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普通人が行く異世界冒険記  作者: 豆腐斧
第一章 アルトベルク編

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第十四話 受付嬢の名前

火属性契約を終えてから3日が経った。

その間、俺は真面目だった。

昼は依頼。夜は魔法練習。宿へ帰る。

夕食を食べる。部屋へ戻る。そして。


「リトルファイア」


ぽっ。

小さな火が灯る。

消える。


「リトルファイア」


ぽっ。

消える。


「リトルファイア」


ぽっ。

消える。


相変わらず小さい。

驚くほど小さい。

だが魔術師ギルドの人には毎日やれと言われた。

だからやる。

地道な作業は嫌いじゃない。

むしろ会社員時代に散々やらされてきた。

結果が出るなら続けられる。

ただ。


「今日は休むか……」


4日目の朝。

そう思った。


レベル上げ。採取。討伐。魔法練習。

気付けば異世界に来てから毎日何かしている。

休みがない。前世の会社か。たまには休もう。


そう決めた。


◇◇◇


昼過ぎ。

特に目的もなく冒険者ギルドへ向かった。

この時間は依頼を受けている冒険者が多いらしい。

ギルドの中はかなり空いていた。

昼間なのに静かだ。

いつもと違う雰囲気だった。

受付へ向かう。


「あら」


受付嬢が少し驚いた顔をした。


「ダイスケさん」

「こんにちは」

「今日は依頼を受けないんですか?」

「たまには休もうかなと思いまして」


受付嬢は少し笑った。


「真面目ですね」

「そうですか?」

「休みの日にギルドへ来る新人さんはあまりいませんよ」


それもそうかもしれない。

俺も他に行く場所がないだけだ。


◇◇◇


ふと気付く。

そういえば。


「今さらなんですけど」

「はい?」

「名前聞いてませんでした」


受付嬢が一瞬きょとんとした。

そして小さく笑う。


「あ、本当ですね」


今まで何度も話していたのに。

お互い名前を名乗っていなかった。


「私はミーナです」


ぺこりと頭を下げる。


「ミーナさん」


改めて見る。


小柄。

身長は俺の肩くらいだろうか。

栗色のショートカット。

丸い目。

どことなく小動物っぽい。

笑うと八重歯が見える。

近所の喫茶店の看板娘みたいな雰囲気だった。



◇◇◇


しばらく雑談していると。

ミーナがふと思い出したように言った。


「そういえばダイスケさん」

「はい」

「ギルドの訓練場は使ったことありますか?」

「訓練場?」


初耳だった。


「ありますよ」


ミーナは当然のように頷く。


「裏手にあるんです」

「知らなかった」

「皆さん普通に使ってますから」


全然知らなかった。

ギルドの建物しか見ていなかった。


「武器の練習とかですか?」

「それもあります」


ミーナは説明を続ける。


「引退した冒険者の方が新人向けに講習を開いているんです」

「講習?」

「はい」


それは少し気になった。

俺はほぼ独学でここまで来た。

ナイフも棒も自己流だ。

教えてもらえるならありがたい。


◇◇◇


「ちなみに」


ミーナが書類を確認する。


「このあと剣術講習がありますよ」

「剣術?」

「受けますか?」

「え?」

「銀貨2枚です」


銀貨2枚。少し悩む。

だが。

未来への投資だと思えば安い。


「受けます」

「承知しました」


ミーナが笑顔で手続きを始めた。


◇◇◇


訓練場は思ったより広かった。

木製の人形。的。素振り用の武器。

数人の冒険者も練習している。

その中央に一人の老人が立っていた。

背筋は真っ直ぐ。白髪。鋭い目。

歳はそれなり取っているはずなのに妙な迫力がある。


「講師のガルドさんです」


ミーナが教えてくれた。

ガルドさん。

近付くだけで分かる。

強い。かなり強い。


◇◇◇


講習が始まる。

参加者は俺を含めて5人。

新人ばかりだった。

ガルドが全員を見回す。


「まず聞く」


低い声だった。


「剣を振れる者はいるか」


何人かが手を挙げた。

俺は挙げなかった。

振ったことはある。

だが剣術ではない。

素人の真似事だ。

ガルドは頷いた。


「よし」


そして言った。


「剣は振るな」

「え?」


思わず声が出た。

ガルドは平然としている。


「まず立て」


◇◇◇


そこから地獄だった。

足の位置。

重心。

姿勢。

握り方。

呼吸。

歩き方。

構え。

抜刀。

納刀。

ひたすら基礎。

とにかく基礎。

永遠に基礎。


「地味だな……」


思わず呟く。

すると。

ガルドが聞き逃さなかった。


「基礎を馬鹿にする者は死ぬ」


即座に飛んできた。

怖い。

めちゃくちゃ怖い。

俺は慌てて口を閉じた。


◇◇◇


講習終盤。

参加者全員が汗だくだった。

俺も例外ではない。

腕が重い。

足が痛い。

肩も痛い。


「終わりだ」


その一言を聞いた瞬間。

心の底から安堵した。

周囲も似たような顔をしている。

ガルドは腕を組む。


「今日教えたことを毎日やれ」


誰も返事をしない。

疲れすぎている。


「返事」

「はい!」


全員慌てて叫んだ。

ガルドは満足そうに頷いた。


◇◇◇


帰り道。

俺はふらふらだった。

腕が上がらない。

足も重い。

たった数時間の講習なのに。

マイコニド狩りより疲れた。


「剣ってもっと格好いいもんだと思ってた……」


誰もいない道で呟く。

現実は地味だった。

異世界に来てから本当に地味なことばかり覚えている気がする。


◇◇◇


宿へ戻る。

部屋へ入る。

椅子に座る。

いつもならここで魔法の練習をする。


「リトルファイア……」


そう言いかけて。

やめた。

腕が上がらない。

身体中がだるい。

限界だった。


「今日は休もう……」


ベッドへ倒れ込む。

柔らかい。

気持ちいい。

そのまま意識が沈んでいく。

異世界に来て初めて作った休日は。

思ったより疲れる一日になったのだった。

ミーナ

年齢:20

身長:151cm

髪:栗色

瞳:茶色

髪型:ショートカット

体型:小柄

特徴:笑うと八重歯


ガルド

年齢:62

身長:178cm

体重:85kg

髪:白髪

瞳:黒

レベル:48

スキル:剣術 Lv15

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