第四十七話:無事に再会したのに問題が増えた件
いつもお読みいただきありがとうございます。
高評価やブックマーク、とても励みになっています。
少しずつですが物語も核心に近づいてきました。
それぞれの思いが交差するこの場面、楽しんでいただけたら嬉しいです。
今回も、どうぞよろしくお願いします。
窓の外では、音もなく雪が降り積もっていた。
カリンは母・イザベラと向き合い、込み上げる想いを抑えながら、ようやくこの場所に辿り着いたことを実感する。
その静かな沈黙を、イザベラの問いが静かに破った。
暖かい暖炉の前で、火がぱち、と小さく弾けた。
揺れる橙の光の中で、イザベラはエドリックに視線を向ける。
「……このあと、どうするつもり?」
エドリックは少しだけ間を置いて、肩をすくめた。
「とりあえず、一旦戻るさ」
火を見ながら続ける。
「もしかしたら、白雪のほうが先に家に来てるかもしれないからな」
「……任務は?」
イザベラの声は、静かだった。
エドリックは一度だけ息を吐く。
「……あれは口実だ」
視線を上げずに、淡々と続ける。
「ここに入るためのな」
暖炉の火が、静かに薪を舐めていた。
しばらく、誰もすぐには言葉を続けなかった。
イザベラが、わずかに視線を落とす。
「……そう」
短い返事。
それだけで、責めるでもなく、驚くでもない。
ただ、納得とも違う、重い沈黙が落ちる。
カリンはその空気の中で、言葉を探せずにいた。
エドリックが小さく肩をすくめる。
「最初から、正面で通る気はなかっただけだ」
火を見たまま、少しだけ続ける。
「門の前で止められるくらいなら、理由を作った方が早い」
セレナが小さく息を吐く。
「……ずるいね、それ」
エドリックは苦笑にもならない表情で、短く答えた。
「現実的、って言ってくれ」
イザベラの指先が、暖炉の火にかざされる。
ゆら、と影が揺れる。
一方、桃太郎たちは――
幾日も野営を繰り返し、食料も底をつきかけていた。
薄く雪の残る森を、白雪は迷いなく進んでいた。
足取りに迷いはない。この辺りの地形は、身体が覚えている。
「……この先だな」
小さく呟く。桃太郎がその横を歩きながら問いかける。
「確信はあるのか?」
白雪は振り返らずに答えた。
「あるのだ」
短く、それだけ。
少し遅れて、マギ・オババが杖を突きながら息を吐く。
「やっぱり土地勘あると違うねぇ……」
白雪は一瞬だけ視線を落とす。
(おじいちゃん……)
思考の奥で、その言葉だけが浮かぶ。
そしてすぐに顔を上げる。「おじいちゃんの家は、もうすぐなのだ」
雪を踏む音が、わずかに変わった。
森の先に、建物の影が見える。白雪は足を止めない。
桃太郎も、それに続く。
マギ・オババが小さく息を吐いた。「……着いたねぇ」
扉の前で、白雪は一度だけ間を置き、そして静かに手を伸ばした。
軋む音とともに、扉が開く。
暖炉の火が視界に飛び込んだ。
そこにいたのはエドリック、カリン、セレナ、リミバァ。
数秒、誰も動かなかった。薪がはぜる音だけが、再会の沈黙を埋めるように響く。
最初に動いたのは白雪だった。言葉より先に、迷いなくエドリックへ飛び込む。
「……おじいちゃん」
その体温を確かめるように、強く抱きつく。
エドリックは一瞬だけ驚いたように目を見開き、それからゆっくりと、大きな手で白雪の背を包むように腕を回した。
「……来たか」
その声は静かで、どこか張り詰めていた心の糸が、わずかにほどけていた。
その様子を見て、セレナは小さく息を吐く。「……ほんとに会えたんだね」
リミバァは腕を組んだまま、目を細めた。「やれやれ……無事ならそれでいいよ」
その横で、カリンの呼吸が一瞬止まる。桃太郎の姿を見た瞬間、感情が溢れた。
「桃太郎……っ!」
次の瞬間、カリンは駆け出し、そのまま桃太郎に飛びつく。
桃太郎は不意の衝撃に一歩だけ後ろに下がるが、すぐにその身体を受け止める。
「……無事か」
カリンは何度も頷くことしかできない。溢れそうな想いを抑えるように、彼の胸に顔を埋める。
暖炉の火が揺れる中、それぞれの再会が静かに重なっていく。
最初の緊張がほどけると、部屋の空気は少しずつ軽くなっていった。
エドリックの視線が、不意に桃太郎とぶつかる。
「……お前が桃太郎か」
桃太郎は軽く頷く。「あんたがエドリックだな」
「話は聞いてる。厄介事に巻き込まれやすいらしいな」
桃太郎は肩をすくめる。「お互い様だろ」
エドリックが低く、射抜くような声で言う。
「――白雪を泣かせてないだろうな」
一瞬の間。桃太郎は小さく息を吐いた。
「……こっちが泣かされてる」
「……そうか」
エドリックは短くそれだけ言って視線を外したが、次に白雪を見る目は、ほんの少しだけ柔らいでいた。
ひとしきりの再会で、部屋の空気が温まったころ。
桃太郎がふっと視線を落とす。
その横顔に、影が落ちた。
「……一つ、話がある」
その一言で、部屋の温度が一段階下がる。
「ここに来る前……温泉地で、妙な奴に会った」
リミバァの眉が動く。
「妙な、ねぇ」
「そいつ――石盤を持ってた」
その瞬間、セレナの表情が凍りついた。
「セレナの家が代々守ってたやつだろ」
静かな声が、暖炉の暖かさをかき消していく。
セレナが一歩、前に出る。
「……本当に?」
桃太郎は頷く。
「ああ。間違いない。……戦ったが、捕まえきれなかった。……すまん」
沈黙。暖炉の火の音だけが、残酷に響く。
セレナはゆっくりと息を吸う。震えを押し殺すように目を閉じ、それから静かに開いた。
その瞳には、再会の喜びとは別の、鋭い決意の火が宿っていた。
「……取り戻す」
セレナの決意を、桃太郎はどこか遠い目をして聞いている。
本音を言えば、これ以上の厄介事は御免だった。
自らの計算と努力で正解をこじ開けてきた彼にとって、この理不尽な状況に関わるのは「計算ミス」に等しいはずだ。
「……はぁ」
隠しきれない重い溜息がこぼれる。
行きたくない気持ちとは裏腹に、彼はただ、静かに火を見つめていた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
高評価やブックマーク、そして感想をくださる皆さまのおかげで、物語を書き続けることができています。本当にありがとうございます。
再会の余韻とともに、新たな問題も動き出しました。
この先、彼らがどんな選択をしていくのか、引き続き見守っていただけたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。




