第十二話 魔法が使いたい
ゲランとゴッソが出発する朝。
「じゃあな、ダイスケ」
「死ぬな」
「だから縁起でもないって」
いつものやり取りを交わしながら二人を見送る。
商隊の馬車がゆっくりと町を出ていく。
ゲランが手を振った。
俺も手を振り返す。
そして馬車は街道の向こうへ消えていった。
少しだけ寂しい。
だが感傷に浸っている暇もない。
俺にもやることがあった。
◇◇◇
「……そういえば」
宿へ戻る途中。
ふと気付く。
今まで覚えたスキル。
採取。
ナイフ術。
解体。
どれもレベルアップ直前によくやっていたことばかりだ。
採取ばかりしていたら採取。
ナイフで戦っていたらナイフ術。
解体していたら解体。
偶然とは思えない。
「ってことは……」
一つの疑問が浮かぶ。
「魔法ってどうやって覚えるんだ?」
俺は立ち止まった。
今まで当たり前のように魔法が使えると思っていた。
だが考えてみれば、一度も魔法を使ったことがない。
当然だ。
使い方を知らないのだから。
そしてもし予想が正しいなら。
「魔法を使わないと魔法系スキルを覚えられないんじゃないか?」
完全に詰んでいる気がした。
◇◇◇
翌日。
俺は冒険者ギルドへ向かった。
受付へ行く。
「おはようございます、ダイスケさん」
受付嬢が笑顔で迎えてくれる。
「おはようございます」
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「魔法について聞きたいんですが」
受付嬢は少し驚いた顔をした。
「魔法ですか?」
「はい」
「でしたら魔術師ギルドの管轄になりますね」
そう言って地図を取り出す。
「こちらになります」
「魔術師ギルドなんてあったんですね」
「ございますよ」
当たり前のように言われた。
俺が知らなかっただけらしい。
◇◇◇
町の中央付近。
冒険者ギルドより少し小さな建物。
入口には杖の紋章が描かれていた。
魔術師ギルド。
なんか格好いい。
少しテンションが上がる。
中へ入る。
受付には眼鏡を掛けた女性が座っていた。
「初めての方ですね」
「はい」
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「魔法を覚えたいです」
女性は慣れた様子で頷いた。
「では説明いたします」
◇◇◇
魔法を使うにはまず契約が必要らしい。
契約。
思ったよりファンタジーだった。
「何の属性に適性があるかは契約してみないと分かりません」
「事前には分からないんですか?」
「分かりません」
夢も希望もない回答だった。
そして料金説明。
火。
水。
土。
風。
基本4属性は金貨1枚。
つまり銀貨100枚。
高い。
非常に高い。
「ちなみに光と闇は?」
俺が聞くと女性は答えた。
「触媒が特殊ですので金貨5枚になります」
「高っ」
思わず声が出た。
銀貨500枚。
今の俺には到底無理だった。
◇◇◇
宿へ戻る。
財布を確認する。
銀貨を並べる。
1枚。
10枚。
20枚。
30枚。
40枚。
そして。
銀貨42枚。
火属性契約に必要なのは銀貨100枚。
不足は58枚。
「あと58枚か……」
思ったより遠い。
いや。
異世界に来たばかりの頃を考えれば十分近い。
薬草採取だけで生活していた頃に比べれば大きな前進だ。
「よし」
目標が決まった。
まずは銀貨100枚。
そして火の契約。
理由は簡単だった。
格好いいから。
男なんてそんなものである。
◇◇◇
その日の夕方。
宿の裏手を歩いていた時だった。
ふと一本の棒が目に入る。
長い。
かなり長い。
俺の身長と同じくらいある。
150cm以上はありそうだった。
「これ何ですか?」
宿屋のおばさんに聞いてみる。
「ああ、それかい?ゴミだよ」
「ゴミ」
「薪にもならないから放置してるだけさ」
なるほど。
俺は棒を見る。
長い。
そして。
ふと思った。
「これで戦えば槍のスキル覚えるんじゃないか?」
◇◇◇
それからの生活は少し変わった。
腰にはナイフ。
手には棒。
完全に不審者だった。
だが効果はあった。
マイコニドと戦う。
長い。
届く。
胞子が飛んでくる前に突ける。
楽だ。
かなり楽だった。
「リーチって偉大だな……」
◇◇◇
1週間が過ぎた。
討伐。
採取。
討伐。
採取。
討伐。
採取。
その繰り返し。
そして夕方。
角ネズミを倒した瞬間だった。
【レベルが上昇しました】
「おっ!」
慌ててステータスを開く。
【ステータス】
名前:ヤスモトダイスケ
レベル:4
加護:均衡成長
スキル:万能適正、ナイフ術 Lv1、採取 Lv1、解体 Lv1
筋力:19
敏捷:19
体力:19
魔力:19
精神:19
運:19
「全部上がった」
やっぱり均等だった。
本当に綺麗なくらい均等だった。
そしてさらに文字が浮かぶ。
【棒術 Lv1】
「来た!」
ついに新スキルだ。
期待しながら詳細を確認する。
【棒術 Lv1】
棒状武器の取り回し微向上
「……」
沈黙。
数秒沈黙。
そして。
「思ってたのと違う」
もっとこう。
必殺技とか。
槍撃とか。
そういうのを想像していた。
結果。
棒が少し扱いやすくなる。
だった。
試しに振る。
確かに軽い。
確かに回しやすい。
便利だ。
便利ではある。
だが。
「地味だなぁ……」
やっぱり地味だった。
◇◇◇
その日の夜。
財布の中身を机へ広げる。
銀貨を数える。
10枚。
20枚。
50枚。
80枚。
100枚。
そして。
「超えた」
銀貨104枚。
つまりこの1週間で62枚。
討伐と採取を繰り返した成果だった。
異世界に来たばかりの頃なら考えられない金額だ。
◇◇◇
翌朝。
俺は真っ直ぐ魔術師ギルドへ向かった。
受付の女性が俺を見る。
「契約ですね」
「はい」
俺は銀貨100枚を机へ置いた。
女性は確認して頷く。
「では契約を行います」
深呼吸する。
ついにだ。
ついに魔法が使えるようになる。
女性が問い掛ける。
「どの属性をご希望ですか?」
俺は即答した。
「火で」
理由は一つ。
格好いいから。
女性は小さく微笑んだ。
「承知いたしました」
そうして俺は契約用の部屋へ案内される。
扉が閉まる。
部屋の中央には見たことのない赤い魔法陣が描かれていた。
俺はその前に立つ。
ついに。
ついに魔法だ。
少しだけ高鳴る胸を押さえながら、俺は魔法陣へ足を踏み入れた。
【ステータス】
名前:ヤスモトダイスケ
レベル:4
加護:均衡成長
スキル:万能適正、ナイフ術 Lv1、採取 Lv1、解体 Lv1、棒術 Lv1
筋力:19
敏捷:19
体力:19
魔力:19
精神:19
運:19




