第二十五話 剣の先生
Lv10。王都へ行くための最低条件だ。
だから翌日、俺は久しぶりに冒険者ギルドの講習場へ来ていた。
「おう」
聞き覚えのある声がする。
振り向く。ガルド先生だった。
「久しぶりだな」
「どうも」
昇格試験以来である。ガルドは俺を見るなり頷いた。
「ちゃんと言った通り顔出したな。」
「えぇ、強くなりたいので」
「よし、やるか!」
木剣を投げてよこした。反射的に受け取る。
「構えろ」
地獄、開始である。
◇◇◇
ボコボコだった。
普通にボコボコだった。
木剣が飛んでくる。
受ける。弾かれる。転ぶ。立つ。
受ける。弾かれる。転ぶ。立つ。
繰り返しである。
「遅い!」
バシィ!
肩を叩かれる。痛い。
「足が止まってる!」
バシィ!
脇腹を叩かれる。痛い。
「視線を落とすな!」
バシィ!
頭を叩かれる。痛い。
理不尽だ。
ガルドが楽しそうに笑う。
「なんです?」
「いや、前よりずっと良い」
「そうですか?」
「あぁ、かなりいい感じだ。毎日振ってるな?」
剣を買ってから毎日宿の裏で素振りしている。
森へ行く前も。帰った後も。
「そういう奴は伸びる。才能は普通だ。だが真面目だからな。」
少しだけ嬉しい。
◇◇◇
昼前、講習が終わった。
受講者たちが帰っていく。
俺も帰ろうとした時だった。
「待て」
ガルドに呼び止められる。
「少し早いが教えてやる」
そう言って木剣を構えた。
ゆっくり。
右足を引く。
腰を落とす。
そして。
ブォン!!
空気が鳴った。
ただ振っただけなのに。
明らかに音が違う。
「おお」
思わず声が出る。
「技だ」
ガルドが言った。
「技名はソードスラッシュ」
「そのまんまだな」
「そのまんまだから分かりやすい」
確かに。
「簡単に言うと全力斬りだ」
「全力斬り」
「ただし腕だけじゃない」
ガルドは木剣を肩へ担ぐ。
「足」
トン。
「腰」
グッ。
「肩」
スッ。
「腕」
ブン。
「全部を一つにする。全身で切る。」
なるほど。
言いたい事は分かる。
「やってみろ」
言われた通りにやる。
ブン。
「違う」
即否定された。
「腕だけしか使えてねぇ」
厳しい。
◇◇◇
夕方、宿へ戻る道中でゲランとゴッソに会った。
「おっ、ダイスケじゃねぇか!ちょうどよかった」
「酒場」
「酒場?酒場があるのか?」
「なんだ行った事ねぇのか?たまには酒場でも行こうぜ?」
言われてみればこの町の事まだ全然知らないな…
ゲランとゴッソに連れられてまだ行った事のない区域に足を踏み入れる。
このあたりは歓楽街とでもいうのか、
飲食店が立ち並び、若い女の子が客引きをしている。
立ち並ぶ中でも特に賑やかなお店に入っていく。
案内された席に座ると、すぐ隣の席から
「おう」と声がかかる。
振り返るとガルド先生が座っていた。
「先生じゃねぇか!」
ゲランが笑う。先生?
「ゲラン、ガルド先生知ってんのか」
「おうよ、俺は先生の初めての講習の最初の受講者だぜ」
「こいつは本当に生意気なクソガキだった」
「先生それは言いっこなしだぜ~お互い様じゃねぇかよ~」
「いつもボコボコ」
「実践訓練だとか言って毎回ボコボコにされたな~」
意外な繋がりだった。
◇◇◇
話は盛り上がった。
先生は昔、Bランク冒険者だったらしい。
しかも。
「この辺じゃ最強クラスだったぜ~王都でも結構有名だったんだぞ」
ゲランが言う。
「昔の話だ」
ガルドは苦笑する。
「へぇ」
少し驚く。
「奥さんも同じパーティだったしな」
「奥さんヒーラー」
「今はただの怖いババァだ。ヒールなんてもう忘れてんじゃねぇか…?」
「いっつも尻に敷かれてるもんな」
ゲランが爆笑した。
ガルドが木のコップを投げた。
ゲランが華麗に避ける。
仲良しらしい。
◇◇◇
気付けば夜になっていた。
3人でフラフラと宿に戻る。
「明後日暇か?」
ゲランが聞いた。
「まあ予定はないな」
「じゃあ森行くこうぜ」
「了解」
少し楽しみだった。
◇◇◇
翌日、俺は町周辺の草原をうろうろしていた。
目的は薬草採取。
そして、ソードスラッシュの練習である。
採取スキルを使い薬草を摘む。近くの薬草を摘みきる。
立ち止まる。剣を抜く。
ブン。
違う。この感じは腕だけだ。
ガルド先生に言われた。
足。腰。肩。腕。全部を使う。
ブン。
違う。
◇◇◇
薬草を採る。
剣を振る。
薬草を採る。
剣を振る。
ひたすら繰り返した。
昼を過ぎるがまだ出来ない。
◇◇◇
ブォン。
「ん?」
今のは少し良かった気がする。
もう一度。
ブォン。
少し音が違う。
「お?」
なんとなくだが近付いている気がする。
◇◇◇
夕方、宿へ帰る前。最後に一回。
ブゥォン!!
今までで一番良かった。
「おお」
だが何かが足りない。
あと少し。本当にあと少しな気がした。




