第三十話 空を飛ぶ魔物(後編)
「何か考えないとな……。」
黒焦げになったジャイアント・ビーを眺めながら思わず呟く。
空を飛ぶ相手。剣じゃ届かない。魔法なら倒せる。
でも毎回ファイアボールを撃つのはしんどい。
「帰ったら相談してみますか?」
リリアが魔石を布袋へ入れながら言った。
「そうだな。」
「ミーナさんなら何か知ってるかもしれません。」
俺も頷いた。
◇◇◇
町へ戻ると、いつものようにギルドで討伐報告を済ませる。
オークの肉、睾丸、魔石。ゴブリンの魔石。薬草。
そしてジャイアント・ビーの魔石。
「お疲れ様でした。」
ミーナが笑顔で素材を受け取る。
「あれ?」
ジャイアント・ビーの魔石を見るなり首を傾げた。
「素材は……。」
「ファイアボールで焼きました。」
「あぁ……。」
少しだけ残念そうな顔になる。
「針と大顎は結構高く売れるんですよ。」
「やっぱり。」
「魔石だけでも買い取れますけど、少しもったいなかったですね。」
査定が終わるのを待ちながら俺は尋ねた。
「飛ぶ魔物って、みんなどうしてるんですか?」
「飛ぶ魔物ですか?」
「今日初めて戦ったんですけど、剣じゃ全然届かなくて。」
ミーナは少し考える。
「一般的なのは弓ですね。」
「やっぱり。」
「飛ぶ魔物を専門に狩る冒険者さんもいますし。」
なるほど。
「ただ……。」
「?」
「ダイスケさんは剣が主武器ですよね。」
「はい。」
「戦闘中に弓へ持ち替えると、その隙が危険かもしれません。」
「確かに。」
剣をしまう。
弓を構える。
矢をつがえる。
結構時間が掛かる。
その間に突っ込まれたら終わりだ。
「難しいですね。」
三人で腕を組む。
すると
「なんだ、珍しく難しい顔してるな。」
聞き慣れた低い声がした。声がした方へ振り向く。
「ガルド先生!」
ガルドだった。
「どうした?何かあったのか?」
事情を説明する。ジャイアント・ビー。剣が届かなかったこと。
ファイアボールで倒したこと。素材を焦がしたこと。
全部聞き終えると、ガルドは腕を組んだまま一言だけ言った。
「投げナイフだな。」
「え?」
「投げナイフだ。」
あまりにも即答だった。
「剣士なら持ち替えも早い。」
「なるほど……。」
言われてみればそうだ。腰から抜いて投げるだけ。
弓よりずっと速い。
「魔物を牽制するくらいなら十分だ。」
「でも、投げたことないですよ?」
「専門じゃないが基礎くらいなら教えてやる。」
「え?」
「明日なら暇だ。」
ガルドが笑う。
「狩りは一日休め。本当に基本程度だが見てやる。」
思わずリリアを見る。
「私は賛成です!」
「じゃあ、お願いします。」
「よし。」
ガルドは満足そうに頷いた。
◇◇◇
翌日。
狩りは休み。ギルド裏の訓練場へ来ていた。
「まず握り方だ。」
ガルドが一本のナイフを渡してくる。
思っていたより軽い。
「回転させようとするな。腕を振って真っ直ぐ押し出せ。」
「はい。」
木の的へ向かって投げる。
ヒュッ。
カラン。
落ちた。
「難しい……。」
「当たり前だ。最初から刺さったらたいしたもんだ。」
ガルドは笑う。
「最初はそんなもんだ。」
何本か投げる。少しずつ感覚が分かってきた。
学生の頃、友達とゲームセンターでダーツをよくやっていた。
握り方は違う。でも狙って投げる感覚は少し似ている。
もう一度。
ヒュッ。
ドスッ。
「お。」
刺さった。もう一本。
ドスッ。
また刺さる。
「ほぉ。」
ガルドが少し驚いたような顔をした。
「初めてか?」
「学生の頃、ダーツが流行ってまして。」
「ダーツ?」
「小さい矢を投げる遊びです。」
「なるほど。」
何本も投げる。武器扱いの補正もあるのか、狙った場所へ飛ぶ感覚を掴むのが思ったより早い。
「筋がいいな。」
「本当ですか?」
「あぁ。」
ガルドは笑う。
「剣より才能がありそうだ。」
「えぇ……。」
複雑だ。
「喜んでいいんですかね。」
「はっはっは!」
ガルドの豪快な笑い声が訓練場へ響いた。
◇◇◇
訓練を終えた俺達は、リリアと合流し、その足で武器屋へ向かった。
「こんにちは。」
扉を開ける。
「いらっしゃい。」
奥からリズが姿を現した。
相変わらず背が高く、凛とした美人だ。
「あ……。」
隣を見る。
リリアが固まっていた。
「どうした?」
「あ、いえ……。」
リリアは慌てて首を振る。
「すごく綺麗な人だなぁって……。」
「……。」
リズは少しだけ目を丸くしたあと、小さく笑った。
「ありがとう。」
その一言だけで、リリアはさらに顔を赤くした。
「今日は連れか。」
「あぁ、パーティを組んだんだ。」
「なるほど。」
リズはリリアを見て頷く。
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
短いやり取りだったが、リリアは少し緊張が解けたようだった。
「それで今日は?」
「投げナイフが欲しい。」
「投げる用か。」
リズは迷うことなく棚から細身のナイフを持ってくる。
「これだ。」
五本一組。バランスも揃っている。
「銀貨一枚だよ。」
「思ったより安い。」
「消耗品だからな。」
確かに。投げれば失くすこともある。
高かったら使えない。
「二組ください。」
「十本か。まぁ十分だろうね。」
続いて革製のホルダーを取り出す。
「腰へ付けるホルダーだよ。銀貨二枚。」
全部で銀貨四枚。代金を払い、新しい装備を受け取る。
「毎度ありがとうね。」
腰へホルダーを装着し、十本の投げナイフを差し込む。
思わず腰へ手を当てた。
「なんか。」
「ん?」
リリアが首を傾げる。
「より冒険者っぽくなった気がする。」
するとリリアは楽しそうに笑った。
「ダイスケさん、最初から冒険者ですよ。」
「いや、見た目の話。」
「あはは。」
二人で笑いながら武器屋を後にする。
新しい武器。新しい戦い方。
次に空を飛ぶ魔物と出会った時は、もう少しスマートに戦える気がした。




