第二十二話:十回の鐘で俺が立ち上がったら、合格フラグが爆上がりした件
こんにちは!
今回の話は、ついに“ももっちのリベンジ回”です。
五年前の絶望を胸に、隠居を夢見る桃太郎が、どうやって平穏な日常と街を守るか――その葛藤と戦いを描きました。
カーン、カーン、カーン――。
また今年も、この季節がやって来た。秋祭りを前に街が浮足立つ、平穏な朝。
だが今朝、鐘は三回で鳴り止むことを拒絶した。
四、五……。(……っ!?)心臓が跳ねるように脈打つ。
六、七……。(来た。ついに来たのか……!?)
八、九、十。
街を震わせる十回の重低音。五年前、俺の「正解」を食い破った地獄へのカウントダウンだ。
(おいおい、今年は……奴は来るのか!)
リミバァの声を背に、俺は布団を跳ね除け床に立った。一歩、地面を踏みしめる。五年間、一度も来なかった 「リベンジの機会」 への鬱屈が、冷徹な闘志へ変わる。
(フン、それとも……恐れて逃げ出しやがったか?)
俺は力強く立ち上がった。待ってろ、虫ケラ共。俺はもう、泣き喚くだけの赤ん坊じゃない。
「桃太郎! そろそろ職場に行くよ!」
階下からリミバァの鋭い声が飛ぶ。俺は即座に表情を「無害な孫」に切り替えた。
「はーい! すぐ行くー!」
俺はリミバァと共に、職場である中央図書館へ向かう。街は秋祭りの準備で賑わい、「そこをもっと右だ!」「カボチャを運べ!」と威勢のいい声が響く。
(……この喧騒、悪くない。だが、奴らが来れば全部台無しだ。そうはさせねぇよ)
前方の広場から元気な声が響いた。
「ももっち! おばあちゃーん!」
カリンだ。一直線にリミバァへ駆け寄り、腰にぎゅっと抱きつく。
「おばあちゃん、大好き! ももっち、おはよー!」
「おいおい、相変わらずだな……朝からエンジン全開かよ」
カリンは笑顔を浮かべたままリミバァに抱きつく。
「だって、だってお祭りだよ!? ももっちは? また難しい顔して計算してたの?」
「俺はいつだって冷静沈着だ。お前みたいに浮き足立ってない」
「えー! ももっち、可愛くないなー!」
リミバァがクスクス笑う。広場の花々が朝日に輝き、景色がまぶしい。
(……ああ。だからこそ、守りきってやる。この街、この景色をな)
⸻
だが、その平穏を裂くように、空が異様な色に変わり始めた。
鳥が飛ばず、リスは木の上で固まる。――空が茶色に染まり始めた。
(……なにこれ。五年前より数が多い。十倍……いや、百倍か?)
風が寒い。ただの冷気じゃない。魔力が混ざった“冷たさ”だ。五年ぶりの「冬の洗礼」が、大発生で襲い来る。
「リミバァ、カリン! 避難してろ!」
俺は二人の制止を聞かず、入り組んだ街を疾走する。細い吊り橋を駆け抜け、街で最も高い断崖にそびえる「鐘の塔」を目指す。
塔の基部に絡む巨大な蔓を掴み、一気に登る。五年間、この瞬間のために鍛え上げてきた。
天空の回廊にたどり着き、巨大な銅鐘の隣で街を見下ろす。
(ここなら、すべてが射程内だ。五年前は見ていることしかできなかった……!)
(よし。これで行く。アルカナ数理、展開――)
農園の直前で群れを逸らす“風の誘導路”を作る。魔法陣を描き、空気を曲げ、虫の群れを押し流す。
その時、眼下に小さな影を見つけた。
(リミバァとカリン!? なんでこんな所まで来てるんだよ!)
パタパタと迫る羽音。リミバァにだけは見つかってはならない。ここで魔法がバレれば、俺の「平穏な隠居生活」という名の合格通知はシュレッダー行きだ!
(もう少しで終わる! 急げ、急げ、急げ!)
俺の頭が勝手に“正解”を弾き出し、魔力を編み上げていく。
(イヤイヤ俺は何をやってるーー!!)
ズガガガガガガッ!!!
翅の擦れ合う地獄の重低音。群れが、俺の作った風の壁に当たって方向を変える。
ゴォォォォォン!!
鐘の爆音に合わせ、俺は風の壁を最大出力で固定した。
(……成功だ!)
⸻
地上では、リミバァがはぐれた虫を素手で掴み取り、平然と噛み砕く。
「……ふん。今年は少し痩せてるね」
「えっ……おばあちゃん、今、食べたの……?」
カリンの手を強く引き、リミバァは塔の階段を駆け上がる。
塔頂上の重い石扉が勢いよく開く。
「ハァ、ハァ……ももっち!」
俺は一瞬早く魔法を霧散させ、振り返った。リミバァの目には何も映っていない。
だが――。
「……カン」
カリンが小さく呟く。身体がぶるっと震え、視線が俺の指先へ吸い寄せられる。
カリンの世界だけが、1秒だけ戻った。
時間が戻った1秒の中で、俺は魔法を完成させ、光が弾けた。
その光景を、彼女の瞳だけが鮮明に捉えた。
「すごい! 師匠、すごいよ! ももっち、すごい!!」
カリンは震えながら笑う。
リミバァは全てを察したように、不敵な笑顔を浮かべる。
「……ももっち。いま、魔法使ったでしょ?」
(……詰んだ。隠居という名の合格通知が、今ここで終わった。)
⸻
その夜。街は例年以上の熱気に包まれていた。
「農園が無傷だなんて、奇跡だ! ありがとう、桃太郎くん!」
黄金色に輝く麦の餅と、笑い声が夜空に溶けていく。
「あ、あはは! 俺なんて怖くて、塔の隅っこで震えてただけだよ……」
俺は精一杯の愛想笑いを返す。
隣のリミバァは何も言わず、不敵な笑顔で俺を見ていた。その目は「すべて知っているよ」と告げるように光る。
俺はリミバァから小さな餅を受け取り、口に運ぶ。
口いっぱいに広がる、懐かしくて、暴力的なまでの甘み。
「……俺は、このグリモワールドが好きだ」
込み上げる感情を止められない。
五年前の絶望を、自分の計算と努力で叩き潰した確信。
「おいしい……。おいしいよ、リミバァ……」
(……隠居したいのに、強くなる。イヤイヤ俺は何をやってるーー!!)
鼻の奥がツンとして、視界が滲む。
祭りの灯りが揺れる中、勝利の余韻と、正体がバレた絶望。
複雑すぎる感情の中で、俺は静かに、けれど激しく泣いた。
いやあ……ももっち、ついに勝利しましたね。
平穏な隠居生活を夢見ながらも、イヤイヤながら極めてしまう魔法と剣術……。読んでいて胸が熱くなる瞬間でした。
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ももっちの冒険はまだまだ続きます。次回も読んで、一緒にこの街の未来を見届けてくださいね。




