第十三話 初めての魔法
魔術師ギルドの奥。
契約用の部屋へ案内された俺は、床に描かれた赤い魔法陣の前に立っていた。
部屋の中には俺と、契約担当の魔術師だけ。
窓はない。
静かな空間だった。
「それでは火属性契約を開始します」
魔術師が杖を掲げる。
俺は思わず背筋を伸ばした。
なんだか緊張する。
「契約中は動かないでください」
「はい」
魔術師はゆっくりと目を閉じた。
そして。
聞いたこともない言葉を唱え始める。
低く。
静かに。
だが不思議と耳に残る声だった。
やがて魔法陣が赤く輝き始める。
床に描かれた紋様が光を放つ。
「おお……」
思わず声が漏れた。
すると。
魔法陣の中心から赤い光が浮かび上がった。
炎だった。
本物の炎ではない。
半透明で。
ホログラムのような。
光でできた炎。
それがゆっくりと空中へ舞い上がる。
1つ。
2つ。
3つ。
次々と生まれていく。
まるで火の精霊が踊っているようだった。
そして。
炎は俺の身体へ向かって飛んでくる。
「えっ」
避ける暇もなかった。
炎は胸へ吸い込まれる。
次々と。
身体の中へ。
すると。
熱い。
熱いというより温かい。
身体の奥。
心臓の辺りがじんわり熱を帯びていく。
まるで体内に小さな焚き火が灯ったような感覚だった。
「これは……」
やがて最後の炎が吸い込まれる。
同時に魔法陣の光が消えた。
静寂が戻る。
魔術師が杖を下ろした。
「契約完了です」
「終わったんですか?」
「はい」
思ったよりあっさりだった。
だが身体の奥に残る熱だけは確かに感じる。
夢ではない。
本当に何かが変わった気がした。
◇◇◇
「ではステータスをご確認ください」
「ステータスですか?」
「契約が成功していれば火魔法を習得しているはずです」
俺は慌ててステータスを開く。
【ステータス】
名前:ヤスモトダイスケ
レベル:4
加護:均衡成長
スキル:万能適正、ナイフ術 Lv1、採取 Lv1、解体 Lv1、棒術 Lv1、火魔法 Lv1
筋力:19
敏捷:19
体力:19
魔力:19
精神:19
運:19
「増えてる!」
思わず声が出た。
火魔法 Lv1。
ちゃんとある。
魔術師も頷いた。
「成功ですね」
「おお……」
なんだろう。
採取や解体とは違う。
初めてファンタジーらしいスキルを手に入れた気がする。
少し感動した。
◇◇◇
「では実際に使ってみましょう」
魔術師が言った。
「もう使えるんですか?」
「Lv1ですので初級魔法のみですが」
十分だった。
むしろ早く使いたい。
「魔法はイメージです」
魔術師が説明する。
「体内の魔力を動かし、属性を意識する」
「はい」
「火を思い浮かべてください」
「火」
「そして魔法名を口にします」
なるほど。
ゲームっぽい。
分かりやすい。
「ではどうぞ」
俺は右手を前へ出した。
火。
火だ。
焚き火。
キャンプファイヤー。
ガスコンロ。
ライター。
とにかく火を思い浮かべる。
そして頭にフッと浮かんだ言葉を口にする。
「リトルファイア」
その瞬間。
指先に火が灯った。
ぽっ。
本当に。
ぽっ。
だった。
小さい。
とてつもなく小さい。
ライター程度。
いや。
下手したらライター以下。
「ちっさ!!!」
思わず叫んでしまった。
魔術師は冷静だった。
「そのようなものです」
「えぇ……」
俺は指先の火を見る。
しょぼい。
驚くほどしょぼい。
木を燃やすのも無理そうだ。
「もっとこう……」
俺は両手を広げる。
「ドーンとか」
「Lv1ですので」
一言で終わった。
夢がない。
◇◇◇
「ですが」
魔術師は続けた。
「最初から大きな魔法を使える者はいません」
「そうなんですか?」
「毎日使うことです」
「毎日?」
「はい」
魔術師は頷く。
「剣士が毎日剣を振るように」
「槍使いが毎日槍を振るように」
「魔術師は毎日魔法を使います」
なるほど。
スキルと同じだ。
結局は積み重ねらしい。
「毎晩練習してください」
「分かりました」
◇◇◇
その日の夜。
宿の部屋。
俺は椅子に座りながら右手を前へ出す。
「リトルファイア」
ぽっ。
小さな火が灯る。
消える。
もう一度。
「リトルファイア」
ぽっ。
消える。
「リトルファイア」
ぽっ。
消える。
「……地味だなぁ」
思わず呟く。
だが。
少し楽しい。
異世界へ来て。
初めて手に入れた魔法。
たとえライター程度でも。
確かに俺は魔法を使っている。
そう思うと、不思議と笑みが浮かんだ。
その夜。
俺は寝る直前まで、何度も何度も小さな火を灯し続けたのだった。
魔法覚えました。
【ステータス】
名前:ヤスモトダイスケ
レベル:4
加護:均衡成長
スキル:万能適正、ナイフ術 Lv1、採取 Lv1、解体 Lv1、棒術 Lv1、火魔法 Lv1
筋力:19
敏捷:19
体力:19
魔力:19
精神:19
運:19
魔法:リトルファイア




