にしないでいいよ。ちなみに覚えてる?」

「え…えと…お肉が美味しかったぐらいしか…」

「途中で寝たのは?」

「…………。」


数秒固まる。


「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


町中に響くくらい大きな声だった。


「ほ、本当にですか!?」

「本当。」

「私、お酒飲んで寝ちゃったんですか!?」

「しかも部屋まで運んだ。」

「…………。」


リリアは顔を両手で覆った。


「もうお嫁に行けません……。」

「いや、それは大丈夫だと思う。」

「うぅ……。」


肩を落として落ち込んでいる。

その姿が少し面白くて、思わず笑ってしまった。


「笑わないでください~!」

「悪い悪い。」


そんなやり取りをしながらギルドへ向かう。

昨日より少しだけ距離が縮まった気がした。



◇◇◇


依頼を受け、森へ入る。

今日は町の近くではなく、いつもの狩場だ。


「今日はゴブリンから試してみよう。」

「投げナイフですね!」


昨日は小型の魔物ばかりだった。

今日は実戦だ。

茂みの奥。1匹のゴブリンが木の実を拾っていた。

俺は一本目のナイフを抜く。


「いくぞ。」


ヒュッ!

ドスッ!


ナイフが肩へ突き刺さる。


「ギギィッ!!」


ゴブリンは悲鳴を上げるが倒れはしない。

だが、その目が真っ直ぐ俺を捉えた。


「ギャアア!」


棍棒を振り上げて一直線に突っ込んでくる。


「やっぱり一撃じゃ無理か。」


剣を抜く。


ガキィン!


棍棒を受け流す。

その瞬間。


「えいっ!」


ゴッ!


リリアのフレイルがゴブリンの頭へ叩き込まれた。


「ギッ!」


首筋へ剣を走らせる。

ゴブリンはそのまま倒れた。


「なるほど。牽制には十分だな。」


リリアも嬉しそうに笑う。


「最初にダイスケさんへ向いてくれるので、すごく戦いやすいです!」

「これなら連携しやすいな。」


新しい武器の使い道が、一つ見えてきた。



◇◇◇


その後も何匹かのゴブリンを相手に試してみる。

足。肩。腕。どこかしらに当たれば怯む。

外しても注意はこちらへ向く。

ダメージは小さいが十分使える。


「よし。」


次はオークだ。

少し歩くと、木の根元で何かを食べているオークを見つけた。


「今度はあいつだ。」

「大丈夫ですか?」

「試すだけ試すだけ。」


距離を測る。


ヒュッ!

ドスッ!


ナイフが肩へ突き刺さる。


「ブモッ!」


オークが眉をしかめた。


「効いたか?」


そう思った瞬間だった。


「ブモオオオオォォォッ!!」


ものすごい怒号が森へ響く。


ドドドドドドドッ!!


「うわっ!」


一直線にこちらへ突進してきた。


「めちゃくちゃ怒ってる!」


慌てて横へ飛び退く。


ズドォン!!


棍棒が地面を砕く。

土が大きく跳ね上がった。


「全然止まらないな!」

「でも!」


リリアが叫ぶ。


「ちゃんとダイスケさんを狙ってます!」


見ると、オークの視線は完全に俺だけを見ていた。


「なるほど。」


剣を構え、棍棒を受け止める。


ガキィィン!

重い。でも耐えられる。


「えいっ!」


ゴッ!!


リリアのフレイルが横腹へ炸裂した。


「ブモォッ!」


オークが体勢を崩す。


「今だ!」

「はい!」


二人で一気に攻め込み、オークを討伐した。


「威力は全然足りないな。でも怒らせるなら十分だ。」


俺は刺さったままのナイフを抜く。


「怒り方がすごかったですね……。」


リリアが苦笑した。


「うん。ちょっと怖かった。」


二人で顔を見合わせて笑う。



◇◇◇


その日の最後。

森の奥から、聞き覚えのある音が響いた。


ブブブ……


「来ました。」


リリアが空を見上げる。

俺も見上げる。


「ジャイアント・ビー。」


前回とは違う。今は対策がある。


「リリア。」

「はい!」


蜂が一直線に急降下してくる。ギリギリまで引き付ける。


「そこだ!」


ヒュッ!


投げナイフが一直線に飛ぶ。


ガスッ!


右の羽を貫いた。


「ギィッ!」


羽が裂ける。

飛ぶ手段を失ったジャイアント・ビーは、そのまま地面へ墜落した。


「よし!」


駆け寄る。


ザシュッ!


一撃。

討伐完了だった。

リリアが目を輝かせる。


「すごいです!」

「素材も無事だ。」


針も。大顎も。

前回のように焼け焦げてはいない。


「これなら安心して狩れますね!」

「ああ。」


投げナイフ。想像以上に使い勝手が良かった。

俺は少しだけ口元を緩める。


……その時だった。


少し離れた木の枝に、もう1匹のジャイアント・ビーを見つける。


「もう1匹いた。」

「いけますね!」

「その羽、撃ちぬいてやる!」


俺は笑いながらナイフを構えた。


二匹目。

今度も羽を落として討伐。


「これなら完全に戦法として使えるな。」


サクっと素材を回収しながら森の奥へ進んだ。



◇◇◇


「もう四匹目です。」


リリアが嬉しそうに袋を揺らす。

中ではジャイアント・ビーの針と大顎がぶつかり合い、カチャカチャと音を立てていた。


「前回は全部焦がしちゃったからな。」

「今日は取り返せましたね!」

「あぁ。」


魔石も素材も無傷。

ギルドへ持っていけば、それなりの金額になるはずだ。

しばらく歩くと、また羽音が聞こえた。


ブブブブ……


「またいた。」

「今日、多いですね。」


木々の間を飛ぶジャイアント・ビー。

もう慌てない。俺は腰から投げナイフを抜いた。


「いくぞ。」


蜂が急降下する。


ヒュッ!

ドスッ!


ナイフが羽を貫く。


「ギィッ!」


バランスを失った巨体が地面へ落ちる。


「今!」

「はい!」


俺が剣を振り下ろし、リリアがフレイルを構える。


戦闘は数秒で終わった。


「……慣れると楽だな。」

「ですね!」


リリアも笑顔で頷く。

その後もジャイアント・ビーを見つけるたびに同じ戦法で討伐していった。


五匹目。

六匹目。

七匹目。


革袋はどんどん重くなる。


「今日も結構稼げそうですね!」

「針だけでも結構高かったよな。」

「はい!」


リリアは嬉しそうに指を折って数え始めた。


「針が七本、大顎も七つです!」

「今日は大当たりだな。」


自然と笑みがこぼれる。

前回の失敗が嘘みたいだった。

さらに十分ほど歩いた頃。


「またいました!」


リリアが上を指差す。

枝の上にまた1匹。


「今日最後にするか。」

「はい!」


俺は一本の投げナイフを取り出した。

距離は少し遠い。だが、今なら届く気がした。


「せいっ!」


ヒュッ!


一直線に飛ぶ。


――しかし。


スカッ。


「……あ。」


わずかに逸れた。

ナイフはジャイアント・ビーの横を通り抜け、


ズゴッ!


勢いよく木の幹へ突き刺さった。


「外したか。」


そう思った、その時だった。


ミシ……


小さく木が揺れる。


「?」


リリアが首を傾げる。


ブブ……


どこからか羽音が聞こえた。


ブブブ……


音は一つじゃない。


ブブブブブ……


木の幹に開いた穴の奥から、次々と羽音が重なっていく。

俺は嫌な予感がした。


「……リリア。」

「はい?」

「あの木…もしかして…」

「え?」


ブワァァァァッ!!


次の瞬間。

木の幹の穴から、ジャイアント・ビーが一斉に飛び出した。

一匹。

二匹。

三匹。

まだ出てくる。

五匹。

七匹。

十匹。

いや、まだだ。


「うそ……。」


リリアの顔が青ざめる。


「巣だ!!!やっちまった!!!」


十匹を超えるジャイアント・ビーが、一斉にこちらへ向きを変えた。

赤黒い複眼が俺達を捉える。


ブブブブブブブブ!!


「逃げるぞ!!」

「はいっ!!」


俺達は全力で駆け出した。

後ろからものすごい羽音が迫ってくる。


速い。


「追いつかれます!」


リリアが叫ぶ。

振り返る。

もう十メートルもない。


「くそっ!」


このままじゃ刺される。

俺は走りながら右手へ魔力を集めた。

狙うのは蜂じゃない。俺達の少し後ろ。


「ファイアボール!」


放たれた炎は地面へ激突し、爆炎が吹き上がる。


ドゴォォォォン!!


土と炎が混ざり合い、巨大な火柱が森の中へ立ち上った。

熱風が背中を押す。突然の炎に、ジャイアント・ビーの群れが一瞬だけ散った。


「今だ!」

「はい!」


その隙を逃さず、二人は全力で走る。

枝をかき分け、草を踏みしめ、ひたすら森の出口を目指した。

やがて木々が途切れ、見慣れた草原が広がる。


森を抜けた。


二人ともその場へへたり込む。


「はぁ……。」

「はぁ……。」


しばらく息もできなかった。

ようやく呼吸が落ち着き、俺は森の方を見る。

ジャイアント・ビー達は森の入口付近まで来ると、それ以上は追って来ず、旋回しながら巣の方へ戻っていった。


「……助かった。」

「死ぬかと思いましたぁ……。」


リリアは地面へ大の字になったまま苦笑する。

俺も思わず笑ってしまう。


「今日は稼げたけど……。」


腰の革袋を軽く叩く。中では針と大顎が音を立てた。


「最後にでかい授業料を払った気分だ。」

「授業料?」

「うまくいってる時ほど、調子に乗るなってこと。」


そう呟くと、リリアはくすっと笑った。


「次からは、ちゃんと木も確認しましょうね。」

「あぁ。」


俺も苦笑しながら頷いた。


――森には、まだ知らない危険がいくらでもある。

それを改めて思い知らされた一日だった。

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