第二十一話 合同狩り
翌朝、朝食を食べているとゲランが俺の皿に干し肉を放り込んできた。
「おいダイスケ、せっかくレベル6になったんだ。
今日は俺とゴッソが直々にお祝いの狩りに連れてってやるよ」
「え、いいのか?」
予想外の提案に驚く。
昨日サイフが軽くなったばかりの俺としては
稼げるチャンスはありがたすぎる。
「ああ。お前が夜の森でスケルトンを仕留めたってんならそろそろ次のステップだ。不帰の森のちょっと深いところまで足を伸ばしてみるぞ」
「…入り口付近とは出てくる魔物の数も強さも変わる。気をつけろ。」
ゴッソが静かに釘を刺す。
俺は新しく手に入れたガントレットを左腕にしっかりと嵌め直し
気を引き締めて二人の後ろを追った。
◇◇◇
昼前の不帰の森。
ゲランたちの案内で進む。
俺がいつもソロでうろついている場所よりも木々が鬱蒼と生い茂り
空気の冷たさが違っていた。
ガサリ、と前方の茂みが揺れる。
すかさず俺の『気配察知』が反応した。
「…3匹。ゴブリンだ」
「おっ、気配に気付いたか。よしダイスケ、まずは手前の1匹をやってみろ。後ろの2匹は俺たちが抑える」
ゲランが剣を抜きながら合図を出す。
頼もしいバックアップがある安心感の中
俺は片手剣を構えて前へ出た。
キィィィッ!
茂みから飛び出してきたゴブリンが
錆びついた短剣を振り下ろしてくる。
俺は左腕のガントレットを斜めに突き出し
ゴブリンの刃を軌道ごと弾くようにして受け流した。
ガキィィン、と硬い手応え。
相手の力を綺麗に横へ逃がし
体勢を崩したゴブリンの横腹へ右手の剣を叩き込む。
ザシュッ
肉を断つ手応えと共にまずは1匹目を確実に仕留めた。
「へぇ、盾じゃなくガントレットで受け流したか。筋がいいぜ!」
ゲランが後ろで感心した声を上げる。
だが実験はこれで終わりじゃない。
ゲランとゴッソが取り囲んで遊ばせていた残り2匹のゴブリンへと視線を向ける。
「二人とも、ちょっと下がっててくれ! 新しい魔法を試したい!」
「魔法?ああ、火魔法か。やってみろ!」
ゲランがゴッソを引き連れてサッと距離を取る。
俺は2匹のゴブリンを正面に見据え、体内の魔力を練り上げた。
「ファイアボール!!」
ボワッ!!!
俺の目の前に強烈な熱風を伴ったバスケットボールサイズの巨大な火の玉が出現した。
「ぶっ!? おいおい、すげぇサイズだな!」
後ろでゲランが驚く中、
俺は目の前に浮かぶファイアボールを
両手でしっかりとキャッチし…
「らぁぁぁっ!!」
ブンッ!!!
バスケのチェストパスの要領で渾身の力を込めて火の玉を前方へ押し出した。
凄まじい勢いで宙を舞うファイアボールがゴブリンたちの中心で炸裂する。
ドガァァァァンッ!!!!
ゴブリン2匹を火柱が襲う。
炎が収まると消し炭になったゴブリンの残骸だけが転がっていた。
「はは…威力はハンパないな…」
「…魔法とは手で投げるものなのか…?」
ゴッソがこれ以上ないほど微妙な表情で呟く。
ゲランが笑い出す。
「まぁ、ダイスケらしいな!」
◇◇◇
その後も順調にゴブリンを倒しつつ
俺たちはさらに森の奥へと進んでいった。
開けた場所に出た瞬間、ゴブリンとは比較にならない巨体が姿を現した。
ブモォォォッ!!
豚の頭を持った醜悪な巨漢、オークだ。
しかも2体同時に出現した。
「オークか。ちょうどいい、昼飯にするぞ!」
ゲランが獰猛に笑い、大剣を構えて突撃する。
驚くべきことに、ゲランは凄まじい筋力でオークの太い腕ごと胴体を一刀両断。
1体をなんなく倒してしまった。ベテラン、強すぎる。
「ダイスケ!ゴッソの戦ってる方にさっきのファイアボールを叩き込め!」
「了解!」
ゴッソが巧みにオークを足止めし隙を作ってバックステップで離れる。
そこへ俺がすかさずバスケ投げでファイアボールを撃ち込んだ。
ドゴォォンッ!!
炎に包まれたオークが、悲鳴を上げながらドサリと倒れ伏す。
戦闘が終わると、ゲランがナイフを取り出して手際よくオークの肉を切り分け始めた。
「よし、即席のポークステーキだ!」
ファイアボールの残り火でちょうどよく焼き上がった肉をゲランが「ほらよ」と俺たちに手渡す。
さっそく口に運んでみたが。
「…うぐ、ちょっと血生臭いな…」
「ハハ!その場で焼いたから血抜きができてねぇんだ。町に戻ってちゃんと処理すればもっと美味いんだけどな!」
ゲランが笑いながら肉を噛みちぎる。
味は微妙だがこれもまた冒険者って感じがして悪くない。
食後、俺たちはさらに奥へと進んだ。
「ある程度の深さまで来たな。これ以上奥に進むと俺たち二人でもそこそこしんどい魔物が出る。
今日はこのへんの深さで軽く狩って引き上げるぞ」
ゲランの言葉に俺とゴッソが頷いたその時だった。
グルゥゥォォォォッ!!!
突如、森の奥から地響きのような咆哮が轟いた。
現れたのは、オークよりもさらに一回り大きい。
青黒い肌をした人型の怪物。
「チッ、オーガか…! なんでこんな浅いところに…!」
ゲランの顔から余裕が消える。
「ダイスケ!こいつはさすがにお前じゃきつい、身を守ってろ!」
ゲランとゴッソが同時に飛び出す。
そこから始まったのは、俺が今まで見たこともないような、
本気のベテラン冒険者の戦闘だった。
ゲランの大剣がオーガの硬い皮膚を切り裂く。
ゴッソの槍が目にも留まらぬ速さで急所を抉っていく。完璧な連携だ。
まもなくオーガを倒せそう、そう確信した瞬間。
ガササササッ!!!
「グルォォォッ!」
なんと、側面の茂みからもう1体のオーガが飛び出してきた。
2対2。
挟み撃ちの形になり、ゲランとゴッソの動きに一瞬、焦りが生じる。
(マズイ…!)
新しく現れたオーガに二人の意識が向いた瞬間
もうすぐ倒せそうだった1体目のオーガが俺に背を向ける形になった。
俺の体は、考えるより先に動いていた。
「らぁぁぁっ!!」
俺はオーガの死角から全速力で踏み込み、
その背中を思いっきり切り裂いた!
ザシュゥゥゥッ!!
「ガ、ァ!?」
深く刃が入りオーガが苦悶の声を上げる。
オーガは怒り狂い凄まじい速度で振り返りながら、
丸太のような腕で裏拳を放ってきた。
「くっそぉぉ!!」
俺は咄嗟に左腕のガントレットを掲げその裏拳を受け流す!
ガァァァァンッ!!!
凄まじい衝撃が腕を襲うが、なんとか受け流せた。
腕が痺れる。オーガは完全に瀕死だ。
「これで、終わりだぁぁぁ!」
体勢を崩したオーガの首筋へ、俺は剣を横一線に全力で走らせた。
太い首に斬撃が吸い込まれ、オーガの首がドサリと地面に落ちる。
「ダイスケ!?」
ゲランが驚愕の声を上げる。
1体を俺が引き受けたことでゲランとゴッソは残るもう1体のオーガに完全に集中することができた。
二人の本気の猛攻により、残る1体もあっという間に地面に沈んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ…!」
剣を構えたまま激しく息を吐く。
心臓がバクバクと鳴る中、目の前にあの文字が現れた。
【レベルが上昇しました】
急いでステータスボードの表示を念じる。
【ステータス】
名前:ヤスモトダイスケ
レベル:7
加護:均衡成長
スキル:万能適正、武器扱い Lv2、採取 Lv2、解体 Lv2、火魔法 Lv3、気配察知 Lv1
筋力:28
敏捷:28
体力:28
魔力:28
精神:28
運:28
スキルレベルは変わらないが、全てのステータスが上昇していた。
格上のオーガ戦に関与したことで、一気にレベルが上がったらしい。
大剣を肩に担ぎ直したゲランが、俺に近づいてきた。
「おいおいダイスケやるじゃねぇか」
「…大したものだ」
ゴッソもまた、静かに視線を俺に注いでいた。
◇◇◇
その後、俺たちはさらにオークやゴブリンを複数体倒し、
夕暮れが迫る頃に町へと戻ってきた。
冒険者ギルドで魔石や素材を換金し3人で山分けにする。
ゲランから手渡された硬貨の重みに、俺は思わず目を見張った。
「えっ…こんなに!?」
ソロで地道に狩りをしていたときの3倍ほどの収入だった。
驚く俺を見てゲランがニカッと笑う。
「ハハ!俺らと組んで狩場に行きゃこれくらい普通よ!頑張って早く追いついてきな!」
その晩、俺たちは宿屋の食堂で美味い酒を飲んだ。
リズの店で一気に軽くなっていた俺の財布は
嬉しいことに早くも潤いを取り戻した。
仲間と飲む酒の味は格別で楽しい夜は更けていくのだった。
【ステータス】
名前:ヤスモトダイスケ
レベル:7
加護:均衡成長
スキル:万能適正、武器扱い Lv2、採取 Lv2、解体 Lv2、火魔法 Lv3、気配察知 Lv1
筋力:28
敏捷:28
体力:28
魔力:28
精神:28
運:28
魔法:リトルファイア、ファイア、ファイアボール




