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第四十八話(前編): 石盤追って雪山行ったら厄介な匂いしかしなかった件

静まり返った部屋から、激しく雪が降り続く外の世界へ。

手元に残されたわずかな手がかりを頼りに、一行は再び白銀の静寂が支配する地へと足を踏み入れます。


一つの節目を越え、物語が次なる局面へと動き出す独特の空気感を感じていただければ幸いです。

暖炉の火はまだ、静かに揺れていた。


さっきまでの緊張が少しずつほどけ、部屋には落ち着いた空気が戻りつつある。その中で、誰かが動き出す前に、桃太郎は小さく息を吐いた。


「……で、どうするんだ」


投げやりというより、現実の整理だった。自らの計算と努力で正解をこじ開けてきた彼にとって、今の状況は「詰め切れていなかった自分」への苛立ちでもあった。


セレナが顔を上げる。


「どうするって……追うしかないでしょ」


桃太郎は視線を逸らす。


「やっぱりそうなるよな……」


嫌そうな声ではあるが、否定はしない。


リミバァが肩をすくめる。


「他に手もないしねぇ」


白雪がそっと手を挙げた。


「手がかりは、あるのだ」


全員の視線が集まる。白雪は自分の手首に触れながら

続ける。

お守り――

おじいちゃんからもらった石盤のカケラだ――が、ちょと前からほんのり光を帯びていることに気づいたのだ。


(……ここが……)


手に伝わる微かな温かさが、盗まれた石盤の位置を教えてくれている。

どこに逃げたのか、どこへ向かっているのか――お守りが確かに示していた。


白雪は視線を上げ、桃太郎たちにそっと告げる。


「……手がかり、見つけたのだ」


桃太郎は顔をしかめ、ため息をひとつ。


(……やっぱり、逃げるやつらを追うことになるのか……)


隠居生活希望なのに、またしても物語の中心に巻き込まれる現実を思い知らされる。


リミバァは肩をすくめ、セレナはうなずく。全員の視線が、自然と白雪の手元に集まった。


「なら……行くしかないのだな」


白雪の淡い決意が、静かに部屋を満たした。沈黙が一瞬だけ落ちた。暖炉の薪が、小さくはぜる音だけが部屋に響く。


その静けさを破ったのは、マギ・オババだった。


「……場所が分かるってのは、ずいぶん便利なもんだねぇ」


白雪の手元を一瞥しながら、細い目をわずかに細める。


「追うのは可能だよ。だがね、時間が経てば痕も薄れる。行くなら今だ」


その言葉に、空気がわずかに引き締まる。エドリックが静かに立ち上がった。


「……外は冷える。準備はしていけ」


短い言葉だったが、それで十分だった。カリンは一度だけ桃太郎の方を見る。その視線には、不安と、それでも離れたくない気配が混ざっている。


「……また、行っちゃうんだね」


桃太郎は一瞬だけ目をそらし、軽く肩をすくめた。


「俺の意思ってより、流れだな」


それ以上は言わない。言っても変わらないからだ。


セレナは一歩前に出る。「行く。取り戻すために」

その声には迷いがない。


白雪も小さく頷いた。


「……おじいちゃんの大事なものなのだ」


エドリックはそれを聞き、何も言わずに扉の方へ視線を向けた。


「なら、決まりだな」


ギィ、と扉がわずかに軋む。外には、変わらず雪が降り続いていた。


桃太郎はそれを見て、小さく息を吐く。


(……結局、こうなるんだよな)


望んでいなくても、いつも中心にいる。そして今回もまた、その渦の中へと足を踏み入れ、己の「計算」を修正していくことになる。


「……行くか」


誰に向けたでもない、その一言で。彼らは静かに、雪の世界へ踏み出した。


雪の上に、足跡が静かに伸びていく。エドリックの家を出てしばらく、森の中は不気味なほど静かだった。

白雪は先頭を歩きながら、時折手首のお守りに視線を落とす。


「……こっちなのだ」


迷いはない。桃太郎はその後ろを歩きながら、早くも軽く息を吐いていた。


(……初日からこれか)


隠居生活の夢は、雪と一緒にどこかへ消えていく。


「なぁ」


ふいにリミバァが口を開いた。


「方向、合ってるんだろうねぇ?」


白雪は振り返らずに答える。


「合ってるのだ」


即答だった。


「……その自信はどこから来るんだい」


「お守りなのだ」


「便利だねぇ……」


リミバァは半ば呆れたように笑う。その横で、カリンが小さく桃太郎の袖をつまんだ。


「ねえ、これ……ずっと歩く感じ?」


「たぶんな」


「えぇ……」


カリンの顔が少しだけ引きつる。セレナは前を見たまま淡々と言った。


「追跡なんて、そんなものだ」


「……だよな」


桃太郎は遠い目をした。


そのとき、白雪がぴたりと足を止める。「……あ」

全員が一斉に止まる。


「どうした」


「……おなかすいたのだ」


一瞬の沈黙。


「……今それ言う?」


桃太郎の声が雪に吸われていく。


リミバァが吹き出した。


「はは、戦いのあとで真っ先に来るのがそれかい」


セレナもわずかに肩を揺らす。カリンはほっとしたように笑った。


「じゃあ、どこかで休憩しよっか」


白雪は真剣な顔のまま頷く。「必要な判断なのだ」


「いや、判断じゃなくて本能だろそれ」


桃太郎のぼやきが、ようやく少しだけ軽くなる。エドリックが小さく息を吐いた。


「……昔から変わらんな」


その一言で、なぜか全員の歩幅が少しだけ緩んだ。


雪は相変わらず静かに降り続いている。だが、その中にほんの少しだけ、温度が戻っていた。


マギ・オババが、ふっと杖を突きながら目を細めた。


「……ひとつだけ、いいかい」


軽い声なのに、妙に引っかかる重さがある。


桃太郎が顔を上げる。


「なんだ」


オババは前方の雪原を見たまま続けた。


「そのお守りが示してる距離……かなりあるねぇ」


「遠いのか?」


リミバァの問いに、オババは曖昧に肩をすくめる。


「“普通の移動”の距離じゃない、ってだけさ」


それから少しだけ間を置いて、ぼそりと付け足す。


「……厄介な匂いがするよ」


白雪が小さく首をかしげる。


「匂い……?」


「気のせいならいいんだけどねぇ」


オババはそこで初めて、白雪の方をちらりと見た。


「ただ、油断はしないほうがいい」


それだけ言って、また歩き出す。桃太郎はその背中を見ながら、小さく息を吐いた。


(……嫌な予感、ってやつか)


ただ、何かが良くない方向に動いている――それだけは、全員がうっすら感じ始めていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。


白雪のお守りが示した「普通ではない距離」という不可解な事実、そしてマギ・オババが残した「厄介な匂い」という言葉。これらが、この先に待ち受ける旅路にどのような影響を及ぼしていくのでしょうか。


自らの計算が及ばない場所で蠢き始めた事態の正体とは。目の前に広がる雪原の先に待ち受ける新たな展開を、どうぞ楽しみにお待ちください。


また次回の更新も、よろしくお願いいたします

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