表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/116

第四十話(後編):スローライフを諦めて、北の難所に踏み出した件

この物語は、いわゆる“最強勇者が無双する話”ではありません。

むしろその逆で、できれば戦いたくない主人公が、なぜか危険のど真ん中に放り込まれてしまう話です。


本人は逃げる気満々なのに、なぜか剣に選ばれ、妙な仲間と一緒に、生きるか死ぬかの状況に巻き込まれていきます。


派手なチートはありませんが、その分ギリギリで生き延びる感じや、少しずつ抗えるようになっていく過程を楽しんでもらえたら嬉しいです。


気軽に読んでもらえれば幸いです。

そのとき。


ドクンッ!!


剣が、これまでとは比べものにならないほど、全身に響くように脈打った。


「……っ?」


次の瞬間――


――引かれた。


桃太郎の体が、自分の意志とは無関係に動く。


剣を握る腕が、まるで意思を持ったかのように、強制的に振り上げられた。


「なっ……!?」


自分の体ではない。

だが、確かに“自分の手”が動く。


ザンッ!!


振り抜かれた一撃は、白い靄に触れた――その瞬間。


バチンッ!!


空気が弾ける。

静寂の中、白い靄が一瞬だけ“形”を持つ。


歪んだ輪郭。裂けた口のような影。


そして――


サァァァッ!!


“それ”がわずかに後退した。


「……今、下がった……?」


胸が張り裂けそうな呼吸の合間、桃太郎は荒い息を吐きながら剣を見下ろす。


ドクン。


ドクン。


鼓動はまだ続いている。


だが、さっきまでの“逃げろ”の脈動ではない。

今は――“戦え”と告げる鼓動だ。


「……はは」


乾いた笑いが、肺の奥から漏れた。


「マジかよ……」


震える足でゆっくりと立ち上がる。


足はまだガクガク。

息は荒く、胸が焼けるように痛む。


だが――


剣だけは、確かに応えていた。


背後。

白い靄が、再び揺れる。


さっきよりも、明らかに慎重だ。


まるで――


“獲物”ではなく、“敵”として認識したかのように。


「……さっきまでと話が違うな」


桃太郎は剣をしっかりと構えた。


心臓が鳴る。

剣も鳴る。


二つの鼓動が、森の空気を振動させ、同期する。


「逃げるだけじゃ、終わらねぇってか」


白い靄がゆらりと広がる。

森の木々のざわめきまで、恐怖に歪む。


だが――


さっきまでとは違う。


今、この場には、ほんのわずかだが抗う手段があった。


白い靄が、さらに広がる。


しかし――距離は着実に詰まる。


「……やっぱ無理か」


桃太郎が構え直した瞬間――


「地面を見るんじゃない!!」


森の奥から、オババの声が鋭く飛んだ。


「――上だ!!」


「……は?」


一瞬、思考が凍る。


だが次の瞬間。


ドクンッ!!


剣が、さらに強く脈打った。


(……上?)


考える暇もなく、体が動く。


桃太郎は足元の岩を蹴り、手を伸ばして近くの幹にぶら下がった。


「うおっ……!!」


全身の筋肉が悲鳴を上げる。

腕が震え、肩が軋む。

だが、下を見れば死しかない。


ザァァッ――


地面を、白い靄が削り取る。

まるで“生”そのものを喰らい尽くすように。


「……っ!!」


桃太郎は枝にぶら下がり、冷や汗が背中を伝う。


「マジかよ……下、全部ダメか……!」


「そうさ!!」

別方向から、オババの声。


「そいつは“触れた場所”を喰う! 下にいれば終わりだよ!!」


まるで意思を持つかのように、白い靄は追跡してくる。

空中でわずかに揺れる枝も、命綱のように心細くしなる。


「……いや、浮くのかよ!!」


桃太郎の顔が引きつる。

恐怖と戦慄が全身を貫く。


「完全じゃない! 高さを維持しな!!」


オババの声に、桃太郎は全身で反応する。

枝を握る手が痛く、腕が悲鳴を上げる。

だが、下を見れば死しかない。

一瞬の判断ミスが、命の終わりを意味する。


ドクン。

剣が、静かに、だが確実に脈打つ。


「……おい」


桃太郎は、息を整えながら呟く。


「まさかお前……これ、やれって言ってんのか?」


剣は答えない。

だが鼓動は止まらない。

全身に、何かが伝わる――生きろ、戦え、今だ、と。


下では、白い靄がゆっくり形を変え、上を見上げる。

次の一手を測るように、冷たく、確実に。


白い靄が、枝の高さにまでじわりと迫る。


「……来るぞ」

桃太郎が歯を食いしばる。


そのとき――


「左なのだ!!」


白雪の声が、鋭く飛んだ。


「は!?」


反射的に、桃太郎は体を横に振る。

次の瞬間――


ザァッ――


掴んでいた枝が音もなく消えた。


「なっ……!?」


理解が、一拍遅れて追いつく。


「今の……見えてたのか!?」


「わからないのだ! でも、来るのがわかるのだ!」


白雪は迷いなく別の枝に飛び移る。


「次、下なのだ!!」


「下ぁ!?」


桃太郎は叫び、腕の力で体を持ち上げる。


直後――


サァッ――


白い靄が足元をかすめる。


「マジかよ……!」


一瞬でも遅れていれば、足ごと消えていた。


「止まるな!! 動き続けな!!」


オババの声が飛ぶ。


「白雪! 読めるかい!?」


「来るのだ……!」


白雪の目がわずかに見開かれる。


「次は――大きいのが来るのだ!!」


白い靄が大きく広がり、網のように逃げ場を潰す。


「うわっ……!」


桃太郎の足場が、次々と消える。

逃げ場はない。


(詰んだ――)


そう思った瞬間――


ドクンッ!!


剣が、強く、明確に脈打つ。


白雪の声が重なる。


「――今なのだ!!」


時間が一瞬、伸びたように感じる。


桃太郎の視界が、鋭く研ぎ澄まされる。

恐怖も絶望も、鼓動と剣の脈に溶けて、唯一の行動――跳躍――に収束していった。

白い靄の“隙間”。

ほんのわずかな、通れる軌道。


「……そこか!!」


桃太郎は、迷わず飛び込んだ。


剣を振り抜く。


ザンッ!!


白い靄が、裂ける。


森の空中――。

マギ・オババがすーっと浮かび上がり、枝よりさらに高く、魔法の詠唱を始める。

その瞳は下の戦場をじっと見つめ、重力魔法の“その時”を待っている。


下では桃太郎と白雪が必死に逃げ回る。

白い靄が下から迫り、冷気が首筋を刺す。

枝を蹴り、幹をつかみ、空中を滑るように進む。

時折、桃太郎の剣が白い靄に触れ、裂ける音が森に響く。


「くそっ……!くっついてくんなよ!!」

桃太郎が叫ぶ。


「下を見ちゃ駄目なのだ!! 上を頼れ!!」

オババの声が空から轟く。


その瞬間――。


「チレッ!!」


マギ・オババの声に合わせ、重力魔法が炸裂。

空気がねじれ、白い靄が圧され、宙に浮く枝や幹ごと押し出されるように動く。

白い靄が悲鳴のように唸り、攻撃の軌道が崩れる。


「いける……か!?」

桃太郎は枝を蹴り、白雪も隣の幹へ飛び移る。

下から迫る脅威を避けつつ、オババの援護が二人の背中を押す。


ザァッ――


白い靄は追撃を試みるが、重力の壁に弾かれ、軌道が乱れる。

二人はぎりぎりの空中チェイスを制し、ついに安全な枝に飛び移ることに成功した。


「……はぁ……生きた……」

桃太郎が荒い息を吐く。

白雪も肩で息を切らせつつ、微かに笑みを浮かべる。


上空。

マギ・オババは静かに魔法を解き、二人を見下ろした。

無言のまま、ほんのわずかに微笑む――命をつなぐ、ほんの一瞬の奇跡だった。


白い靄は背後で揺れ、森の奥へと消えていった。


息を荒げながら、三人はしばらく黙って走る。


ようやく安全な場所まで距離を取ったとき、オババが杖を突き、立ち止まった。


「……ふぅ、しかし危なかったねぇ」


白雪は胸を押さえ、息を整える。


「ほんと、危なかったのだ……!」


桃太郎も剣を握り直し、荒い息のまま周囲を見渡した。


そんな二人をよそに、オババはにやりと笑った。


「良いかい、良くお聞き。命がいくらあっても足りない。次は迷わず逃げるんだよ」


二人が頷く間、オババは杖を軽く叩きながら、鋭くも温かい目で二人を見据える。


「さてと、北に向かう前に寄りたい所があるのさ」


「え……?」白雪が驚く。


「寄り道……?」桃太郎も眉をひそめる。


オババは杖を軽く振り、森の奥の方を指した。


「ここで無駄に休んでたら、次の試練でひどい目に遭うぞ。少し準備を整えておくのだ。あそこに行けば、役立つものが手に入る――それが、次に北へ向かうための鍵になるのさ」


白雪と桃太郎は互いに顔を見合わせる。


「……準備、ですか」


「……仕方ないのだ。危険なまま北へ突っ込むよりは、少しでも備えがあった方が……」


わたしの実家さ」オババがにやりと笑った。「あそこなら、裏山の洞窟で魔法石が取れていた。まぁ、四百年も前の話だが、希望はあるのさ」


桃太郎が目を丸くする。

「四百年前の……希望って、どういうことだ?」


「北へ向かう前に手に入れられれば、かなり助かる」


白雪も小さく頷く。

「なるほど、準備ってそういうことなのだ」


「ついて来な!」オババの声に力がこもる。「森の奥を抜ければ、実家までは一本道。行けば分かる、四百年前の希望ってやつをな!」


桃太郎は苦笑しながらも剣を握り直す。

「……希望、か。まあ、行くしかないな」


(はぁ……戦いたくないのに、また真ん中に立たされるなんて……俺、勇者フラグとかいらねぇんだよな……)


少し歩きながら、ふと思う。


(……魔法石、洞窟にあるかな。無ければ、やっと隠居できるかもな……)


桃太郎は小さく笑い、肩をすくめる。


(あるいは、また変な敵に追われるか……どっちに転んでも生き延びるしかねぇか。でもまあ……戦わずに済んだ今の気分は、悪くない)


剣の重みを肩に感じながら、桃太郎は森の奥へ、ひとり心の声で呟き続ける。


(頼むぞ、洞窟の魔法石よ……俺の隠居生活を、邪魔するなよ……)


三人は息を整え、再び森の奥へ歩を進めた。

背後では、白い靄の影も完全には消えていない。だが今は――北へ向かうための準備が先決する。


一方その頃

カリン引きいる自称勇者御一行様は、厳しい雪山の眼下に小さな村を発見してた。


「リミバァは、おじいちゃんはこの村にいると言ってたけど……」

 彼女たちの視線の先、雪に埋もれた村には、また別の運命が待ち受けていた。



ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


そしていつも高評価、ブックマーク、感想など、本当に励みになっています。ひとつひとつ大切に読ませていただいていますし、作品を書く力をもらっています。


今回のお話は少し息の詰まる展開になりましたが、ここからまた物語は動いていきます。少しでも続きが気になる、面白いと思っていただけたら嬉しいです。


今後も楽しんでいただけるよう頑張りますので、引き続きよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ