第二十六話 猪と狼
翌日、食堂でゲランとゴッソと合流した。
今日の目的地は不帰の森の奥。オーク区域より更に先だった。
「今日も色々狩ってこようぜ」
ゲランが笑う。少し緊張する。
◇◇◇
ある程度深部まで来た。
道中ではいつものように出てくるゴブリンを次々と葬り去る。
ゴブリンはもう作業のレベルで倒せるようになった。
雑談しながらズンズンと森を進む。
ガサッ!
茂みから巨大な猪が現れた。
いや、デカすぎだろ。軽自動車くらいあるぞ?
全身が黒い。金属のような毛並み。
【アイアンボア】
以前図鑑で見た魔物だ。
「やってみるか?」
ゲランが聞いてくる。
「えぇ…バカでかいんだが…」
「いいからやれ。案外サクっといけるって。」
雑である。
◇◇◇
縄張りを荒らされたからだろうか、
興奮したアイアンボアが突っ込んでくる。
速い。デカい。怖い。
ゲランが横から注意を引く。
ゴッソが反対側へ回る。完全にサポートだ。
「今だ!」
ゲランが叫ぶ。
俺は踏み込み剣を振るう。
ガキン!
硬ってぇ!!!
あまりの硬さに手が痺れる。アイアンボアの名は伊達じゃない。
隙をついて何度も剣を叩きこむが切れる気がしない。
「ダイスケ落ち着けー」
「深呼吸」
二人が注意を引きつつ応援してくる。
呼吸を整える。
足。腰。肩。腕。全部を繋ぐ…
ガルドの言葉を思い出す。
アイアンボアの視線がゲランに向いた瞬間、全力で振り抜いた。
ブォォォン!!
手応えが違った。次の瞬間アイアンボアが真っ二つになった。
「えっ」
自分が一番驚いた。
【ソードスラッシュを習得しました】
頭の中へ声が響く。
その瞬間。ゲランが大笑いした。
「お前ずっとソードスラッシュ練習してただろ?」
どうやらバレていたらしい。
俺は真っ二つになったアイアンボアを見ながら呟く。
「……なんか凄いの覚えたかもしれない」
「お前今の初成功だろ」
「なんで分かった」
「「顔」」
わかりやすい顔で悪かったな。
◇◇◇
ゲランに教わりつつアイアンボアを解体していく。
肉がいい値段で売れるらしい。
アイアンボアを解体し終えた頃だった。
遠くから遠吠えが聞こえた。
「……なんだ?」
耳を澄ます。一つじゃない。二つでもない。何匹もいる。
ゲランがニヤリと笑った。
「来たな」
ゴッソも槍を構える。
「フォレストウルフ」
少し緊張する。
フォレストウルフ。図鑑で見た魔物だ。
群れで襲ってくると書いてあった気がする。
そして茂みの向こうから現れた。
一匹。
二匹。
三匹。
まだ増える。
四匹。
五匹。
六匹。
七匹。
八匹。
九匹。
「多くない?」
思わず声が出た。
ゲランが笑う。
「少ない方だ」
ゴッソも頷く。
「少ない」
絶対嘘だろ。
◇◇◇
フォレストウルフたちが広がる。俺たちを囲むつもりらしい。
ゲランが剣を抜く。ゴッソが槍を構える。
「行くぞ」
次の瞬間だった。
ゲランが飛び出した。速い。
一匹目の首が飛ぶ。
狼の攻撃を躱しながら別の狼に剣を振る。
二匹目の首が飛ぶ。
両サイドから飛び掛かってくる二匹の狼に剣を振りぬく。
三匹目と四匹目の首が飛ぶ。
ほぼ一瞬だった。
「は!?」
思わず声が出る。強い。
知ってたけど強い。ゴッソも負けていない。
槍が突き出される。
一匹目の眉間を槍が貫く。
飛び上がった二匹目の下あごから脳天を貫く。
槍を振るって二匹目を投げ、三匹目に向けて踏み込む。
槍が口内から後頭部を貫く。
正確すぎる。
残った二匹がこちらへ向かってきた。
「ダイスケ!残りはお前の分だ!」
◇◇◇
一匹目。
飛びかかってくる。
横へ避ける。剣を振る。
狼の肩口を切る。しかし浅い。
着地したフォレストウルフがすぐ振り返る。速い。
後ろから跳躍した気配を感じる。転がって避ける。
着地を狙って剣を振るう。避けられたが足を軽く切る事に成功する。
動きがオークやアイアンボアとは全然違う。
一匹目がもう一度飛びかかってくる。
今度は落ち着いて見る。そこだ。
剣を振る。狼の前足から腹部までを切り裂く。血が飛ぶ。
一匹目が倒れた。
二匹目。左右へ動く。狙いを定めさせない。
剣を振るうも躱される。小さな傷を付ける程度でウルフの動きは止まらない。
爪による攻撃をガントレットで受ける。
蹴とばして少し距離を取る。狼がもう一度飛び掛かろうとした一瞬。
「ファイア!」
火の玉を投げる。狼が怯む。
「食らえ!!!」
アイアンボアを切った時を思い出し全力で切る。
狼の肩口から背中を切り裂く。
ドサリ。二匹目も倒れる。
「ふぅ…」
息を吐いた。
なんとか勝てた。
◇◇◇
解体を始める。
ここで問題が発生した。
「……あれ?」
毛皮がボロボロだった。
俺が倒した二匹だけ傷だらけである。
ゲランたちの獲物を見る。綺麗。めちゃくちゃ綺麗。
ほとんど傷がない。
「なんで?」
ゲランが笑った。
「そりゃあ毛皮を売るんだ。傷がつかねぇように殺さなくちゃな。」
ゴッソも頷く。
「慣れ」
それで済ませるな。
◇◇◇
それでも解体Lv3は優秀だった。
切るべき場所が見える。おかげで作業はかなり早い。
アイアンボアとフォレストウルフの素材を回収する。
かなりの量だ。重い。
◇◇◇
ギルドへ戻る。
受付にはミーナがいた。
「お帰りなさい」
いつもの笑顔である。
素材を並べる。まずはアイアンボア。
ミーナの目が少し大きくなった。
「凄いですね」
「ゲランとゴッソが手伝ってくれた」
「それでも立派ですよ」
少し嬉しい。
続いてフォレストウルフ。
ミーナが一枚ずつ確認していく。
七枚目までは順調だった。
だが。八枚目。九枚目。手が止まる。
嫌な予感しかしない。
「こちら二枚は少し値段が落ちますね」
やっぱり。
「ですよねー……」
思わず肩が落ちる。
ミーナが苦笑した。
「解体は綺麗なんです」
「でも?」
「戦闘時の傷が多くて」
「つまり?」
「かなり安くなります」
追い打ちだった。
横でゲランが爆笑している。
「ハハハハ!」
うるさい。
ゴッソも頷く。
「勉強代」
その言葉が妙に刺さった。
◇◇◇
査定が終わり報酬を受け取る。
革袋を持った瞬間。重かった。かなり重い。
「おお……」
思わず声が出る。やはりソロの時より三倍近い。
アイアンボアもフォレストウルフもかなり高く売れたらしい。
「すげぇな」
ゲランが笑う。
「だろ?」
ゴッソも頷く。
「効率」
パーティーって凄い。
改めてそう思った。
◇◇◇
宿へ向かう帰り道。革袋を軽く振る。
チャリン。
チャリン。
気持ちのいい音だった。
「次は毛皮も綺麗に取れるようにならないとな」
まだまだ課題は多い。
Lv10まであと少し。
でも、強くなるってのは案外やる事が多いらしい。
そんな事を考えながら宿への道を歩いた。




