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普通人が行く異世界冒険記  作者: 豆腐斧
第一章 アルトベルク編

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第十九話 魔石換金と夜の白い骨

翌朝、俺は自信に溢れた足取りで冒険者ギルドの門をくぐった。

何しろ今日の俺は昨日までの俺とは違う。

勉強不足をミーナに指摘され

涙目でゴブリンの耳を差し出したあの失態を

綺麗さっぱり帳消しにする成果を携えているのだ。


受付へ向かうと栗色の髪を揺らしたミーナが

いつもの小動物っぽい笑顔で迎えてくれた。


「あら、ダイスケさん。おはようございます。今日はお勉強の続きですか?」


からかうように笑うミーナに俺は無言で

しかしこれ以上ないほどのドヤ顔を決めながら

腰の袋をカウンターへ『ドン!』と置いた。


「ミーナさん、これを確認してもらおうか」

「え? 何ですかこれ……って、うわっ、魔石!? しかも6個も!」


ミーナが丸い目をさらに丸くして驚く。

そのリアクション、待ってました。


「図鑑でちゃんと予習したからね。ゴブリンの胸からきっちり解体してくり抜いてきたよ」

「すごいですダイスケさん! 本当に一日でちゃんと覚えてくるなんて!」


めちゃくちゃ褒められた。嬉しい。

会社員時代、上司に提出した書類が一発で通った時より何倍もアドレナリンが出ている。

ゴブリンの魔石6個の換金で財布の銀貨がまた少し潤った。


調子に乗った俺は、カウンターに身を乗り出して本題を切り出した。


「ところでミーナさん。例の『月光花』の採取依頼、受けさせてほしい」


さっきまで笑顔だったミーナの表情が、一瞬で真面目なものに変わった。


「月光花……本当に受けるんですか? あれは夜間採取になります。夜の森は昼間とは比べ物にならないくらい危険なんですよ?」

「分かってる。でも他属性の契約金が早く欲しいんだ。

森の本当に浅い入り口付近だけで見つけたらすぐに帰る。絶対に無理はしないから」


俺が真剣な顔で頭を下げると、

ミーナは小さくため息を吐き、


「……本当に、絶対に無理はしないでくださいね」


依頼の受理手続きをしてくれた。



◇◇◇


夜。

昼間の喧騒が嘘のように、不帰の森の入り口は静まり返っていた。

頭上には、地球では見たことのない蒼い月が妖しく輝いている。


「うわぁ……やっぱりめちゃくちゃ不気味だな……」


完全に日和っていた。

昼間ならなんてことのない草の擦れる音や獣の鳴き声が心臓をバクバクと震えさせる。

俺は新しい剣を右手に、そして左手には使い慣れた『宿屋の裏の棒』を杖代わりに握りしめていた。

剣だけじゃ心細かったのだ。


森の入口からほど近い場所を虱潰しに探していく。

2時間ほどうろついただろうか。

暗闇の中に、ほんのりと紫がかった白い光が浮かび上がっていた。


「あった…!」


駆け寄る。

そこには月の光を浴びて

ひっそりと花弁を開いている美しい花があった。月光花だ。

俺はハラハラしながら、根元を傷つけないように慎重にナイフで掘り起こし、袋に収めた。


「よし、一個ゲット! …さあ、次を探すぞ!」


と、意気込んだものの、現実は甘くなかった。

夜の森の恐怖心で集中力が乱れるせいか、

それとも単純に数が少ないのか、

その後どれだけ歩き回っても二個目の光は見つからない。

気付けば汗で背中がびっしょりと濡れていた。


「だめだ、全然見つからない……。ミーナとの約束通り、一個だけだけどもう引き上げよう」


欲を出しちゃいけない。

諦めて森の入り口へ引き返そうと踵を返したその時だった。


ガサリ。


すぐ近くの茂みが大きく揺れた。

ゴブリンか!? 俺は身構える。

しかし、そこから現れたのは緑色の肌をした生々しい魔物ではなかった。


カタカタカタカタ……。


奇妙な乾燥した骨の擦れ合う音が響く。

月明かりに照らされて姿を現したのは、

肉の一切を持たない白濁した人間の骨。

ボロボロの錆びついた鉄の剣をぶら下げた動く死体だった。


「う、嘘だろ……スケルトン……!?」


昨日図書館で読んだばかりの図鑑の記述が、頭の中を駆け巡る。

『推奨レベル:10〜20』

『頭部または胸部の魔石を破壊しない限り活動を停止しない』。


「レベル10以上!? 今の俺、レベル5なんだけど!!」


叫び出したくなるのを必死に堪える。

ゴブリンとは放つ威圧感がまるで違った。

スケルトンの虚ろな眼窩が、じっと俺を捉える。

次の瞬間、ボロボロの剣を振り上げ、骨の体からは想像もつかない速度で突進してきた!


「うわああああっ!?」


反射的に、左手に持っていた棒を前に突き出す。

ガキィィィンッ!!

鋭い金属音が夜の森に響いた。

スケルトンの放った一撃を棒のリーチでなんとか受け止める。

だが相手の腕力が強すぎる。

ミシミシと不穏な音が手元に伝わってきた。


「ヤバイ……っ!」


俺は棒を払うようにしてスケルトンの体勢を崩し、

すかさず右手の剣で胸のあたりを真横に薙ぎ払った。

リズの剣の切れ味は抜群で、スケルトンの肋骨を何本か叩き折る。

しかし奴は痛みを全く感じない。

怯むことなく、即座にカウンターの蹴りを放ってきた。


「がはっ!?」


まともに食らい、後ろへ吹っ飛ぶ。

胸当てのおかげで肋骨が折れるのは免れたが息が詰まる。


カタカタカタ!


容赦なく追撃の剣が振り下ろされる。

俺は仰向けのまま、咄嗟に左手の棒を盾のように掲げた。


ギチィィィィィン!!


パキィィィィィンッ!!!


悲鳴のような破壊音。

異世界に来て以来、

マイコニドを突き、

俺のソロ狩りを支え続けてくれた『宿屋の裏の棒』が、

ついに真っ二つに叩き折られ、宙を舞った。


「あ……っ!」


棒の退場に目を見開く。

だが、悲しんでいる暇は一瞬もなかった。

棒を叩き折ったスケルトンの剣がそのまま俺の顔面に迫る。


「死んでたまるかぁぁぁ!!」


俺は無我夢中で地面を転がり間一髪で刃を避けた。

土煙が舞う中素早く立ち上がる。

手元に残ったのは右手の片手剣一本。


スケルトンが再び剣を構える。

図鑑の知識を思い出せ。

『頭部または胸部の魔石を破壊しない限り活動を停止しない』

狙うは、あの肋骨の奥で妖しく光る小さな赤い光――魔石だ。


「ファイア!!」


俺は左手を突き出し至近距離から火球を放った。

手投げで射程5メートルというクソ雑魚性能の魔法だが

今、俺と奴の距離は3メートルもない。


ぽんっ、と放たれた野球ボール大の火球がスケルトンの顔面に直撃する。


カタァァァッ!?


視界を炎で塞がれ、スケルトンが一瞬だけ大きくのけ反って隙を晒した。


「ここだぁぁぁぁっ!!」


俺は全力を足に込め、前へ踏み込んだ。

武器扱いスキルの命中補正

傷一つない新しい剣の切れ味

そのすべてを乗せて

真っ直ぐに突きを放つ。


ガキィィィィィンッ!!!


手応えがあった。

剣の先端がスケルトンの胸の奥にある魔石を正確に捉え、粉々に砕いた。


一瞬の静寂。

次の瞬間、カタカタと鳴っていた骨の駆動音が完全に止まり

スケルトンは糸が切れた人形のようにバラバラと崩れ落ちてただの骨の山に戻った。


「はぁ……はぁ……はぁ……っ!!」


俺はその場に膝をつき、激しく肩で息をした。

心臓が壊れそうなほど鐘を打っている。

崩れた骨の山を見る。

そして地面に転がっている真っ二つに折れた棒を見た。


「……守ってくれたのか、ありがとな」


ボロボロの相棒に小さく感謝を告げ俺は折れた棒の片割れを拾って大事にバッグに仕舞った。

手元にはたった一輪の月光花。

命がけの割には、あまりにも微妙な成果だったが。


「帰ろう……マジで死ぬかと思った……」


俺は腰を抜かしそうな足を必死に叱咤し

夜の森を脱出したのだった。

苦楽を共にした棒が折れました。

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