第二十四話:【悲報】隠居したいのに、六歳のアネゴが魔境を自給自足で攻略し始めた件
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五歳にして杖を自作(自給自足)しようという無謀な計画から始まった今エピソードも、いよいよクライマックスです。
カリンに引きずられる形で、ついに街の外の「魔境」へと足を踏み入れてしまった桃太郎。
果たして、彼の「計算」は、この理不尽なアネゴと野生の森に通じるのか……。
五歳児たちの命がけ(?)の遠征、最後まで見守っていただければ幸いです!
街を閉ざしていた厳しい冬がようやく過ぎ、空気には春の柔らかな匂いが混じり始めていた。
街の朝はまだ静かで、店先の鈴がかすかに鳴る。
「ももっち、見て見て! 杖、借りてきたよ!」
カリンの手には、託児所の貸し出し用のボロ杖が握られていた。
「ふむ……こ、これは……借り物か……」
(おいおい、俺の隠居生活がまた危険にさらされる予感……!)
カリンが杖の先端に魔法石をはめ込んだ瞬間、俺の「計算」が走り、杖の先からダイヤモンドを砕いたような、眩いばかりのキラキラとした光の粒子が溢れ出した。
その輝きは春の陽光を反射しながら、まるで生きているかのように、美しく辺りを舞い踊る。
「ももっち! 魔法、出たよ! こんなに綺麗に魔法が出るなんて……!」
俺は息を呑む。
(いや、正確には“出した”のは俺の計算通りだ。だけど、このボロ杖でこれだけの安定した出力を維持するなんて……隠居生活終了フラグが立った……!)
足元では、梟人の子どもたち――ホー、ルル、ミミの三人が、舞い踊る光の粒を「ホー?」「ホー!」と追いかけて、楽しそうにぴょんぴょん跳ね回っている。
「わあ、すごい! ホーくんたちがこんなに喜びんでる……! 私、実は魔法の才能あったんだ……!」
俺は背後でこっそりツッコミを入れた。
(やばい……俺は今、何をしてるんだ……隠居したいはずなのに、指先一つで彼女を勘違い魔法使いに変えてしまっている……!)
カリンが最高の笑顔でこちらを振り向く。
「よし、次は買いに行こう! ももっち、一緒に行こう!」
俺は小さく息を吐き、覚悟を決める。
(……よし、仕方ない。大人には内緒で……だな)
この時の俺は、まだ知らなかった。
「最高効率」を求めたこの判断が、平穏な隠居生活を粉砕する、最も危険な冒険の始まりになることを。
五人は意気揚々と市場に繰り出す。
そこには色とりどりの品物が溢れていた。
「杖あれば私は勇者御一行様の一員になれる!お母さんを助けに行くんだ!」
当然子供だから、お菓子とか買ってる梟人の子供もいる。
「ダメダメ!」
アネゴと呼ばれるカリンは言う。
(……さっきまで借り物の杖で大はしゃぎしてたやつとは思えない切り替えの早さだな。アネゴの統率力、恐るべし……)
だが、たどり着いた高級店『万象の枝先』で突きつけられたのは、五歳児の全財産では到底届かない桁違いの「現実」だった。
カリンは地面に座り込み、頭を抱える。
梟人の子どもたちも、彼女の顔を覗き込む。
「じゃあ、山に行くしかないんじゃない?」
梟人のリーダー格の子、ホーが言う。
「え、山……?」
「そうだ。昔の人は、魔法道具を自然の中で作ったり拾ったりしてたんだって」
その言葉に、カリンがバネのように跳ね起きた。
「それよ! 落ちてるならタダだわ!」
(……計算外だ。拾えばタダという理論で、さらに難易度の高いデスゲームにシフトするなんて……!)
目的地は、街の外れ
【這いずる霧の森】
一歩足を踏み入れると、そこは別世界だった。
湿った土の匂いと、肌にまとわりつくような冷たい霧。ねじ曲がった樹木の隙間から、赤い瞳が爛々とこちらを見つめている。ガサリ、と何かが這いずる音が周囲を囲む。
「……怖くないわ。私は勇者なんだから」
カリンは声を震わせながらも、ボロ杖をぎゅっと握りしめて前進する。
その時、森の深淵から「何か」が動く気配がした。赤い瞳が密集し、絶望的な暗闇が子供たちを飲み込もうとする。
「——カリン、杖を振れ!」
俺は背後で叫び、同時に指先で空間の数式を固定した。
カリンが勢いよくボロ杖を振るった瞬間、俺の「計算」が臨界点を超えて炸裂する。
「——魔法展開、光の回廊」
杖の先から、爆発的な金色の奔流が溢れ出した。
ただの光ではない。それはダイヤモンドの粒子を溶かし込んだような、圧倒的な密度の黄金色だ。光はまたたく間に道となり、おぞましい霧を焼き払い、森の奥深くまでを一直線に貫く**「聖域の回廊」**を形成した。
「わあぁ……! すごい、金色の道だよ!」
ルルとミミが歓声を上げる。暗闇の中で蠢いていた赤い瞳たちは、その神々しいまでの輝きに焼かれ、悲鳴を上げる間もなく霧の彼方へと退散していった。
一面が黄金に染まり、不気味な森は一時的に、光り輝く宮殿のような静謐さに包まれる。
(……ふぅ。出力を間違えたか? いや、これくらいやらなきゃ五歳児が死ぬしな……!)
俺は冷や汗を拭いながら、金色の道の上を平然と歩き出すカリンたちを追いかけた。
【月光の広場】
黄金の回廊が導いた先には、奇跡のように月光が差し込む聖域があった。
その中心、切り株の傍らに、白銀に輝く『月光樹の枝』が静かに落ちていた。
「よし、これよ! 大成功よ!」
【帰還:リミバア家】
泥だらけになりながら街に戻ると、リミバアが温かいランプの光の下でニコニコと迎えてくれた。
「おかえり、勇者御一行様。……ほう、こいつは驚いたね。本当に『月光樹』を手に入れてくるとは」
リミバアは使い古された作業台の上に枝を置くと、熟練の手つきでナイフを走らせた。
ももっちが計算した最適な回路に沿って、魔法の刻印が刻まれていく。削り出された木肌は真珠のような光沢を放ち、その先端にあの輝く魔法石がはめ込まれた。
仕上げにリミバアが古びた呪文を唱えると、枝と石が吸い付くように一体化し、ボロ杖とは比較にならない透明度の高い黄金の残光が部屋を満たした。
「さあ、おあがり。世界に一本だけの、あんたたちの杖だよ」
完成した杖を受け取ったカリンは、信じられないものを見るように目を輝かせた。
「すごい……! これ、私の杖……! 借り物じゃない、私の……!」
俺はその後ろで、深いため息をつきながら頭を抱えていた。
(……イヤイヤ、俺は何やってるんだ……! 自分の技術を総動員して、一番作っちゃいけない『伝説の武器』をこの世に生み出してしまった……!)
それでも、杖を宝物のように抱きしめ、満面の笑みを浮かべるカリンを見て、皮肉の一つも言えなかった。
カリンは誇らしげに杖を天に掲げる。
「よーし、これで私も本物の勇者御一行様の一員だわ! 冒険に行こう、ももっち!」
ルル、ミミ、ホーの歓声が夜の空気へと溶けていく。
――こうして五歳編は、主人公の絶望と共に完結した。
俺の平穏な隠居生活は、もう二度と元には戻らないのだった。
(五歳編・完結)
「五歳編」を最後まで読んでいただきありがとうございました!
結局、ももっちの「平穏な隠居生活」への道は、自らのハイスペックな支援のせいでさらに遠のいてしまいました。
本人は絶望していますが、カリンたちにとっては最高の門出になったようです。
最後には、今回の「勇者御一行様」が歩んだ無謀な遠征ルートのマップを載せておきます。
こうして見ると、五歳児が歩く距離じゃないですね……
(笑)
これにて「五歳編」は完結となります!
次話からは少し時が流れ、成長した彼らが登場する新章がスタートする予定です。
ももっちの苦労がさらに加速する。ぜひお楽しみに!




