第二十二話 昇格試験と二つの目の魔法契約
翌日、冒険者ギルドの窓口へと向かった。
俺の顔を見るなり、ミーナが信じられないものを見るような目で身を乗り出してきた。
「ダイスケさん!ゲランさんたちから聞きましたよ!オーガの首をはねたって本当なんですか!?」
「あはは…後ろから不意を突いた形だけどね」
驚きを隠せないミーナに苦笑いする。
ミーナは書類やこれまでの討伐記録を何度も見比べたあと真面目な顔で俺を見つめた。
「今回のオーガとオークの討伐、
そして今までのゴブリン討伐数を確認しました。
Eランクへの昇格基準をクリアしています。」
「えっ、本当にか?」
「はい!ただ、Eランクへの昇格には戦闘試験も含まれます。
このあとすぐに試験を受けられますが挑戦しますか?」
断る理由なんてない。俺は力強く頷いた。
案内された訓練場に待っていた試験官の姿を見て俺は思わず声を上げた。
「あ、ガルド先生……」
そこにいたのは以前受けた剣の講習の講師、
ベテラン冒険者のガルドだった。
ガルドは不敵に笑い木剣を構えた。
「おう、ダイスケか。まさかお前がもう昇格試験に来るとはな。よし、かかってこい!」
開始の合図と共に俺は木剣で斬りかかったが実力差は絶望的だった。
「踏み込みが甘い! 剣筋が素直すぎて見え見えだ!」
「ガントレットの受け流しは悪くないが、足元が留守になってるぞ!」
攻撃の仕方や防御の仕方を、ひとつひとつ丁寧にダメ出しされながら、必死に食らいつく。
10分ほど全力で動き回り、俺が息を切らして地面に膝をついたところでガルドが木剣を収めた。
「そこまで。――結果は不合格だ」
やっぱりダメだったか。肩を落とす俺にガルドはポンと肩を叩いた。
「以前より格段に動けている。もう少し実戦で鍛えるべきだな。あと、また剣の講習にも顔を出せよ」
◇◇◇
ギルドをあとにした俺の胸に、強烈な悔しさが渦巻いていた。
手も足も出なかった。
悔しさをぶつけるために不帰の森へと足を向けた。
「もっと強くならなきゃ……!」
気配察知を頼りに、見つけたゴブリンを次々と切り裂く。
鬱憤を晴らすように次々と討伐していく。
だが、森の少し奥へ入りすぎたと気付いたその時、
茂みの向こうからあの巨体が姿を現した。
ブモォォォ!!
オークだ。ついにソロで遭遇してしまった。
一瞬足がすくむ。だが今の俺のレベルは7。
ギリギリ推奨レベルには達しているはずだ。
何より、昨日のゲランとゴッソの戦いを見ている。
イメージは頭にある。
「…やってやる!」
オークが突進してくる。見た目以上に素早い。
俺は剣で軽く切りつけては、相手の反撃をガントレットで受け流す。
攻撃を当てても肉が厚く、ガードも固い。なかなか倒せない。
息が上がる中、俺は一瞬の隙を見逃さず昨日ゴッソの槍が狙っていた首の付け根へと剣を引き絞るように滑らせた。
ザシュゥゥッ!
「ブモォッ!?」
激しい血飛沫を上げ
オークがどさりと倒れ伏した。
勝った……!
俺は以前、図書館で読んだ解体の本の記述を必死に思い出した。
昨日ゲランが言っていた言葉も頭をよぎる。
記憶を頼りにナイフを動かし、その場でしっかりとした手順で血抜きを行う。
そして、美味しいといわれる部位を丁寧に切り分けていった。
「重っ…!」
結構な重さの肉の塊になったが、
なんとか担いで持ち帰れるように袋を縛る。
帰り道、ゴブリンと数回遭遇したものの
レベルの上がった今の俺の敵ではない。
危なげなく返り討ちにして森を脱出した。
◇◇◇
ギルドに戻り、オークの肉と魔石の換金を済ませる。
ミーナから受け取った硬貨を数え、俺は息を呑んだ。
「あ…銀貨100枚超えてる」
まとまった金が手に入ったら、やると決めていたことがある。
俺はその足で魔術師ギルドへと向かった。
目的は、他属性の魔法契約だ。
これからの冒険、野営や探索を考えると、
飲み水とかがその場で出せると便利だ。
だから今回は『水魔法』を契約することにした。
受付で銀貨を差し出すと、魔術師ギルドの職員が少し困ったような顔をした。
「水魔法ですか…。ダイスケさん、あなたは既に火魔法を習得されていますよね。
火魔法を使う人は水魔法と相性が悪く、基本的には契約が成功しづらいと言われていますが……」
「いいんです。物は試しで、お願いします」
断られるのを承知で頭を下げ、
魔術師ギルドの奥へと案内された。
通されたのはこないだとは違う部屋だった。
窓のない作りは全く同じだった。
床に描かれた魔法陣は青色だ。
契約担当の魔術師が杖を掲げ、またあの時と同じ低く耳に残るよくわからない呪文を唱え始める。
すぐに床の魔法陣が光を放ち
中心からホログラムのような光の球が浮かび上がってきた。
こないだの火の時とは違い、半透明な水滴の形をしていた。
1つ
2つ
3つと生まれた水の精霊のような光が
次々と俺の胸へと吸い込まれていく。
体内に走る感覚は、熱さではなく心地よい涼しさだった。
すでに心臓の辺りに灯っている火魔法の熱と
新しく入ってきた水の冷たさが一瞬だけ反発しかける。
だが、俺の持つ加護の力がそれを優しく包み込むようにじんわりと体内に馴染んでいった。
体内の小さな焚き火の隣に、静かな湧き水が生まれたような感覚だ。
「契約完了です。火属性をお持ちなので拒絶反応を懸念していましたが…。
無事契約できてそうですね。ではステータスをご確認ください」
魔術師に言われ、俺は慌ててステータスを開いた。
【ステータス】
名前:ヤスモトダイスケ
レベル:7
加護:均衡成長
スキル:万能適正、武器扱い Lv2、採取 Lv2、解体 Lv2、火魔法 Lv3、水魔法 Lv1、気配察知 Lv1
筋力:28
敏捷:28
体力:28
魔力:28
精神:28
運:28
魔法:リトルファイア、ファイア、ファイアボール、ウォーター
「よし、成功だ!」
水魔法Lv1の魔法はウォーター
その名の通り水を出す魔法だ。
嬉しさのあまり俺はついその場で魔法のイメージを浮かべて唱えてしまった。
「ウォーター!」
パシャッ。
「うおっ!?」
俺の目の前の空間に、コップ一杯分ほどの水が突然出現した。
そして、火魔法と同じく前方に射出されない仕様のため
その水はそのまま真下の床へとボタボタと垂直に落下した。
ビショッ。
「ああっ!?ちょっと何してるんですか!
入れ物を用意しますって言おうとしたのに!」
魔術師が悲鳴を上げる。
魔術師ギルドの綺麗な床は俺が出したコップ一杯の水で濡れてしまった。
「すみません! すみません!」
俺はめちゃくちゃ怒られながら雑巾で床を掃除する羽目になった。
新しい魔法を手に入れた感動は、綺麗さっぱり洗い流されてしまった。
【ステータス】
名前:ヤスモトダイスケ
レベル:7
加護:均衡成長
スキル:万能適正、武器扱い Lv2、採取 Lv2、解体 Lv2、火魔法 Lv3、水魔法 Lv1、気配察知 Lv1
筋力:28
敏捷:28
体力:28
魔力:28
精神:28
運:28
魔法:リトルファイア、ファイア、ファイアボール、ウォーター




