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第二十三話:暖房の魔法石をハッキングしたら絶対零度だった件

ももっちの「計算と努力」が、最悪の「計算ミス」を招く緊迫のシーン。


そして、カリンの未知なる力が重なり合う、物語の大きな転換点です


。魔法石の正体、そしてリミバァの無言の受容……。どうぞお楽しみください!

俺の平穏な隠居生活は、一個の石ころで終わった。


壁の「わらじ」を、リミバァはじいちゃんの形見のようにじっと見つめている。

「寒いよ、おばあちゃん!」

「暖炉消えてるね!」

「ちょっと待ってな!」


リミバァが魔法石を手に取り、詠唱する。

「――サーマル・ブレス」


しかし石は沈黙。魔力も落とし込めない。

「あのオヤジ、不良品渡しやがって!」

リミバァは石をポいと放り捨てた。

(あれは豊作の時に店主から奪ったやつだろ)


別の石を探し出し、再び詠唱。

「――サーマル・ブレス」


今度は赤く優しく光を放つ。リミバァはそれを暖魔の器に置き、暖炉にそっと置いた。春の陽だまりのような温もりが部屋に広がる。


俺は投げ捨てられた石を拾い、差し出す。

「ん? おばあちゃんコレ!」

リミバァは鼻で笑う。

「ただのくたびれた石だ。魔力も通らねぇ」


だが俺の指先が触れた瞬間、内部構造が立体化した。巨大な『数式』が鍵を守っている。

(解ける。俺の計算なら、一瞬でこじ開けられる……!)


――この石が、俺の隠居生活を粉々にする劇薬になるとは、まだ知らなかった。

やめろ、俺。好奇心は浪人生を殺す。しかし指先はすでに、その数式の『アンサー』をなぞり始めていた。



「おはよー! リミバァ! ももっち!」


眩しい声と共に、カリンが飛び込んできた。

(……助かった!!)


リミバァの視線が逸れた隙に、俺は魔法石をポケットへねじ込む。

「ももっち、特訓の約束でしょ! 行こう!」

カリンに腕を引かれる俺の背に、リミバァの声が飛ぶ。

「冷え込むよ。早めに帰るんだよ」


表へ出ると、冬の澄んだ青空から日差しが降り注ぐ。

だが、昨夜から響いていたゴオオォ……という不気味な川鳴りが、俺の脳裏をよぎる。

(いよいよ『白の王』のお出ましってわけか)


広場に着く頃には、日差しは完全に消え、空は鉛色。鋭い雪の粒がカリンの頬を叩く。


「あたためて……お願い、燃えて!!」

カリンは鼻を赤くし、祈るように魔法を繰り返す。だが凍てつく風に術式は霧散し、彼女の体温だけが奪われていく。

(計算外の冷え込みだ。このままじゃカリンが凍えちまう)


俺は必死に呑み込む。

「……サーマル・ブレス!」

ダメだ。一ミリも反応しねぇ。

(選んでいる暇はない……「正解」は一つだ!)


俺はポケットの石を掴み、脳内の演算回路をフル稼働。

システムの根幹――『アルカナ数式』を直接ハッキングする。

(この係数をずらして……特異点をここに……そこだッ!!)


脳内で「理の壁」が砕け散る。

石の封印が解け、回路が目覚める音がした――瞬間、冷気が暴走。


「……あ、がっ……!?!?!?」

ピシピシピシッ!

石を握る俺の指から袖口まで、一瞬で霜付く。

(暖房用じゃない。この石は最初から、周囲の熱量を食い潰す「冷気魔法石」だったんだ)


吹雪が広場を覆い、カリンの足元まで青白い冷気が迫る。

(クソっ!! 自分の計算で、一番守らなきゃいけない奴を危険に晒すのかよ!!)



その時、カリンの手が淡く光った。

「ももっち、1秒だけ戻して……!」


世界が巻き戻る。


カリンの意識だけが、そのまま取り残された。


たった今の1秒が、もう一度だけ繰り返される。


光が広がると同時に、世界の景色が一瞬巻き戻る。

吹雪の流れも、俺の手の動きも、すべて巻き戻った。


カリンの瞳に映る世界――1秒前の自分を見て、微笑みながら手を振る姿。


冷気が肺に侵入し、息が止まる――

視界が白く焼け、音が消える。

(――死ぬ……!)

その瞬間、光が弾けた。


その力は、死の直前にしか使えない。

一度きりの、やり直し


その瞬間、俺は感覚を研ぎ澄ませ、魔力の配分と石の角度を微調整する。

(ここだ! この角度なら冷気の流れを外側に逸らせる……)


パキィィィィィンッ!!

石の封印が完全に開放され、制御回路が目覚める。

冷気の猛吹雪が、俺の作った風の壁に沿って外側へ流れ始めた。


「うわっ、すごい……!」

カリンは光る手を握りしめ、1秒タイムリープ視点で、俺の魔法が吹雪を押し返す様子を見た。

彼女の瞳に映る「ももっちの決意」と「守り切った安心感」が、まぶしく光る。


広場に残った冷気はわずか。カリンの体温も戻る。

リミバァは駆け寄り、不敵に笑う。

「ふん……少しは隠居らしい顔になったか」


俺はカリンの手を握り、深呼吸。

(……間に合った。でも……バレてしまったな……隠居どころじゃない)

(しかも、俺……強くなっちまったじゃないか……!)


白銀の広場。暴走寸前だった冷気は収まり、街を覆う霧も柔らかく変わった。

俺たちは息を整え、胸の奥に新たな決意を刻む。


――この石の力はまだ未知数。

俺たちの隠居生活は、完全に終わった。

そして次は、もっと大きな試練がやって来る。


カリンが小さく笑う。

「ももっち、次は……もっと強くなるね?」

俺は拳を握り返す。

「……ああ、絶対にな」


冷気魔法石、カリンの光る手の1秒、俺の計算。

三つが揃った時、この街に何が起きるのか――まだ、誰も知らない。

無事に家へ戻る。


戸口に、リミバァが立っていた。

鼻先に小さなツララを下げたまま、静かに笑っている。


不敵じゃない。

試す目でもない。


ただ――待っていた顔。


カリンが駆け寄る。

「おばあちゃん、私たち……」


リミバァは小さくうなずく。

「寒かったろう」


それだけだった。


叱られない。

問い詰められない。


ただ、暖炉に新しい石を置き、火を灯す。


ぱちり、と火が鳴る。


部屋が、ゆっくりあたたまっていく。


俺はポケットの中の石を握りしめたまま、

小さく息を吐いた。


(……アレ、完全に覚醒しちまったよなぁ)


リミバァは何も言わない。


ただ、火を見つめている。


その横顔は、どこまでも静かだった。


ももっちの機転とカリンの不思議な力が合わさった瞬間、鳥肌が立ちましたね!

「1秒だけ戻す」というカリンの能力が、ももっちの超精密計算と噛み合う……これこそ最強のコンビかもしれません。

そしてリミバァの、すべてを察した上でのあの「寒かったろう」という一言。家族の絆が深まった回となりました。

今回のエピソードが「面白い!」「続きが気になる!」と思ってくださった方は、ぜひ高評価とブックマークをお願いいたします!

皆さんの応援が、ももっちの次なる計算(と努力)の大きな活力になります!

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