第四十話(中編②):スローライフを諦めて、北の難所に踏み出した件
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南の村の穏やかな時間は過ぎ去り、桃太郎一行の目の前には、生物の気配が途絶えた不気味な森が広がっていました。
計算と論理を武器にする桃太郎にとって、自分の愛剣が「脈打つ」という非科学的な現象は、何よりも雄弁に迫りくる危機を告げています。
白雪が感じた「違和感」、オババの鋭い視線、そして森の奥で揺らめく「白い何か」。
絶望が霧と共に忍び寄る中、一行は足を止めることを許されません。
果たして、剣が共鳴したその正体とは――。
手に汗握る中盤戦、ぜひ最後までお楽しみください!
三人は息をそろえ、互いに目配せしてから、一歩ずつ森の奥へ進み始めた。
風も静まり
光の揺らめきが森を導くように先を照らす。
未知の領域が、再び彼らを試す――しかし、勇気と連携があれば、必ず道は切り拓けるはずだった。
「……確かに、少し不気味なのだ」
白雪は杖をしっかり握り、身構える。いつもなら好奇心で先を急ぐ彼女だが、今は慎重さが勝っている。
「……演算脳的には、危険度80%以上だな」
桃太郎は小声で独り言をつぶやく。ポケットの芋に手を触れ、少しだけ安心感を得る。
マギ・オババは杖を地面に突き、ゆっくりと辺りを観察する。
「……ああ、気配が消えているわけじゃない。何かがこっちを見てるな」
「……誰か、いるのか?」
桃太郎が剣を構えると、森の奥からわずかにカサリ、と音がする。だが、風で枝が揺れているだけなのか、それとも――。
白雪は深呼吸して言った。
「焦ってはいけないのだ。まずは観察、次に判断……なのだ」
その時、森の陰から小さな光が揺らめき、二人の影の間をすり抜けた。
「……光?」
桃太郎の眉がぴくりと動く。
オババが口元に笑みを浮かべる。
「ふふふ……これは試練の前触れかもしれんぞ。南の山は、心構えのある者しか通さぬからな」
白雪は少し興奮した様子で、でも慎重に言った。
「……よし、みんなで進むのだ! 光の先には、何かあるのだ!」
だが桃太郎の足は、わずかに止まった。
視線の先――道端の茂みに、小さな違和感があった。
「……なんだ、これ」
そこには、小動物のものらしき足跡があった。
だが途中で、ふつりと消えている。
「逃げた……わけじゃないな」
桃太郎はしゃがみ込み、地面に手を当てる。
「途切れ方がおかしい。途中で方向を変えた跡もない」
白雪も覗き込む。
「……ほんとだ。急に消えてるのだ」
マギ・オババは杖をつき、ゆっくりと近づいた。
そして一度だけ目を細める。
「……山じゃ、たまにあることさ」
軽く言ったが、その声にはわずかな重みがあった。
桃太郎は立ち上がり、周囲を見渡す。
風は吹いている。木々も揺れている。
だが――何かが“抜けている”ような感覚。
(……嫌な感じだな)
演算脳が、小さく警鐘を鳴らしていた。
「行くのだ、桃太郎」
白雪が振り返る。
「……ああ」
桃太郎は頷きながらも、無意識に剣の柄に手をかける。
さっきまでとは違う。ほんの少しだけ、意識が戦いに寄り始めていた。
⸻
さらに進むと、道は細くなり、両脇の木々が密集し始める。
光も届きにくくなり、昼だというのに薄暗い。
そのとき――
サァ……
風が抜けた。
温度の違いではない、何か“空気の変化”を感じる。
桃太郎は足を止めた。
「……今のは、さすがに気のせいじゃないな」
白雪も表情を引き締めた。
「……うん。ちょっと、おかしいのだ」
マギ・オババは一度だけ桃太郎の剣を見た。
何も言わない。ただ、杖を握る手にわずかに力が入る。
桃太郎は眉をひそめる。
(……山の上に行ってるからか?)
(いや、違う。さっきまでこんな冷え方はしてなかった)
演算脳が答えを出しかけて――止まる。
「……まあいい」
桃太郎は小さく首を振った。
「どうせ行くしかないんだろ」
「そうなのだ!」
白雪は力強く頷く。
三人は再び歩き出す。
だが、森の奥。
誰もいないはずのその先で――
風とは違う“何か”が、わずかに揺らいだ。
気づく者は、まだいない。
三人は再び歩き出す。
だが、そのとき――
ドクン。
「……っ?」
桃太郎の足が止まった。
胸ではない。
腰に差した愛剣が、わずかに脈打った。
ドクン。
まるで、生きているかのように。
「どうしたのだ?」
白雪が振り返る。
「……いや」
桃太郎は眉をひそめ、柄に手をかける。
(今のは……なんだ?)
鼓動は一瞬で収まった。
だが、手のひらには確かな感触が残っている。
「疲れてるのだ?」
「……かもな」
そう答えながらも、視線だけは森の奥に向けたままだった。
ドクン。
今度は、わずかに強く。
桃太郎の演算脳が、静かに警鐘を鳴らす。
(……フラグか)
三人は再び歩き出す。
森は静かだった。
風の音も、鳥の気配も、どこか遠い。
ドクン。
「……っ?」
桃太郎の足が止まった。
胸ではない。
腰に差した愛剣が、わずかに脈打った。
ドクン。
まるで、生きているかのように。
「どうしたのだ?」
白雪が振り返る。
「……いや」
桃太郎は眉をひそめ、柄に手をかける。
鼓動は一瞬で収まった。
(気のせいか……?)
「疲れてるのだ?」
「……かもな」
そう言って、再び歩き出す。
――だが。
ドクン。
今度は、さっきよりもはっきりと。
桃太郎の手が、無意識に剣を握る。
(……なんだ、これ)
鼓動は、剣の奥から伝わってくる。
血ではなく、記憶か、あるいは“何か”に反応しているような。
そのとき。
視界の端で、何かが揺れた。
「……今、何か動かなかったか?」
「え?」
白雪はきょとんとする。
「何も見えないのだ」
桃太郎はしばらく森を睨んだが、やがて小さく首を振った。
「……いや、やっぱり気のせいか」
その瞬間。
ピタリと、剣の鼓動が止まった。
静寂。
風が戻る。
木々が揺れる。
さっきまでの違和感が、嘘のように消える。
「ほら、やっぱり何もないのだ!」
白雪が笑う。
「……だな」
桃太郎も苦笑し、手を離す。
(……考えすぎか)
そのまま三人は歩き出した。
――数歩、進んだところで。
ドクンッ。
「――っ!!」
今度は、強い。
剣が、明確な意思を持ったかのように脈打った。
同時に。
サァ……
冷たい風が、森の奥から吹き抜ける。
さっきとは違う。
温度ではない。
“何かが通った後の空気”のような冷たさ。
桃太郎の足が止まる。
「……今のは、さすがに気のせいじゃないな」
白雪も、今度は表情を引き締めた。
「……うん。ちょっと、おかしいのだ」
マギ・オババは何も言わない。
ただ一度だけ、桃太郎の剣を見た。
その目は、ほんのわずかに細められていた。
森の奥。
誰もいないはずのその場所で、
“白い何か”が、わずかに揺れた。
だが――
それに気づく者は、まだいない。
桃太郎の手が、剣の柄を強く握る。
ドクン、ドクン――
鼓動は、もう隠そうともしない。
まるで「来る」と告げているようだった。
「……オババ」
低く呼びかける。
マギ・オババは、わずかに頷いた。
「――止まるんじゃないよ」
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ついに未知の領域へと足を踏み入れた桃太郎一行。突如として脈打ち始めた愛剣は、一体何を伝えようとしているのか。そして、霧の向こうで揺れる「白い何か」の正体とは――。
次話、ついにその脅威が姿を現します。
引き続き、桃太郎たちの旅を見守っていただければ幸いです!
次回の更新もお楽しみに!




