表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
普通人が行く異世界冒険記  作者: 豆腐斧
第一章 アルトベルク編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/48

第三十一話 投げナイフの実力

朝の澄んだ空気の中、宿の扉を開ける。


「おはようございます!」


いつものようにリリアが宿の前で手を振っていた。


「おはよう。待たせた?」

「いえ、私も今来たところです!」


……いや、たぶん嘘だ。

リリアは毎回俺より先に来ている。

たぶん十分くらい前には着いているんだろう。

律儀というか真面目というか。

そういうところもリリアらしい。


「今日はどうします?」


ギルドへ向かって歩きながらリリアが尋ねる。

俺は腰に付けた新しいナイフホルダーを軽く叩いた。


「昨日買った投げナイフを試したい。」

「あっ、ジャイアント・ビーですか?」

「いや…」


俺は首を横に振る。


「いきなり本番は危ない。当たらなかったら困るからな。」

「なるほど!」


リリアは納得したように頷いた。


「まずは町の近くで試そう。」

「ホーンラビットならちょうどいいですね。」

「そういうこと。」


町周辺なら危険も少ない。何かあっても逃げられる。

新しい武器を試すにはちょうどいい場所だ。



◇◇◇


ギルドで簡単な討伐依頼を受け、町の外へ出る。

草原には朝露が残り、ひんやりとした風が吹いていた。


「いました。」


リリアが小さく声を上げる。

少し先。草を食べているホーンラビットが一匹。

まだこちらには気付いていない。


俺はそっと一本目の投げナイフを抜いた。

昨日教わったことを思い出す。

回転させようとしない。真っ直ぐ押し出す。狙いを定める。


「……。」


ヒュッ。


ナイフが一直線に飛ぶ。

しかし。


ピョンッ!


ホーンラビットが跳ねた。


ドスッ。


ナイフは地面へ突き刺さる。


「外したか。」

「惜しかったです!」


惜しいと言われても外れは外れだ。

ホーンラビットは驚いて逃げていく。


「一本目だからな。」


自分に言い聞かせるように呟く。

まだ始まったばかりだ。



◇◇◇


二匹目。


ヒュッ。

カスッ。


「うーん。」


耳をかすめただけ。


三匹目。


ヒュッ。

ドスッ。


「よし!」


今度は肩口へ命中。ホーンラビットが体勢を崩す。

俺はすぐに駆け寄り剣で止めを刺した。


「当たりましたね!」

「一本じゃ倒せないけどな。」

「でもちゃんと当たりました!」


リリアは自分のことのように嬉しそうだった。

その笑顔を見ると、俺まで少し嬉しくなる。



◇◇◇


その後もホーンラビットを見付ける度に投げナイフを投げ続けた。


四匹目。

外れ。


五匹目。

命中。


六匹目。

外れたと思った瞬間、足にかすり、動きが鈍る。


そこへ二本目。


ドスッ。


「おぉ。」


思わず声が漏れる。


「今のはすごかったです!」

「たまたまだよ。」

「いえ!ちゃんと狙ってました!」


少し照れる。

確かに最初よりは当たるようになってきた。

十匹ほど狙う頃には、外す方が少なくなっていた。

もちろん百発百中とはいかない。

それでも四回投げれば三回くらいは当たる。

昨日よりずっと感覚が掴めてきた。


「すごいです!」


リリアが素直に拍手する。


「もう普通に当ててます!」

「普通ってほどじゃないよ。」

「でも最初と全然違います!」


そう言われると悪い気はしない。


「やっぱりガルド先生の言う通りです。」

「ん?」

「ダイスケさん、本当に剣より才能あるのかもしれませんね!」

「……それ複雑だな。」

「あっ!」


リリアは慌てて両手を振った。


「ご、ごめんなさい!悪気はなかったんです!」

「分かってる。」


思わず笑ってしまう。


「でもやっぱり複雑だ。」

「えへへ……。」


リリアもつられて笑った。



◇◇◇


「ダイスケさん!マイコニドです!」


今度はリリアが茂みを指差す。

キノコ型の魔物がゆっくり歩いている。


「試してみるか。」


距離は十メートルほど。


ヒュッ。


ドスッ。


ナイフが胴体へ刺さる。

マイコニドはふらつき、その場へ倒れた。


「……。」

「……。」

「近付かなくていいな。」

「楽ですね。」


俺達は顔を見合わせる。

今までなら近付いて剣で斬っていた相手だ。

でも投げナイフなら、安全な距離から倒せる。


「便利だな。」


思わず本音が漏れた。

その後も角ネズミを見付ければ投げナイフ。

ホーンラビットも投げナイフ。

近付く前に一匹倒せるだけで、戦いはずいぶん楽になる。

もちろん外すこともある。それでも新しい武器として十分使える手応えを感じていた。


一方その頃。


「あっ。」


リリアがしゃがみ込む。


「どうした?」

「ヒール草です。」


嬉しそうに一本摘み取る。

少し歩く。


「あっ!」

「また?」

「今度はポイズンリーフです!」


さらに歩く。


「あっ!」

「……またか。」

「解毒草です!」


どんどん見付ける。採取Lv3と薬草学Lv4。

その二つを持つリリアにとって、この辺りは宝の山らしい。


「今日は当たりですね。」


籠の中は薬草でいっぱいだった。

俺が魔物を倒している間にも、リリアは次々と薬草を見付けていく。

俺は少し感心していた。戦い方は違う。

でもこういうところでもちゃんとパーティに貢献している。

リリアがいるだけで採取の効率がまるで違う。

薬草でいっぱいになった籠を見ながら、リリアが嬉しそうに笑った。


「本当だな。」


俺の腰には、回収した投げナイフが十本。

魔物を見つけるたびに投げ続けたおかげで、最初とは比べ物にならないくらい狙えるようになってきた。

近付く前に一撃入れられるだけで戦いはかなり楽になる。


「これはちゃんと使えそうだ。」


思わず呟く。


「ガルド先生も喜びますね!」

「まだまだだけどな。」


調子に乗るとろくなことがない。前世でもそうだった。

少し上手くいったくらいで慢心すると、大体痛い目を見る。

だからこそ、焦らず少しずつ。これからも練習あるのみだ。



◇◇◇


その後も町の周辺を歩きながら、見かけた魔物を討伐し、薬草を採取していく。


角ネズミを一匹。

ホーンラビットを二匹。

マイコニドを三匹。

気が付けば太陽は少し傾き始めていた。


「そろそろ戻るか。」

「はい!」


◇◇◇


ギルドへ戻ると、いつものように受付へ向かう。


「お疲れ様でした。」


ミーナが笑顔で迎えてくれる。


「今日は随分たくさんありますね。」


ホーンラビット。角ネズミ。マイコニド。

そしてリリアが採取した大量の薬草。


「お願いします。」

「かしこまりました。」


ミーナが手際よく仕分けを始める。

薬草を一つひとつ確認しながら、小さく頷いた。


「採取の状態もすごく綺麗ですね。」

「リリアのおかげです。」

「あっ、いえいえ!」


突然名前を出されて慌てるリリア。


「私は見つけただけです。」

「いや。」


俺は首を横に振った。


「見つけるのが一番難しいんだろ?」


採取Lv3になって少し分かる。

薬草は目の前に生えていても、知識がなければ雑草にしか見えない。

それを迷いなく見つけられるのは、リリアの力だ。


「ありがとうございます……。」


少し照れたように笑う。

その笑顔を見て、ミーナも嬉しそうだった。

しばらくして査定が終わる。


「本日の買取金額ですが──」


ミーナが紙を見ながら顔を上げる。


「銀貨52枚と、銅貨8枚になります。」

「結構いったな。」


思わず声が漏れる。ジャイアント・ビーの日よりはるかに多い。


「薬草がかなり高く売れています。」


ミーナがリリアを見る。


「品質も良かったので、通常より少し高めに査定させていただきました。」

「ありがとうございます!」


リリアはぺこりと頭を下げた。

ギルドを出る。

夕日が石畳を赤く染め始めていた。


「今日は思ったより稼げたな。」

「ですね!」


リリアも嬉しそうに革袋を揺らす。

チャリン、と硬貨の音が鳴った。


「……よし。」


俺は立ち止まる。


「リリア。」

「はい?」

「今日は飯でも食べて帰らないか?」

「えっ?」


目を丸くする。


「パーティを組んだお祝い、まだしてなかっただろ?」

「あ……。」


そういえばそうだ。あの日はそのまま依頼へ行ってしまった。


「今日はリリアのおかげで結構稼げたしご飯でもいこうか。奢るよ。」

「えぇっ!?」


リリアは両手をぶんぶん振った。


「そ、そんな悪いですよ!」

「いいって。」

「でも……。」

「パーティ祝い。」


一言そう言うと、リリアは少しだけ黙った。

それから。

ふわっと笑った。


「……ありがとうございます。」

「何が食べたい?」

「えっ!えっと……。」


少し考えてから、小さな声で言う。


「お肉……。」


思わず吹き出した。


「ははっ。やっぱり?」

「だ、だって好きなんです!」


顔を真っ赤にしながら抗議する。


「分かった。」

「今日は肉だ。」

「はい!」


夕日に照らされた石畳を並んで歩く。

依頼を受けて、一緒に森へ入り、一緒に笑って帰ってくる。

ほんの数日前までは、一人で歩いていた帰り道だ。

それが今は、隣に誰かがいる。

不思議と、それが当たり前になり始めていた。

俺たちは笑いながら、町で人気の食堂へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ