金策
『最強』の魔王エグゾノートを倒すことに成功した俺は、まずは金策に走らなければいけなくなった。
魔王素材を加工するのにも、これからのことを考えて動こうとするにも、とにかく金が必要だ。
そして大量の毒と聖水を金に糸目を付けずに買い込んだことで、俺は既に全財産を売り払ってしまい銅貨一枚すらない文無し。
父さんになら問題ないだろうが、この状況が母さんにバレたらまず間違いなくものすごく叱られる。下手をすれば成人するまで外に出られないとかそういうレベルの軟禁を受けてしまう可能性すらある。
まあ魔王素材を売ればいくらでも金は作れるだろうが、せっかく未だ人類で俺しか持っていない超のつく稀少素材を金に換えるのはあまりにも惜しい。
魔王素材はゲームでも取り扱いができなかったものだから、一体どのような装備ができるのか未知数だし……金に換えるのはそれがわかってからでもいいはず。
というわけで俺は早速、金を稼いでいくことにした。
「ルスト様、本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、問題ない」
「どうしよう、全然問題ない感じがしてこないんですが……」
俺が不安そうに後をついてくるラミィと一緒に、向かうのは道具屋だ。
そこで余った毒と聖水を売ると、まとめて金貨三十枚ほどになった。
聖水は買値からすると半値以下だが……しょうがない。
効果は変わらなくとも、聖水はやはり教会で売られているものをありがたがって買いたがるからな。
「わあすごい、一瞬で金貨三十枚も……」
目がドルマークになっているラミィを見ながら苦笑する。
うちのメイドの給金がいくらかは知らないが、彼女からすればこれでも十分に大金らしい。
「はした金とは言わないが、さすがにこれからのことを考えれば心許なさ過ぎる。とりあえず……そうだな。一日で金貨三万枚を目指すか」
「さ、三万枚っ!?」
そもそも今まで誰も加工したことのない魔王素材で武具をつくるのに、果たしていくらかかるかは未知数だ。
戦闘して魔物を倒して金を稼いでもいいが……それだと金を集めるのに時間がかかる。
冒険者登録をしてあれやこれやするのも面倒だしな。
セバスがかなりやる気を入れて職人達を選別しているようなので、可能な限り速攻で金を増やしたら後は丸投げして、俺は自身のやれることに尽力したい。
……となればやはり、この方法しかない。
「というわけで……行くぞラミィ」
「行くって……一体どこへですか?」
俺はその問いには答えず、そのままずんずんと進んでいった。
そしてある場所へ向かうと、横にいるラミィの方を向く。
「ここだ」
「ここって、もしかして……」
俺達の前にあるのは、陽気な音を響かせながら魔導ランプによってきらびやかに輝く、極彩色の店舗だ。
顎をそちらにしゃくりながら、俺は笑って言葉を続けた。
「ああ……カジノだよ」
♢♢♢
カジノは『ファスティアファンタジー』シリーズでは定番の娯楽施設だ。
ある程度大きな街にはカジノが存在しており、トランプやルーレットなど様々な賭博で遊ぶことができる。
ゲームではコインでアイテムを買い、それを道具屋で売らないと換金ができなかったようだが、どうやらこの世界では問題なく直接厳禁でやりとりができるらしい。
話が早くて助かるな。
「わわわ……ルスト様やめましょうよ。こんなところに来たら、お尻の毛まで抜き取られちゃいますよ」
「安心してくれ、俺は負けない」
「戦いの前とかで言ってくれたらすごい格好いい台詞なのに……カジノで言われたら台無しです!」
「いらっしゃいませー、ようこそカジノへ」
飲み物を運ぶバニーガールがこちらにウィンクをしてくる。
胸元がざっくりと開かれた服を見たラミィが、ぼんっと顔を真っ赤に爆発させた。
いや、なんで同性のお前がそんなに恥ずかしがるんだよ。
あちこちで様々な賭博が行われているがそれには脇目も振らず、俺は有り金全部の金貨三十枚をコインに替えてから店の一角へと向かう。
そこにあるのは……五台ほど並んでいる、誰一人座っていないスロットマシーンだった。
「スロットをやるんですか?」
「ああ、今日は一日打つつもりだから、飽きたら帰ってもいいからな」
俺はまず銅貨五枚相当のコインで回せる最低レートで、ガシャコンとレバーを引っ張る。
するとスロットが回転し始め、図柄が自動で止まっていく。
この世界のスロットのルールはシンプルで、図柄が揃えばその図柄の倍率に応じてコインがじゃらじゃらと出てくる仕組みだ。
一台目を打ち、二台目を打ち……そのまま五台全てを合わせて銀貨五枚分ほどかけて回し続け、頷いた。
「よし、わかったぞ」
俺は四台目のスロットに座ると、レートを引き上げて一回転銀貨五枚にして回し始めた。
一回転にかかる時間はおよそ五秒ほど。
一分間で十二回転ほど回し、一時間で七百二十回転ほど回す。
すると俺のコインはこの時点で金貨五十枚相当にまで増えていた。
「レートを更に引き上げる」
倍プッシュを行い、一回転を金貨一枚に。
増えてきた段階で金貨二枚、三枚と増やしていきそのまま一回転金貨十枚まで増やしていく。
「わっ、わわわわっ!?」
ジャラジャラと音を立てながら、投入したコインよりも多くのコインが払い出し口から飛び出してくる。
下皿が満杯になった段階で更に回転単価を上げていき、夕方になる頃には俺は既に一回転金貨百枚のレートでスロットを回し続けていた。
――俺がスロットを選んだ理由は単純に、この賭博がカジノの賭博の中で最も勝ちやすくできているからだ。
歴代の『ファスティアファンタジー』のカジノスロットマシーンにはルールが存在する。
それはカジノの各店舗のスロットマシーンの中に一台、投入した以上のコインを吐き出してくれる高設定の台が存在するというもの。
この世界でも通用してくれて助かったよ。
入れた以上に返ってくるのだから、レートを上げていけばその分だけ返ってくる額も大きくなる。
設定は打ち替えが可能であり、ひょっとすると明日以降はこの攻略法は使えなくなっているかもしれない。
故に俺はラミィに持ってきてもらった軽食を食べ、バニーに用意してもらったドリンクをちびちびと飲みながら、トイレに行く時間も惜しんでひたすら最速でスロットを回し続けた。
一回転金貨百枚で回し続け再び大量のコインを吐き出させたら、更に倍率を上げていき……日付が変わる頃には一回転の単価は金貨五百枚まで上げ、既に俺の手持ちのコインは金貨五万枚を超えることに成功した。
「は、はわわわわっ!!」
途中からは俺の代わりに箱にコインを詰め込んでいるラミィは、ひぅふぅみぃとコインの価値を換算して一人で慌てている。
これ以上やってもいいが、そろそろ疲れてきたし、時間も頃合いだ。
終わりにしてやるか。
「ちょっといいですかねぇ、お客様」
俺がそのまま大量の箱を持ち換金所へ向かおうとすると、ガッと肩を勢いよく掴まれる。
見ればそこには明らかにピキッた様子のカジノのお偉いさんと、俺に言うことを聞かせるためのガタイの良い用心棒達の姿があった。
「すみませんお客様、いささか勝ちすぎかと思いまして……魔道具などを使っていないか、念のために裏手で確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
マッチョ達が有無を言わさぬ様子で俺の両腕をがしっと掴む。
そこで俺はようやく、高設定の台が放置されている理由を理解した。
なるほど、実際にこうやって攻略してくるやつが来たら文句を付けてコインを巻き上げてやれば問題はないって話か。
……まあその手は、俺には通用しないけどな。
「はい、不敬罪」
俺は腕を掴んできた用心棒の腕を斬り飛ばす。
以前と比べると剣筋から何からとてつもない滑らかさだ。
すごいな、これが経験値による恩恵か……自分がまるでアスリートか何かになったようだ。
「俺はルスト・フォン・アストレア。アストレア家嫡男の俺に対してそのような言いがかりを付けることは到底許せぬ。これは俺が遊戯で得た正当な対価だ」
俺がパチリと指を鳴らすと、ラミィが手に握っていたクラッカーを思い切り引っ張る。
パンッと乾いた破裂音が響くと同時に、大量の騎士達がドッと中へなだれ込んでくる。
「なっ……」
「動くな、アストレア伯爵騎士団である」
念のために仕込んでおいて良かったよ。
無駄になったらその分特別手当を弾むつもりだったが、その手間が省けた。
「ヴォイド」
「はっ!」
俺の言葉に背筋を伸ばすのは、四十代後半ほどの見た目をした角刈りの男だった。
2メートルを超えるほどの身長に、ガチガチの全身鎧を身に纏っているコイツの名はヴォイド。
アストレア伯爵騎士団の団長であり、俺の剣の師でもある男だ。
ヴォイドはこちらを見る目は、冷ややかだった……とても嫡男に向ける視線とは思えないほどに。
道楽息子がやっている火遊びに俺を巻き込むなとでも言いたげだ。
やはりルストの評価は相変わらずあり得ないほどに低い。
今後のことを考えればヴォイドとも、以前のようにしっかりと友好関係を築き直さなければいけないな……。
「こいつらは不遜にも俺に対して敵意を向け遊戯で得た金を没収しようとした。伯爵家嫡男として到底許せるものではない。見たところ相当な量の余罪もありそうだ、詳しく調べてしょっぴいてやれ」
「了解致しました」
「なっ……なんという……(がくっ)」
カジノの中に押し入ってきた騎士達を見て、俺を連れにやってきたカジノの男はがっくりと肩を落とす。
こうして無事俺は一日で金策を済ませ、金貨五万枚という大金を手に入れるだけではなく、あくどいことをやっていたカジノの運営にメスを入れることにも成功するのであった。
領内での悪事は、このルストが許さんぞ!
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