↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
81/85

7-7

 クレマンは苦悩に満ちた表情をしていた。カリーヌが昏睡状態に陥ってから三日経っていた。

 その間、クレマンは魔法でカリーヌを目覚めさせようと力を尽くしていた。しかし、何をしてもカリーヌを目覚めさせることはできなかった。

「わたしは無力だ……こんな時に何もできないとは」

 クレマンは研究室でミモザのスワッグを見つめた。カリーヌからの贈り物だ。

「カリーヌからは素敵な贈り物をもらっている。今度はわたしの番なのに……」

 贈り物は必ずしも交互に贈るものではない。しかし、カリーヌに何も与えられないことがクレマンを苦しませた。

「目覚めさせるのが無理なら目覚めた後に何か……」

 クレマンはカリーヌがいつかは目覚めることを信じている。もちろん根拠などない。それでも目覚めることを信じるしかなかった。

 自分に何ができるかクレマンは考えた。

 魔法。クレマンが贈れる特別なものだ。しかし、伝授するには長い年月がかかる。クレマンは魔法書を書き記すことにした。それを手にすれば誰でも魔法を発動することができる。

 どんな魔法にするか。カリーヌが喜ぶことは何か。

 カリーヌの好みをまったく知らないことにクレマンは愕然とした。懐いてはいるがカリーヌはクレマンの前では控えめだ。何を好きなのかもクレマンは知らなかった。

(どうしたら良いのか……)

 考えた挙句、クレマンはひとつの結論に至った。


『一度だけどんな希望も叶える魔法』


 これであればカリーヌが何を望んでも叶えられる。しかし問題もある。「水を飲みたい」という思いを叶えてしまうかもしれない。かといって何度でも願いを叶えてあげることはできない。

(普段の生活からかけ離れたものに絞れないか)

 それであれば日常的なものは排除できる。

 クレマンは、書棚から表紙にミモザが描かれた赤茶色した革表紙のノートを手に取った。クレマンのお気に入りのノートで、記入済みのものも含めると五冊ある。最初のページを開くと、慎重に魔法陣を描き始めた。

 最初の魔法には時間がかかり、描き終わって念を込めるまでに丸二日かかった。

 カリーヌはまだ目覚めていない。

(さて、この後はどうするか)

 願い事をひとつだけ叶えてやるのでもよかった。しかし、カリーヌが目覚めないのであれば、魔法書を充実させようとクレマンは考えた。

 どんな魔法を追加すれば良いのか。

 クレマンはもともと生活に関連した魔法を研究している。それならば生活に役立つ魔法で良いのではないかと考えた。それが一番役立つのではないか。

 それは最初の魔法にとっても有効だった。例えば荷物を軽くする魔法。ひとつ目の願いを叶える前に重いものを持ったとする。その時に「もっと軽ければ」と思ってしまったら、それが願いとして叶ってしまうかもしれない。しかし、軽くする魔法があればそちらが発動する。具体的な魔法を充実することで、本当の願いだけを叶える手助けになる。

 クレマンは色々な魔法を魔法書に書き記した。

 カリーヌが昏睡状態になってから七日が経った。クレマンは肝心なことが残っていることに気づく。

 魔法書の発動者だ。誰でも発動できてしまっては困る。しかし、個人名で発動者を特定できないことは経験から知っていた。魔法書が個人を識別できないからだ。その人物の性質で特定するしかない。

 クレマンが導き出した答えは、「死の淵から甦った者」だった。少なくともクレマンの周辺で該当するのはカリーヌだけだ。カリーヌが目覚めればの話だが。

 クレマンは魔法書に念を込める。昼から始めたが、終わる頃にはとっくに日が沈み夜も更けていた。

 ランプに灯りを灯し、クレマンは他にできることがないか考えていた。

 書棚の本を取りにいこうと立ち上がると、クレマンの体が大きく揺らいだ。疲労が溜まっていたのだ。手をついた弾みで机は大きく揺れ、置かれていたランプが倒れる。慌てて机の上の魔法書を取り上げるが、その手がランプを弾いてしまい、ランプは机の反対側に転がり落ちた。

 ランプの火が周囲の物に燃え移り、炎は瞬く間に大きく広がった。燃えやすいものが多かったのだ。

「いかん」

 クレマンの目にミモザのスワッグが映る。カリーヌからの贈り物だ。大切なものだ。それにカリーヌが目覚めた時になくなっていたら悲しむだろう。

 クレマンは炎を避けて壁際に向かう。スワッグを手に取り振り返ると炎はさらに広がっていた。

 炎を避けて扉に向かう。あまり片付いていなかったので床にも物が散乱している。おまけに疲労が溜まっていた。

 足がもつれてクレマンは倒れ込んだ。その拍子に足首を捻挫していた。

 炎はすぐそばまで迫っている。すぐに小屋から出なければならないが立ち上がれない。

 とうとう周囲を炎に囲まれる。

(ここまでなのか……)

 クレマンは魔法書を体の下に置き、その上にスワッグを置いて体をかぶせた。魔法書とスワッグだけは守りたい。スワッグはつぶれてしまうが燃えてしまうよりは良い。

 心残りは魔法書だ。カリーヌに伝えることができない。

(スワッグと一緒にカリーヌの手に渡ってくれ)

 それがクレマンの最後の願いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。