第二十六話(後編):隠居生活が少女の一言で崩壊する件
いつも読んでくださってありがとうございます!
今回の話では、桃太郎たちが「影裂き峠」で思わぬピンチに直面します。
隠居希望の桃太郎にとっては、完全に想定外の難易度。カリンや仲間たちと一緒に奮闘する様子を、ドキドキ・ハラハラしながら楽しんでいただけたら嬉しいです。
シリーズを通して、日常とファンタジー、ちょっとした冒険とギャグのバランスを意識しています。今回は特に、桃太郎の焦りと仲間たちの勇気・信頼の描写がメインになっています。
「……これ、実を取りに行くだけの難易度じゃないよな?」
遠くから響く咆哮に、俺の冷や汗は止まらない。
だが、震える俺の手を、カリンがぎゅっと握り直した。
「大丈夫よ、ももっち。みんなで一緒だもん!」
そのまっすぐな瞳に射抜かれ、俺は「嫌だ」と言いそびれた。
家を飛び出した直後、俺は自分の甘さを呪った。
遠くに見える影裂き峠は、どろりと黒い雲に覆われている。
『おいおい、村のベテランが警告してたのはこれか? 超難関校に鉛筆一本で特攻するようなもんだぞ……!』
「急ごう! ホー、道案内お願い!」
カリンの号令で、俺たちは走り出した。
『落ち着け俺。最短距離で実を毟って帰る。それだけだ……』
道中、吊り橋を渡る四人と桃太郎。
昨日の大雨でぬかるんだ山道、湿った木板がギシギシと軋む。
通りかかった村人が声をかける。
「おっ、お前たち、今日も冒険者ごっこか?」
「この先は昨日の大雨で危険だから、子供だけで近づくなぁ!」
ルル・ホー・ミミは目を丸くしてビビる。
「うわ、怖っ!」
「いやいや無理だって!」
桃太郎は小さく声を漏らす。
「えーー、マジで……?」
しかしカリンは杖を握り、ニッコリ笑う。
「大丈夫よ、私が先頭行くから」
桃太郎の心の声:
『おいおい、その根拠のない自信はどこから来るんだ……!でも、俺が引き返せる道はない……守るしか……』
このモードのカリンは、まさに姉御全開モード。
小さな声で「アネゴに続けー!」と桃太郎と三人を鼓舞する。
子供たちはおそるおそるだが、先頭のカリンを信じて一歩踏み出す。
吊り橋を渡る木板がギシギシッと鳴る。
桃太郎は「うわっ、揺れてる……!」とつぶやきながら、手すりにぎゅっと掴まる。
ルル、ホー、ミミも慎重に進む。
霧が峠に立ち込め、湿った岩や苔で滑りやすい道に変わる。
湿った土の匂い、落ち葉の香り、冷たい風が肌を撫でる。
光る天然のきびの実が足元で揺れ、微かな黄金色の輝きを放つ。
「うわぁ……慎重に行かないと……」
桃太郎は小さく息をつき、肩をぎゅっとすくめる。
『崖下に落ちたらどうしよう……いや, 俺は何としても守らねば……!』
影裂き峠に入ると、霧は濃くなり、岩場の形状も複雑になる。
ルルが小さな袋からおやつを取り出す。
「はー、腹減ったー!」
「駄目よ!足元を見て!崖下に落ちるでしょう!」
カリンは杖を握り注意する。
ルルは目を盗み、こっそりパクリ。
「んぐっ……うわっ!」
苔で滑り、片足が崖の端にかかる。
「きゃー!」
慌ててルルの腕を掴もうとしたホーとミミだったが、昨日の大雨が仇となった。
水を吸って緩みきった地盤が、三人の重さに耐えきれず、音を立てて崩落し始めたのだ。
連鎖的に足場を失い、霧の底へと吸い込まれていく三人。まさに全員まとめて不合格(脱落)の危機だ。
桃太郎は肩で息をつき、手をぎゅっと握る。
『……いや、まだ……何もしてない……環境把握して……でも、放っておけない……! 雨のせいで計算が狂いすぎだろ、これ……! でも、見捨てたら一生後悔する……!』
霧の中、崖が崩れる音、小石が転がる音が響く。
桃太郎は一瞬ためらうが、仲間の笑顔を思い出し、手を差し出す。
「行くぞ……!」
杖も魔法石も触れず、手から光がほのかに走り、魔法の糸が岩の隙間を伝い仲間を安全に引き寄せる。
ルル、ホー、ミミはぎりぎりで立て直し、無事安全地帯へ。
桃太郎は肩で息をつき、黄金色の光に包める仲間の笑顔を見つめる。
『……守れた……ギリギリ……』
そして、落下した岩の先で光る天然のきびの実を見つけ、慎重に回収。
「わーっ、これであの子も助かる!」
ルルもミミもホーも笑顔で桃太郎を見上げる。
カリンも杖を肩にかけ、満足げにニッコリ。
「流石でしょ?姉ちゃんがついてるんだから♡」
桃太郎は頭を抱え、小さく呻く。
『イヤイヤイヤイヤ、俺は一体……』
⸻
家に帰ると、柔らかな夕焼けが室内を赤く染めていた。
リミバアは腰に手を当て、穏やかな笑みを浮かべる。
「お帰り。よくやったわね」
少女はまだ目を閉じて静かに横たわっている。
桃太郎はそっと手にしたきびの実を差し出す。
「……これ、だよ」
小さく囁き、そっと少女の手に触れる。
少女の瞳がゆっくりと開き、迷わず桃太郎に飛びつく。
「わっ、えっ, う、うわっ!?」
桃太郎は思わず後ろにヨロリとひっくり返りそうになり、手足をバタバタさせる。
「お、おい、落ち着け……うわぁぁっ!」
ルルやホー、ミミも目を丸くして声を上げる。
「す、すごい!」
「桃太郎、さすが!」
少女は手にしたきびの実を口に運び、ほっと小さく息をつく。
「甘い……」
その横で桃太郎は、まだ手を添えたまま小さくガクガク震え、頬を赤くしている。
「も、ももっち……いや、落ち着け俺……!」
(心の声:『イヤイヤ、こんなこと俺がやるはずじゃ……!?』)
少女は小声でリミバアの耳元に囁く。
「裏のグリモワールドが…」
リミバアは微笑み、落ち着いた口調で答える。
「大丈夫よ。今はまだ混乱してるだけ……ゆっくり休みなさい」
桃太郎やカリンたちは、ただ静かに見守るしかない。
家の中には夕焼けの温かさが広がるが、どこか空気が微かに揺れ、かすかに木の葉がざわめくような音が聞こえる――
読者だけが感じ取る、小さな不穏の気配。
その音の先には、まだ見えない別の世界――裏のグリモワールドの影が、静かに潜んでいることをほのめかしていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
影裂き峠での一幕は、桃太郎たちにとって小さな冒険ですが、読者の皆さんと一緒にハラハラできたら嬉しいです。
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皆さんの応援が、次の章を書く大きな力になります。
次回も、桃太郎とカリン、そして仲間たちのドタバタな日常と、ちょっとした緊張の冒険をお届けしますので、ぜひお楽しみに!




